見出し画像

ヨースタイン・ゴルデル「ソフィーの世界」読書感想文

さっそく感想である。

まずは。
もっと早く、若いころに読みたかったと思った。
哲学ってなんだろうというモヤモヤが、だいぶなくなった。

おもしろいと感じるのは最終章か。
ファンタジーになっていくところかな。

ファンタジーはさほど好きではないけど、この本ではすごくおもしろいと感じた。

あとはなんだろう。
読むのに時間はかかったけど、様々な知識が得れる。
何度でも読んでみたい。

はじまりは、ポストに投函された手紙。
副題に “ 哲学者からの不思議な手紙 ” とあるように。
ある日、いきなり届く。

ソフィーに。
ノルウェーに住む14歳の女の子に。

差出人は、自称、哲学者のアルベルト。
便箋には「あなたはだれ?」とだけある。
ソフィーには、まったく心当たりがない。

なぜ、ソフィーの元に突然に手紙が届くのか?
いや、それよりも、アルベルトとは誰なのか?

※ 筆者註 ・・・ 以下、ちょっと長め感想文です。できれば4000文字以下にしたいのですが、今回は7500文字になってしまいました。本も667ページの厚いものとなってます。本書で取り上げられている哲学者はすべて抜粋しました。


ホメロスからはじまる

不思議な手紙は続いて届く。
哲学の問いを投げかけた内容だ。

突然だし、不思議なままだったが、14歳の女の子の好奇心は、それらも元気に取り込んでいく。

手紙は、ギリシャ哲学のはじまりを説いていく。
14歳のソフィーが読んでもわかりやすい。

どのような哲学者が、手紙では解説されているのか?

