映画『哀れなるものたち』 12名での感想戦
2024年3月1日(金)、旭川市立大学211教室にて映画『哀れなるものたち』について話す会*1 をやりました。参加者は、大学教員、大学生、専門学生、一般など12名です。学内外からたくさんの人が来てくれました。ありがとうございます。さまざまな方に参加してもらい、所属や立場に関係なく、楽しく議論ができることを大変嬉しく思っています。
現在公開中の映画ですから、事前に劇場で見てきてもらい、当日ディスカッションのみ行う形式をとりました。論点を定めて話がしたいと思い、ディスカッションテーマにしたがって進行しました。
ディスカッションテーマ
1. 「本」を手渡してもらったことはあるか?「本」を共有しているか?
船のパートに関わるディスカッションテーマです。ゼミ生が「ゼミとこの会が『本』を共有する場だと思っています」と話してくれて嬉しかったです。文脈を理解してくれる人がいてくれてありがたいです。
参加者から「マーサが老婦人(ベラにとって年長者)であることの意味についてどう考えますか?」という質問があり、私は「年齢じゃないよね、を示すキャラクターなのでは」と答えました。鑑賞直後、友人と「初対面とか年齢差とか関係なく親しくなるのがいいよね」「聞いたことに率直に答えてくれるって素敵だよね」という感想を交わしていたので、そのようなエピソードも紹介してみました。その後も「知識の継承が…」と続けておられたので、納得してもらえなかったようですが笑。
私は、「上」から「下」へ受け継がれるという感覚がかなり薄いです。師匠はすごい人ですが、師匠が「上」で私が「下」という振る舞いをされたことはありません。
また、ここでの重要な点は、マーサとベラは師弟関係ではない友人同士であることです。船のパートは、教育の場でも何でもないところでだって伝え合ったり助け合ったりできることを示していると考えています。だからこそ、今回テーマに共有ということばを入れました。
2. ベラとともに進化できるか?それとも変われずに退化してしまうか?
公式パンフレットにあった「進化/退化」を借用して、ディスカッションテーマを設定しました。私の理解では、弁護士ダンカンは進化できずむしろ退化し、町医者マックスも特段進化せず、科学者ゴッドウィンだけがともに変化したという認識です。
このテーマでもゼミ生が活躍していました。「かつての自分とは違う自分になれているから、これからも変わり続けたい」「以前は、『結婚したらパートナーには当然専業主婦になってもらう』とゼミでも言っていて…」という話を披露しており、爆笑をかっさらっていました。鉄板ネタですね。
さらに、「好きな人に置いていかれたくないから頑張る」という意見も出ていました。どうですか、この美しい感性。世のダンカンに聞かせたいよ!
3. 「切除」に対してどう思ったか?
ベラの過去パートに関わるテーマです。私は、女性の身体を軽んじる社会に激怒しているので、みなさんと考えたいなと思い、ディスカッションテーマに設定しました。
ファシリテーターは、「(より広い意味で)女性を軽視したり権利を奪ったりして『切除』したことはないですか?」と上手く問いかけていました。参加者から「心当たりがない」という回答があり、仰天しました。大胆!
他方、男性社会でいかにサヴァイブしてきたかを語ってくれたかっこいい参加者もいて、自分の話ができるかどうかの分岐点を考える機会になりました。自分の話ってかえってハードルが高いのでしょうか?これらの参考文献が何かきっかけになるかもしれません。
現実に立ち顕れるPoor Things
会を終えて、(これがPoor Thingsってコト!? )*2 となりました。「哀れな」「可哀そうな」部分を自覚するって難しいですね。仮に、上記の参考文献を読んだとしても、自分自身は取り除いて考える人も多いように思います。自分の中に、ベラもダンカンもマックスもゴッドウィンもハリーもいるはずなのに。不思議。
私、映画『TAR』(2022)が好きなんですけど、鑑賞後すぐに「私が失敗している時は指摘してくれよな!」って同行者にお願いした記憶があります。己の「哀れな」部分に敏感でいたいですし、それで失敗している時は指摘してもらえる関係性を周りの人と築いていたいです。
答え合わせとして原作を読む
後日、小説『哀れなるものたち』を読みました。アラスター・グレイによる原作小説です。
傑作ですね!想像以上でした。映画を見て、(許すまじ)と感じていたことへの回答があり、すっきりしました。映画と原作を照らし合わせてみると、無用なアレンジがないということがわかります。すごい監督だ。改めて「何がPoor Thingsなのか」の表現にこだわっていることにも気づけました。
アカデミー賞4部門受賞で弾みをつけて、映画がより多くの人に見られ、原作小説もより多くの人に読まれることを願います。度肝、抜かれて♡己の「哀れな」ところ、考えて♡
注記
*1 サブゼミとして、映画、小説、漫画などさまざまなメディアを題材に話す会を主催しています。ゼミ生を中心に、学生、教員、職員、実務家と色んな人が参加します。私と領域の異なる研究者、マーケティングリサーチャー、社会活動家、記者などがゲストとしてこれまで来てくれました。ちなみに今回もマーケティング論、政治学、芸術学、農業経済学と大乱闘スマッシュシスターズ&ブラザーズ(?)でした。
*2 ちいかわの絵で再生してください。
初見の感想
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