クッキング・マーケティング

食品メーカーの企業レシピ本


企業レシピ本。ご存知ですか?
食品メーカーが、自社の商品を売るための販促本

……ではなく、自社製品を用いた 調 理 法(レシピ)の本です。
ザッと一覧にしてみますと、

  • ・キユーピーのマヨネーズレシピ

  • ・ヤマザキパンでつくる魔法のレシピ

  • ・減塩&ヘルシー! ポッカ社員公認レモンレシピ ~ポッカ自信の84品

  • ・ヤマキの秘伝めんつゆレシピ

  • ・S&B本生 生しょうがたっぷりレシピ

  • ・月桂冠社員の酒粕レシピ

  • ・森永ミルクキャラメルレシピ100

  • ・日本一お酢を売っているミツカン社員公認お酢レシピ

  • ・京都・丸久小山園に教わる 老舗の抹茶おやつ

  • ・サッポロ一番みそラーメンレシピ(サンヨー)

  • ・おかめちゃんのアイデアいっぱいお豆腐レシピ(タカノフーズ)

  • ・お豆腐屋さんの とうふレシピ(もぎ豆腐店)

  • ・ヘルシー&超時短! シーチキンレシピ(はごろもフーズ)

  • ・マルちゃん焼そばレシピ(東洋水産)

  • ・世界で愛されているデルモンテのトマトジュースレシピ(キッコーマン飲料)

  • etc.

こうした企業レシピ本の嚆矢は、2010年に出版された
・体脂肪計タニタの社員食堂 500kcalのまんぷく定食(500万部!)
でしょう。映画にもなりました。

500万部ということは、最低でも、印税5億円!
宣伝効果も含めれば、何十億、何百億になるのでしょう?
こうなると、営業外収益どころの話じゃありません、もはや立派な、レシピ本ビジネスです。

食品メーカー以外の企業レシピ本

食品メーカーのみならず、ガス、通信、化粧品メーカー、病院、製薬会社、大学等のレシピ本もあります。

  • ・東京ガスのお弁当レシピ

  • ・おもいやり食堂 健康レシピ - NTTグループの社員食

  • ・女子栄養大学のカフェテリア

  • ・POLAの美肌食堂 ~体の中から美しくなるアンチエイジングレシピ~

  • ・ロート製薬のスマートごはん

  • ・日本マイクロソフトの社員食堂 野菜たっぷり! デリレシピ63

  • ・マイヤー電子のレンジ圧力鍋で作る野菜たっぷりレシピ

  • ・アルソア化粧品のオーガニック社員食堂の美肌ごはん

  • ・山王病院の女性ホルモンでキレイになる定食

  • ・聖路加国際病院の愛情健康レシピ

  • ・500kcal台のけんこう定食(せんぽ東京高輪病院)

  • ・ニッポンいちの社員食堂―女性社員800人の健康・美

  • ・やる気を引き出す(再春館製薬所)

  • ・国循の美味しい!かるしおレシピ(25万部!)(国立循環器病研究センター)

この他にも、家電名(ホームベーカリー)をタイトルにしたレシピ本が、何冊も出ていますし(パン焼き器のトップシェアはパナソニック ← が売れる)

レシピ本には、なっていませんが、自動車メーカーがキャラ弁(!)のサイトを公開しています(ホンダkids)

社員食堂のレシピ本は、福利厚生の充実をアピールできますから、社員食堂がある企業ならば、本の出版は理解できます。

なるほど、食に関連する企業のレシピ本ならば理解できますが、しかし、食とは無関係の企業まで、ナゼにレシピ本なのでしょう?

商品と価値を結びつけるクッキング・マーケティング


自動車メーカーのホンダが、キャラ弁のサイトを運営しているのは、おそらく、車で行くピクニック(という家族の幸せ)の提案でしょう。

日産セレナが、2000年から2004年までCMを放映していた「モノより思い出」と同じ提案です。

人は、車(商品)が欲しいんじゃない、車で、何か(価値)を得たいんだ

ということ。それが、ピクニックであったり、ピクニックには欠かせない弁当だったりするわけです。

商品(クルマ)と価値(家族の思い出)を結びつけるのが、食事。外食や弁当等の食事です。

ちなみに、タイヤメーカーのミシュランが、グルメ本(ミシュランガイド)を出版したのも、タイヤの販促が目的でした。現にミシュランは、

  • ・ミシュランガイドは、タイヤ事業を発展させるためにある

  • ・ミシュランガイドは、ミシュランのブランド名を広めるためにある

と明言しています。

  • ・タイヤを売るなら、ドライブを売れ

  • ・ドライブを売るなら、レストランを売れ

  • ・レストランを売るなら、美味を売れ

のように、風が吹けば桶屋が儲かる式で、食事を提案することが、食事とは無縁の商品を提案することにつながります。

一方、病院や製薬メーカーのレシピ本は、高齢化による健康志向に因るものと考えられます。医食同源ですね。

ご存知のように、医食同源とは、goo辞書によると、

「病気を治す薬と食べ物とは、本来、根源を同じくするものであるということ。食事に注意することが病気を予防する最善の策であり、また、日ごろの食生活も医療に通じるということ」