以下は、登場する順の哲学者となる。


ホメロス、ヘシオドス 
紀元前以下BC)700年 

神話を書物にまとめた。


クセノファネス
BC 570年

「人間は神々を妄想する!」と神話批判をする。


タレス
BC 624 - 546

日食を観測。
影の長さからピラミッドの高さを算出した。
最初の哲学者といわれ「水がすべての起源」と唱える。


・・・ で、この本は、667ページで厚い。
ざっと3分の2弱ほどは、哲学について書かれている。

とはいっても相手は14歳の女の子だ。
話し言葉で、やさしく哲学は解説される。

で、ソフィーも哲学など知らなかったが、好奇心を刺激されたようだ。
たちまち哲学の世界に魅了されていく。

ソフィーが突然にして、古代ギリシャ哲学の話題を振ってくるものだから、キッチンで料理などしていた母親は驚いて慌てる。

ドラッグの使用を疑って、ソフィーを問いただしたのがクスリとさせた。

ダジャレではない。

単行本|1995年発刊|667ページ|NHK出版

翻訳:池田香代子

監修:須田朗

ギリシャ哲学は続く

差出人不明の手紙は、ポストに直接に投函され続ける。
ソフィーは、いつ手紙が届くのか見張ってもいる。

が、いつの間にかだ。
ポストを確めると投函されているの。

不思議というより不気味ではあるが、ソフィーは手紙を楽しんで読んでいる。

手紙で解説されていく哲学者とその言は、以下の順となる。


ヘラクレイトス
BC 540 - 480

「万物は流転する」


エンペドクレス
BC 494 - 434

「物質は、土・空気・火・水、の4つの元素でできている。


アナクシマントロス
BC 610 - 547

「世界は何かから生まれて、何かが消えていく、たくさんの世界のひとつに過ぎない」


アナクシメネス
BC 570 - 525

「空気、ないし息があらゆるものの元素」


アサクサゴラス
BC 500 - 428

「自然は、たくさんのちっぽけな部分が組み合わせってできていて、その小さな部分は目に見えない」


デモクリトス
BC 460 - 370

「すべては、目に見えないほどの原子が組み合わさってできている」


ヒポクラテス
BC 460頃

「健全な魂は、健全な肉体に宿る」


・・・ 驚きではないか!
デモクリトスなどは、すでに “ 原子 ” の存在を口にしているのだ。

ソクラテスが登場

哲学について書かれてはいるが、哲学者が唱えた概念は、細かくは解説されない。

その分、歴史背景やエピソードが多く書かれる。
哲学を全く知らない初心者には、そのほうが理解しやすい。

書かれている哲学者とエピソードは、以下の順となる。


ソクラテス
BC 470 - 399

「アテネはクズなロバのようだ。自分はロバをシャキッとさせるために脇腹を差す虻のようなものだ」

各方面への批判をやめることがない。
若者を堕落させて神々を認めない、という罪で死刑判決。

良心と真理を命より大切にして、毒ニンジンの盃を飲み干す。


プラトン
BC 427 - 347
ソクラテスに師事

「ソクラテスの弁明」を著す。
“ アカデミア ” と呼ばれる学校を設立。
アカデミーの語源となる。

“ イデア説 ” を唱える。
ギリシャ語の “ イデア ” とは「見る」という意味。
現在の “ メディア ” とか “ ビデオ ” に通じる。

「世界のあらゆるものは土と埃で出来ている。それらはおびただしく現れては消えていく。それらは永遠不変のフォーム(型、魂、雛形とも)の影である。フォームはイデア界にある」


アリストテレス
BC 348 - 322

プラトンのアカデミアで20年学ぶ。
170以上の著作を残す。
47篇が現存する。


・・・ ソフィーの素朴な疑問も交えながら進んでいく。
手紙については不思議だらけだけど、混乱なく読める。

楽しい気持ちと不思議さが、ちょうどいい具合に保たれる読書となっている。

増えていく疑問

また手紙は投函された。
差出人の正体は不明なまま。
そして、不思議さはまだある。

手紙では哲学の解説がされるのだけど、その終わりに、1行か2行ほどの短い伝言が添えられているのだ。
ソフィーには関係ない、突飛もない伝言だ。

伝言は “ ヒルデ ” に送られている。
ソフィーは全く知らない名前だ。

今までの伝言を繋ぎ合わせていくと、ヒルデは女の子。
同い年。
少し離れた市に住んでいる。

伝言の送り主は、ヒルデの父親。
その父親は、国連軍の大佐をしている。
今は、レバノンに駐留している。

もうすぐ迎える、ヒルデの誕生日を祝う言葉もある。
生活や勉強の心配もしている。

近々に、ノルウェーに帰国するのが決まっていて、その日が待ちどうしいともある。

ヒルデへの伝言は、放置してもいいのか?
けっこう重要な伝言ではないのか?

それなのに、どうして直接にヒルデではなくて、ソフィーの手紙に伝言があるのか?

ソフィーとヒルデは、関係があるのか?
ヒルデの父親は、なんのために伝言を添えているのか?

どのような経緯で、そうなるのか?
この手紙の差出人は、ヒルデの父親なのか?

