三毛猫ミーのクリスマス 第4話 島の広さは千葉ネズミーランド半島の約二倍ニャ

 https://note.com/tanaka4040/n/n64b63b8a5ce8から続く

あたしたち猫にとって、散弾《さんだん》銃の重低音《じゅうていおん》は、虎《とら》のような捕食《ほしょく》動物の咆哮《ほうこう》を連想《れんんそう》させる。まだ耳鳴《みみな》りが止《や》まない。

「銃で撃《う》つなんて、ひどーい」

 あたしは砂埃《すなぼこり》を払いつつ、正確には、舌《した》で毛繕《けづくろ》い(グルーミング)しながら、立ち上がった。グルーミングには、緊張《きんちょう》を和《やわ》らげる効果もある。

「あれは空砲《くうほう》だよ」
 まだ緊張がほぐれていない様子の黒い仔猫も、グルーミングしながら説明してくれた。

「僕の名前は黒猫《くろねこ》クー」
「三毛猫《みけねこ》ミーよ。宜しく。あんた耳鳴りしないの?」

「うん。散弾《さんだん》銃を持ったローコーが現れた時、耳を後ろにペタッと倒して、音を塞《ふさ》いだからね」

「ローコーって?」
「銃を撃った人さ。みんな、ローコー大統領《だいとうりょう》って呼んでるよ」

ローコー大統領

「大統領?」
「この無人島を買って、猫の楽園にした人さ」

 この島へ移り住む以前は、ボランティア活動で、捨て猫を保護していたが、次々と猫を拾ってきては飼うものだから、家中が猫だらけになってしまい、家の中に収まりきれない猫や、外出好きな猫が頻繁《ひんぱん》に出入りすることもあり、近所からクレームが来るようになったため、還暦《かんれき》を境に、経営していた会社と邸宅を売却《ばいきゃく》し、この無人島を購入《こうにゅう》し、移り住んだらしい。

「ローコーは動物好きだからね。どんな動物だって殺さないよ」
「カラスみたいな害鳥《がいちょう》でも?」

「害《がい》があるか無いかは、被害者《ひがいしゃ》の発想だって、ローコーが言ってた」
「確かに、害があるから害鳥だし、害がなければ、害鳥じゃないからね」

「反対に、猫や人間に食べられちゃう魚や、鳥などの被害者側からすれば、猫や人間こそ、自分達を殺傷《さっしょう》する害悪《がいあく》そのものだって」
「ふーん。猫も人間も、自分が加害者《かがいしゃ》だなんて、夢にも思っちゃいないんだけど、ね」

三毛猫《みけねこ》ミー

「加害者は、危害を加えていることに気づかないものなんだって」
「そういうものかもね。気をつけなくちゃ、ね」

「被害者になれば、誰が加害者なのか、分かるって」
「弱き者が害され、強き者が害する、弱肉強食《じゃくにくきょうしょく》の法則だね」

「害を加えるために生きている生物なんか、いないってさ」
「あたしの耳鳴《みみな》りだって、危害を加えられたといえば、害だけど」
「僕にすれば、救いの音色《ねいろ》だったよ」

「とにかく、話の続きは、この草原を離れてからにしよう」
 空飛ぶ犬と呼ばれるほど賢《かしこ》いカラスが、復讐《ふくしゅう》しに戻って来る危険性は高い。この場《ば》は危ない。

「わかった。この猫ヶ原《ねこがはら》の隣の、猫ヶ森《ねこがもり》へ行こう」
 草原を駆け抜け、樹木が生い茂る森の中へ入ってしまえば、もう猫たちのもの。

 水溜《みずたま》りの水を飲んで喉《のど》を潤《うるお》していると、噂《うわさ》のローコー大統領が、林道《りんどう》を自転車で影のように通り過ぎて行くのが見えた。

 あたしは黒猫クーへ、
「こんなデコボコ道をカッ飛ばすなんて、ローコー大統領は体力があるんだね。それにしても、何を急いでいるの?忙しいの?」
と訊ねた。

 黒猫クーの話によると、島の各所に設置された猫のエサ場《ば》へ、早朝と、夕方の二回、エサを届けているらしい。広い島だから、急がなければ、餌《えさ》やり巡回《じゅんかい》だけで、日が暮れてしまう。

 黒猫クーが、博学《はくがく》な猫から聴《き》いた話によると、この島の面積は、モナコ公国よりやや広く、米国《アメリカ》ニューヨークのセントラルパークよりやや小さい。

猫が島

 数値で表すと、日本の千葉県にある千葉《ちば》ネズミーランド半島《はんとう》の約二倍。一平方マイル。三キロ平米。

 外周《がいしゅう》は約十キロメートルで、東京の山手線の三分の一弱。猫が全速力で走れば、十数分で一周できる。

 人が歩けば四時間以上かかるらしい。海底火山が洋上《ようじょう》へ突《つ》き出した火山島《かざんとう》なので、起伏《きふく》に富んでいるのだろう。

 猫ヶ島《ねこがしま》に生息《せいそく》する数千匹分の猫エサのうち、カリカリと呼ばれるドライフードや、缶詰、レトルトパックは、各エサ場《ば》の小屋に備蓄《びちく》してあるものの、それらを開封《かいふう》するだけで時間がかかるのに加え、病気や怪我《けが》の猫それぞれの症状《しょうじょう》に合わせて調薬《ちょうやく》した薬《くすり》入りのエサを運ばなくてはならないため、雨の日も、風の日も、ローコー大統領は、詰め込んだエサでパンパンに膨《ふく》らんだリュックサックを背負《せお》い、朝晩二回、外周十キロを自転車で走り回っているというのだから、老人にしては筋骨《きんこつ》が引き締まり、体力があるわけだ。

「僕たちも朝ごはんを食べに行こう」
と、黒猫クーは走り出した。エサ場の第一ポイントは、大統領ローコー邸《てい》だという。

 大統領の家なんだから、さぞかし豪華《ごうか》な邸宅《ていたく》なんだろうと、あたしは期待に胸を膨《ふく》らませつつ、黒猫クーの後に続いた。

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