で、高齢化により、健康、長寿、無病息災、美容、ダイエット等の基本となる食への関心が高まってきました。


医療なる商品、あるいは、薬なる商品と、健康、長寿、無病息災、ダイエットといった価値を結ぶのが、食事であり、食を豊かにするのが、レシピ本。

  1. 自社商品の良さは、自社の社員が知っている企業レシピ本を100万部(!)以上も出版しているワニブックス・広報宣伝部の飯島さんによると、

    「一番商品を知っている社員の公認ということで、リアリティがあるのがよいのではないでしょうか」

    「読者からは、社員の声が載っていることで、安心感がある、説得力があるという声を多くいただきました」

    「社員オススメのレシピランキングや、何か食材を加えるだけで楽しめる“ちょい足しレシピ”を掲載できるのも、公認ならでは、ですね」

    とのこと。確かに、商品を、誰よりも知り尽くしているのは、社員です。
    その社員が公認しているため、

  2. 納得できる

  3. 信頼できる

  4. 安心できる

  5. 真実味がある

  6. 社員だけが知っている


非公開レシピを知ることができるということのようです。

拙著「あなたが会社の利益を殺す犯人だ?」にも書いてありましたね?
「プロフェッサーになれ」

「取扱商品に詳しいだけなら、プロフェッショナル」

「商品の価値を、伝えることができてこそ、プロフェッサー」

企業本は、マヨネーズならばマヨネーズを解説する本ではなく、マヨネーズの価値(=おいしく食べる小さな幸せ)を伝える本。

商品の本ではなく、価値の本です。

そういう本が、ありそうで、なかった。それで大ヒットしたのでしょう。

キーワードは、社員公認。

商品について、プロである社員の皆さんから、お客さんへ、
「こう使うと良いですよ」
と、あなたの商品の価値を伝えるとしたら、どんな本を作りますか?

社員の皆さんで、出版企画を考えてみましょう。けっこう大変ですよ?出版企画。

企業価値を高める企業レシピ本

企業価値を高める企業レシピ本は、企業価値も高めます。企業価値の評価基準は、

  • 売上、

  • 経常利益、

  • 資産、

  • 負債、

  • 技術、

  • 顧客、

  • ブランド、

  • ビジネスモデル

  • etc.いろいろありますが、人材も、ステークホルダーによっては企業価値になります。

平たくいえば、みんなが入社したい企業。憧れる団体です。

実例。500kcalのまんぷく定食(500万部!)が出版される前年のタニタは、ランク外(301位以下)でした。
が!
出版された年の2010年、いきなり154位に浮上。
翌2011年には、100位以上も急上昇して、42位。

認知が浸透したと思われる2012年には、
1位 グーグル
2位 トヨタ自動車
3位 ソニー
4位 パナソニック
5位 アップルジャパン
6位 資生堂
に次いで、
7位!
ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランド、三菱商事、任天堂、全日空等の人気企業や、楽天、ソフトバンクといった球団を持っている企業を抜いて、7位ですよ、7位。


翌2013年には、ベスト10落ちしてしまいましたが、それでも、12位!
昨年2014年には、24位に落ちてしまいましたが、それでも、並み居る人気企業を抑えての24位です。
24位にしてもスゴイことです。

300位内には有名企業が名を連ねていますからね。
人気の理由は、

  • ・社員食堂の充実など、社員を大切にする会社だから(31歳/女性)

  • ・メディアを通じて社員が生き生き働いている印象を持った(32歳/女性)

  • ・業務からさまざまな知識や情報を身につける事ができそう(35歳/女性)とのこと。

広報や販促にも流用できる企業レシピ本

企業レシピ本は、広報や販促にも流用できます。
たとえば、ある企業レシピ本の巻末には、その企業の社史が載っていました。
普通、食品を購入したコンシューマーが、そのメーカーの社史なんか、気にしませんよね。
それを、企業レシピ本では、さりげなく見せることができ、その企業へ対する理解を促進できます。

広報ですね。

調理に使った自社製品を、解説している本もありました。

こうなると、まるで、記事(パブリシティ)です。有料の製品パンフレットといっていいかも知れません。販促にも使えます。


というか、筆者、最初は、企業レシピ本によるタイアップを勘ぐっていました。

実際、企業と出版社がタイアップした企業レシピ本もあるようで、ある企業では、自社の企業レシピ本を、数千冊、買い取り、取引先へ配布した模様。

大手企業でしたら、営業マンの4,000人くらいいますから、1人1冊、タイイン用の営業ツールとして持たせることができます。

たとえば、初版5,000部として、うち4,000冊、企業が買い取り、残り1,000部を書店で流通させれば、出版社のリスクは、大幅に減ります。

買い取る企業としても、1冊1,000円とすると、4,000冊なら、400万円ですから、販促費としては、安い買い物です。

400万円で、企業価値を高める可能性まであるのですから、社員の募集にかかる経費に比べたら、タダみたいなものです。


企業と出版社のWin-Winですね。

道理で、100社以上の企業レシピ本が出版されているわけですし、企業レシピ本を出版できるのは、食品メーカーとは限りません。

本例を応用するなれば、あなたの会社の商品と、お客さんにとって身近な食を、結びつけて考えるだけです。

たった、それだけで、あなたの会社の本が出版され、広報や、販促や、営業に使えるとしたら、

このチャンス、つかみますか?見逃しますか?


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