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読んだ本について紹介。紹介するのは、他の人があまり読んでいない本ばかりかと。
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#読書

パリのパサージュ 過ぎ去った夢の痕跡/鹿島茂

引き続き、年末年始に読んだパリ関連の本の紹介を続けたい。 年末になる前に読み終えた『ニンファ・モデルナ』も含めて、先日、先々日に紹介したユゴーの『ノートル=ダム・ド・パリ』、そして、それを解説した鹿島茂さんの『ユゴー ノートル=ダム・ド・パリ: 大聖堂物語』と、立て続けにパリについての本を読んでみたわけだ。 その中で今回紹介するのは、ひとつ前と同じ鹿島茂さんの本で『パリのパサージュ 過ぎ去った夢の痕跡』。 薄い文庫本なのでさくっと読み終える。 2019年に最後にパリを訪れた

ユゴー ノートル=ダム・ド・パリ 大聖堂物語/鹿島茂

パリの街とその街の代表的なゴシック建築であるノートル=ダム大聖堂。それらへの愛を綴ったのが、ヴィクトル・ユゴーの『ノートル=ダム・ド・パリ』だ。印刷本に取って代わられる前まで、人間の知と思想をアーカイブし人びとに伝える役割を一身に担っていたのが中世までの建築だったことをユゴーは、その作品で伝えてくれる。 そのユゴーの『ノートル=ダム・ド・パリ』を読んだあと、すぐに読んだのはNHKの「100分de名著」から出ている鹿島茂さんによる『ユゴー ノートル=ダム・ド・パリ 大聖堂物語

ノートル=ダム・ド・パリ/ヴィクトル・ユゴー

I miss you paris. そんな思いを感じながら、ついに読んだ。 ヴィクトル・ユゴーの『ノートル=ダム・ド・パリ』。 上下巻あわせて1000ページ強の大作を年末年始またいで。年明けバタバタしていて紹介するのが遅くなったけれど、ほんとに読んでよかったと思えたパリという都市や建築に対する愛情と人びとの心からそれが失われていくことへの失望に満ちた中世の都市を舞台にした叙事詩。 それがユゴーの『ノートル=ダム・ド・パリ』だ。 近代小説の二元論的世界ユゴーのこの作品を読ん

2021年に読んだおすすめの10冊

今年は書こうか迷ったけど、毎年恒例。 2019年に読んだ30冊の本 2020年に読んだ23冊の本 なので、数を抑えて2021年に読んだおすすめ本の紹介を。順不同。 10冊選んでみてわかったが、今年結構読んだ経済の本やサステナビリティに関連した内容の本は、読んでおもしろく勉強にもなったが、ここで選ぶものに含めたいとは思わなかった。あと小説も割合的に多くなっていても、『三体3』のような作品も10冊のなかには入らない。それよりおすすめしたいと思える作品があったからだ。 自分が

農の原理の史的研究 「農学栄えて農業滅ぶ」再考/藤原辰史

多くの人が複雑な話に振り回されるより、シンプルで直感的に理解できる話で済ませたいと思うだろう。抽象的で理論的かつ構築的な事柄に触れているよりかは具体的で直接的かつ体感できるものと付き合っていたいのだろう。人工的なものに対する自然や生命の尊さだったり、言語や理論に対する行動や実践だったりをどちらかというと選ぶ傾向にあるのではないか。 とりわけ日本人はそういう傾向が強いのではないか。 むろん、民族の特性などではなく、理論的、構築的な思考の訓練が足りないからである。そうした思考方

青きドナウの乱痴気 ウィーン1848年/良知力

この本を読んでみて、革命というものの印象が変わった。 革命というと、大義的なものに導かれて社会変革を促そうとする創造的な面をもった市民の行動のようなものを想像していたが、そういうものではないのかもしれない。自分たちが今日明日を生きるため、生き続けるために、ほんとに最低限ものすら手にすることのできない人々が切羽詰まって行動にいたる、激情的で事後の明確なヴィジョンももたない反抗なのではないか。 19世紀半ばのウィーンでの革命の様子を綴った良知力さんの『青きドナウの乱痴気 ウィ

デンマークのスマートシティ: データを活用した人間中心の都市づくり/中島健祐

あー、こういうデンマークのような都市をつくっていきたいな、と読んで思った。 中島健祐さんの『デンマークのスマートシティ: データを活用した人間中心の都市づくり』は、タイトルから連想されるような単なる「スマートシティ」に関する本ではない。いや、むしろ日本におけるスマートシティのイメージがあまりにハード的、技術的、産業的すぎるから、このタイトルから想像される内容が、社会的、人間的、創造的、環境的なものを含んでいないように思えてしまうのかもしれない。 しかし、デンマークの場合、