ヘレニズム文化に進む

疑問だらけだが、哲学の解説はしっかりしている。
手紙は続けて投函された。

哲学は、ヘレニズム文化に進む。
解説されるのは、哲学者に留まらない。
以下の順となる。


アレクサンドロス大王
BC 356 - 323
マケドニアの国王

ペルシアに勝利して、エジプトやインドにまで大遠征をおこなう。

これによりオリエント文明とギリシャ文明が結びついた。
国や民族、文化や宗教の仕切りが取っ払われた。
哲学、科学、宗教が混交される。

そうして生まれた “ ヘレニズム哲学 ” は、それほどオリジナルではなかった。

ソクラテス、プラトン、アリストテレスが提起した問題が深く掘り下げられた。

アリストテレスが亡くなるころ、アテネはギリシア世界でのリーダーではなくなるが、文化の主導権は持つ。


アンティステネス
BC 400年ころ
“ キューコス学派 ” を形成

「本当の幸せは、物質的な贅沢や、外面的な権力とは関係ない。健康のために心をわずらわせることもいらない。ほかの人の災いを気に病んでもならない」


ゼノン
BC300年ころ
“ ストア学派 ” を創始

ほかの文化をどんどん受け入れて社会を論じて、政治に関心を寄せた。

「すべての人間は同じ理性を持っている、いろいろな目でつくられる法律はまがい物だ」

ギリシアの文化と哲学を戒める。
コスモポリタン(国際人)や人間中心主義(ヒューマニズム)の概念にもつながった。


エピクロス
BC300年ころ

“ エピクロス学派 ” を創始。
シニカルという言葉が派生した。

「今を生きよ!快楽は至高の善である!心の平安にもなるし、苦痛を耐え忍ぶ助けにもなる!」


・・・ 本文には、哲学者のエピソードもふんだんに書かれている。

が、残念なことに、自分は知らない人物ばかり。
まずは名前を覚える読書となっている。

キリスト教が飲み込んでいく

やがて、ソフィーの疑問はひとつ解ける。

手紙の差出人のアルベルトだ。
ソフィーの前に姿を現したのだ。

アルベルトは、温和な中年男だった。
講義の目的は明かさない。

が、ソフィーは哲学に夢中になっているので、細かいことは気にせずに講義を受け続ける。

講義は手紙ではなくて、アルベルトから直接となっていく。
場所は教会だったり、街中のカフェだったり、アルベルトのアパートだったり。

取り上げられる人物は以下である。


イエス
AC 0

解説はなく、名前だけ出して素通り気味。
なんにしても、西暦(以下AC)となる。


パウロ 
AC 5 - 40

キリスト教伝道の旅をする。
アテネで、エピクロス学派やストア学派と対話がされる。

ギリシアとローマの主だった町に、キリスト教徒のグループができてくる。


プロティノース
AC 204 - 269

“ 新プラトン学派 ” と呼ばれた哲学の一派の重要人物。
ローマ帝国に一種の救いの教えをもたらす。

力を増してきたキリスト教と張り合うことになるが、一方でキリスト教神学に強い影響を与えたりもした。


コンスタンティヌス1世
AC 270頃 - 337
ローマ帝国皇帝

313年、キリスト教の禁制を解く。
これにより、キリスト教がローマ帝国の国教となる。
ローマはキリスト教の首都となっていく。


アウグスティヌス
AC 354 - 430

「プラトンのイデアは神の中にあった!」

そう唱えて、新プラトン学派、マニ教、キリスト教を習合させる。

529年には、プラトンのアカデミアが閉鎖。
代わりのようにして “ ベネディクト修道会 ” が創立される。
ギリシア哲学は、キリスト教会に幕を引かれたのだ。

以降は。
修道院の神学が、学問の伝授や思索を一手に引き受ける。
「中世」と呼ばれる1000年の時代がはじまる。


トマス・アクィナス
AC 1255 - 1274

アリストテレスの哲学と、キリスト教の教義を合体させた。
難しいことをやってのけたという意味で『雄牛の角を素手でとらえた』と評される。


・・・ キリスト教が、どんどんと様々な哲学を飲み込んでいって神学を確立させていくのが理解できた。

で、ソフィーである。
嬉しそうに出かけていくソフィーを見て、母親はボーイフレンドとデートすると思っている。

ところが。
ソフィーは哲学の講義を受けているとサラリという。
相手は中年男性だという。

驚く母親は「1度、アルベルトさんとお話がしたい」と血色ばんで慌てている。

いくら北欧とはいっても、当たり前だ。
14歳の女の子に、哲学の講義をする中年男性なんて怪しすぎる。

ルネサンスの哲学

哲学の講義は、ルネサンスに進む。
アルベルトは、哲学をわかりやすくソフィーに教えて、考えさせて、理解を深めさせる。

ここで取り上げられる人物は、順に以下となる。


マルシリオ・フィチーノ
AC 1433 - 1499

ルネサンスの中心人物となる。

「神は自然界にいる!」


ニコラウス・コペルニクス
AC 1473 - 1543
ポーランド、天文学者

地動説を提起して「天体の回転について」を著す。


マルティン・ルター
AC 1483 - 1546
ドイツ、神学者

聖書をドイツ語に翻訳。
宗教改革を唱える。

「聖書がすべてだ!」


ガリレオ・ガリレイ
AC 1564 - 1642
イタリア、科学者

「自然という書物は、数学という言葉を使っている!」


ヨハネス・ケプラー
AC 1571 - 1630
ドイツ、天文学者

惑星は、太陽を中心に楕円軌道を描いて動いていると証明する。


・・・ こっちの人がこう言ったから、あっちの人がこう考えた、という影響を教えていく。
哲学というのは、過去からきているのが理解できた。

近世の哲学

アルベルトの話し方は優しい。
ソフィーの質問には、丁寧に答えていく。

手紙は、予習という形で届いている。
が、ヒルデの父親からの伝言つきのままだ。

ヒルデへの伝言は溜まっていくばかり。
誕生日は、もうすぐなのだ。
父親がレバノンから帰国する日も迫っていた。

伝言は、ヒルデに伝えなくてもいいのか?
そもそも、ヒルデはどこの誰なのか?

ソフィーは、それらをアルベルトに聞く。
が、口ごもって、話をそらされるばかりだった。

哲学の講義は、しっかりと続けられる。
ルネサンスをす過ぎると、科学者も交じるようになる。

取り上げられる人物は、順に以下となる。


ルネ・デカルト
AC 1596 - 1650
フランス、数学者

「方法序説」を著す。

ルネサンスで自然と人間が再発見される。
人々は興奮状態にあった。

それが収まると、体系にまとめる文章が興った。
その体系をつくった第1号がデカルト、とのこと。


バルフ・スピノザ
AC 1632 - 1677 
オランダ

「神、すなわち自然!」

無心論者として家族から見放される。
光学ガラスを磨くことで生計をたて哲学に没頭した。


ジョン・ロック
AC 1632 - 1704
イギリス

「人間知性論」を著す。


アイザック・ニュートン 
AC 1642 - 1727
イギリス、物理学者


ジョージ・バークリー
AC 1685 - 1753
アイルランドの主教


デイビット・ヒューム
AC 1711 - 1776
イギリス

「人間本性論」を著す。

・・・ ブッダとヒュームの言葉は気味がわるいほどそっくり、とあるのが関心を引く。


ジャン・ジャック・ルソー
AC 1712 - 1778

「自然に帰れ!」


イマニヌエル・カント

1724 - 1864
ドイツ

大学で哲学を教えた初めての人。
プロの哲学者。
ヒュームの次に体系をつくった。


・・・ わかりやすい。
それでいて簡単すぎなくて、ほどよく難しい。
こういうのが、読むのを飽きさせない。

不可解な出来事

近世の哲学の講義が進むにつれて、手紙の伝言は、不思議な出来事をいくつも起こす。

伝言によると、ヒルデはソックスを失くしたらしい。
そのソックスが、なんとソフィーの部屋で見つかる。

ある伝言には、先日にソフィーが道で硬貨を拾ったことが書かれている。
誰も知っているはずないのに。

アルベルトが不意に、突飛もなく、ヒルデへの心配を口にしたりする。

ソフィーは問いただす。
が、アルベルトは、とぼけるわけでもなく首をかしげる。

極めつけは、空にあるアドバルーンだ。
窓の外に浮かぶアドバルーンには、ヒルデの誕生日を祝う横断幕があったのだった。

わけがわからない自分と、同じくムキになるソフィーをからかうようにして。

この説明がつかない、ありえない出来事はなんなのか?
ヒルデの父親も、アルベルトも何者なのか?
両者はどのような関係なのか?

アルベルトは何を知っていて、何を隠しているのか?
そもそも、哲学の講義は何のためにしているのか?

まさかとは思うが・・・。
こうまでして引っ張っておきながら・・・。

なんでもありのファンタジーで強制終了になるのか?