土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて/藤井 一至

人間はモノを自分ではつくれない。もともとあるモノを加工することはできても、モノそのものをつくることはできない。 それでも植物などなら、彼らが彼ら自身をつくる過程に入りこむことで、その「つくる」作業を人間の都合のよい方向に仕向けることならなんとかできたりもする。植物が再生可能なモノとして分類される所以である。 でも、土はダメだ。土がつくられる過程に人間が入りこむことはほぼ不可能に近い。それは化石燃料と同じで再生にはあまりに長い年月が必要なものだ。 その土が実は急激に劣化に

食べものから学ぶ世界史 人も自然も壊さない経済とは?/平賀緑

「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコの無形文化遺産に登録されたのは、2013年のことだ。僕らも和食というと、なんとなく古くからの日本の伝統的な料理であるという理解をしているのではないかと思う。 しかし、実際にはそうではない。『食べものから学ぶ世界史 人も自然も壊さない経済とは?』で著者の平賀緑さんは、 ご飯がパンに代わったというより、精米した真っ白ご飯を中心として野菜や魚介類のおかずを充実させた、今「和食」の名でイメージされるような「日本型食生活」が、実は戦後に確立

ポオ小説全集Ⅱ/エドガー・アラン・ポオ

最近、17世紀から19世紀にかけての自然観念の変化やそれに伴う探検ものに興味を持っている。 最初に1726年発行のジョナサン・スウィフトの『ガリヴァー旅行記』を読み、続いて読んだのはバーバラ・M・スタフォード『実体への旅 1760年―1840年における美術、科学、自然と絵入り旅行記』。そこからすこし遡った17世紀の山に対する観念の180度の転換を考察したM・H・ニコルソンの『暗い山と栄光の山』と、実は並行して読み進めていたのが、エドガー・アラン・ポオ『ポオ小説全集Ⅱ』。

暗い山と栄光の山/M・H・ニコルソン

固定観念の枠組みを突き破れ。 先例に縛られることから逃れよ。 つねに意識して、そうしない限り僕らの思考/嗜好は保守的になる。 なぜなら僕らは先人たちの残した知のアーカイブに基づき思考し行動し表現し判断することしかできないのだから。 この本を読んで、その思いをあらためて強くした。 僕らは伝統に縛られて生きていて、ありのままの世界をつねに忘れている。 西洋の世界では17世紀まで、山は忌むべき存在として「自然の恥と病」として、あるいは「いぼ、こぶ、火ぶくれ、腫れもの」として扱わ

実体への旅 1760年―1840年における美術、科学、自然と絵入り旅行記/バーバラ・M・スタフォード

1753年、アイルランド出身の医師でありアイザック・ニュートンの後を継いで王立協会会長を務めた科学者でもあり古美術蒐集家でもあったハンス・スローン卿の死後、そのコレクションをもとに大英博物館=ブリティッシュ・ミュージアムは設立された。 スローンがイギリス政府に寄贈した蔵書、手稿、版画、硬貨、印章など8万点が、その他政府所有の蔵書とあわせて展示された博物館が1759年に開館することになったのである。 世界初の公立の博物館の誕生だ。 それから100年あまりのときが過ぎ、イギリスの

シルビオ・ゲゼル入門 減価する貨幣とは何か/廣田裕之

デジタル通貨が普及はじめたいま、お金に色をつけることは可能になっている。 色をつけるとはどういうことかというと、誰がそのお金をいつどこで何のために使ったかを明らかにできるという意味でだ。色をつければ当然不正な利用、やましい利用はできなくなる。なぜ富む者がさらに富み、貧する者がさらに貧しくならざるを得ないかも明確になるはずだ。税金が何に使われ、支払った代金、寄付したお金の利用用途も明確になり、お金はいまより良い使われ方をするようになるのではないかと思う。 しかし、もはや技術

コミュニティ・オーガナイジング ほしい未来をみんなで創る5つのステップ/鎌田華乃子

昨夜、オンラインイベント「サーキュラー・エコノミーの展望と実践者たち(crQlr Meet up ! vol.0)」を開催した。11人のゲストに登壇いただき、3部構成で、循環型の社会の実現に向けて、僕らがどうしていけばよいかを話し合った。200人を越える応募があったので(通常より1.3-1.7倍くらい多い)、サーキュラー・エコノミーへの関心が感じられた。 登壇者のひとり、草木染めランジェリーブランド"Liv:ra(リブラ)”を展開する小森優美さんが「誰かのせいにしたり、誰か