近世の哲学へ

近世の哲学に差しかかるころ。
すべての疑問が明かされた。

ソフィーが体験している出来事は、実はヒルデの父親が書いた物語の中だったのだ。

言い換える。
ヒルデの父親が書いた物語の中に、ソフィーがいた。

ヒルデの父親によって書かれた世界だったから、ありえない出来事もおきた。

詳しく補足する。

父親は、娘のヒルデにわかりやすく哲学を伝えようと「ソフィーの世界」という題名の本を書いたのだ。

娘が、オカルトやインチキ宗教にはまらないように、と哲学をテーマにして書いたのだった。

すでに「ソフィーの世界」は書き上げられていて、ヒルデへの誕生日プレゼントとなっていた。
ヒルデへの伝言は、心配しなくても届いていたのだった。

哲学の講義は、本を読むヒルデに対して続けられる。

で、近世の哲学は続く。
取り上げられている人物は以下である。


ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル
AC 1770 - 1831

当時のヨーロッパの思想の中心となりつつあるドイツで、ベルリン大学の教授となる。


セーレン・キルケゴール
AC 1813 - 1855

ヘーゲル死後のベルリン大学で学ぶ。


カール・マルクス
AC 1818 - 1883

キルケゴールと同時期にベルリン大学で学ぶ。


チャールズ・ダーウィン
AC 1809 - 1882
イギリス、生物学者

「種の起源」を著す。


ジークムント・フロイト
AC 1856 - 1939
オーストリア、心理学者

『深層心理学』『精神分析』という分野をつくった。


・・・ それにしても。
ソフィーが、本の中だったとは。
こうなるとは、まったく予想がつかなかった。

で、ヒルデである。
もう少しで「ソフィーの世界」を読み終えようとしている。

ヒルデも、哲学を学習できてはいる。
が、別のところで不満がある。

同い年のソフィー。
哲学を知り、世界と自分を知りかけているソフィー。

この本を読み終えたなら、ソフィーが本の中に閉じ込められる気がするからだった。

講義は終わる

哲学の講義は続けられる。
今度はヒルデに。

そして、ちょうどというか。
ついにというようにして現代に至る。

最後に挙がる哲学者は、以下の2名となる。


フリードリヒ・ニーチェ
AC 1844 - 1900

「神は死んだ!」


ジャン=ポール・サルトル
AC 1905 - 1980

「人間は自由の刑に処されている!」


現代となって「ソフィーの世界」は終わった。
本は閉じられた。

「これで終わりなの?・・・この続きは、わたしが書けってこと?」と、ヒルデはつぶやく。

「ソフィーの世界」は続いていく

「ソフィーの世界」は終わった。

終わったはず。
が、間際だった。
ソフィーとアルベルトは本から抜け出す。

状況としては、2人がガーデンパーティーから抜け出すと、ヒルデの世界になっている。

ヒルデの父親の手から逃れようと、自らの意志を持って、2人は本から抜け出したのだった。

「ソフィーの世界」は、ファンタジーとなって続いていく。
誰かが、ソフィーとアルベルトを、再び動かしはじめていた。

・・・ 想像させるし、想像となる。
以降は、ヒルデによって書かれたのではないのか。

大人になったヒルデが、当時を思い出して書いた。
で、父親は、当時に死亡している。
一時帰宅したあとに、レバノンで死亡した。

なんとなく、そんな想像が浮かんできた。

ラスト10ページほど

本から抜け出したソフィーとアルベルトは、遠い街に住むヒルデに会いにいく。

2人の姿は、一般の人には見えない。
見えない車も手に入れる。
アルベルトが高速道路を飛ばした。

ヒルデが住む街についた。
道路の脇に車を止めた。

そこからは、ヒルデが見える。
レバノンから一時帰国した父親も一緒にいる。
夜の湖のほとりで、親子で座って話している。

「ソフィーの世界」の先の、現代の哲学よりもずっと先の、宇宙の成り行きまでを親子は語りあっていたのだった。

父親は話す。
宇宙は150億年をかけて膨張していく。
そして今度は、あらゆる物質と共に縮小していく。
現在の科学では、そういわれている。

夜空には星が輝く。
繋いであるボートが揺れた。
父親は娘に言う。

「人は死んだら星になるんだよ」

ヒルデは、その意味が十分に理解できた。

ソフィーは車から降りた。
姿が見えないままのソフィーは、親子に近づく。

すぐ近くまで歩いたとき。
少しの風が、ヒルデの頬を撫でた。
それが、ソフィーの存在を感じたときだった。

この記事が参加している募集