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【佐渡市地域おこし協力隊インタビューvol.3】 放課後等活動支援担当 五百川 将

『地域おこし協力隊』
その名の通り、地域おこしを考える団体に "協力する" 人を指すが、全国的に見てもその存在は勘違いされがちである。

そもそも地域で協力隊として働くには、地域の任意団体が特定の活動内容に対して協力隊の求人枠を申請し、市町村がその申請を許可しないことには何も始まらない。

佐渡市からの募集はともかく、集落からの募集で地域おこし協力隊がいるということは、地域活性を考えている地元の方がその集落にいる証拠である。
(地域活性のためには絶対に協力隊がいるべきだ、という意味ではないのであしからず)

「どんな人がいるの?」「何をしているの?」
このインタビューは、私から見た "地域おこし協力隊という職業を選んだ仲間" をただ知っていただきたいという自己満足の備忘録である。


私から見た、五百川 将というヒト

真野公園で行ったお花見会での一枚

五百川 将(いおかわ たすく)隊員に対しての第一印象は『花粉症の人』だ。私が佐渡へ移住する1か月前のある日、物件探しのために佐渡へ来ていたタイミングでお花見会が開催されるということになり、迎えに来てくれたのが五百川隊員だった。

3月の末にも関わらずとても暖かい日で、暑くなった車内に我慢が出来ず窓を開けた途端、「ごめん、花粉症なので閉めてもらってもいいかな…」と初っ端から気まずい空気を作ってしまった苦い記憶がある。ごめんね。

そのフットワークの軽さからプライベートでも遊びやイベントのお誘いを持ち掛けやすい五百川隊員。2022年には私が担当するみなとオアシスのイベントにスパイスカレー屋さんとして出店して頂くなど、年代や属性関係なく、どんなコミュニティにも溶け込むことが出来るのは五百川隊員の長所だ。

両津のたなちゃんよろしく、『#佐渡に住んでみたの人』としての認知の方がやや先行している印象の彼は、一体どんな任務についているのだろうか?本記事で徹底インタビューしてみたいと思う。

#佐渡に住んでみた のハッシュタグでお馴染みの五百川隊員のInstagramはこちら


教育を通じた出会いが
自分を佐渡に連れてきてくれた

ブータンで子どもたちに体育の授業をする様子

棚村:改まって五百川さんの仕事内容や想いについて聞くのもなんだか照れ臭いですが、まず初めに自己紹介をお願いします。
五百川:新潟県五泉市出身の五百川 将です。大学進学で新潟を離れ、卒業後はJICA海外協力隊として南アジアにあるブータンに渡り、現地の小中学校に勤務していました。

棚村:佐渡の協力隊って海外に進学していたり、働いていた経験のある人が割といるんですよね。ブータンでは何をしていたんですか?
五百川:ブータンでは保健体育の教員として、現地の先生や生徒に体育の授業のノウハウを教えていました。

棚村:ブータンには体育の授業が無いってことですか?
五百川:体育の授業自体は1999年から教科に制定されたのですが、授業をする側の先生がそもそも体育の授業を経験していないんです。
「自由遊びやスポーツと何が違うの?」という知識的なところから、怪我をしないための身体の使い方などを伝えていました。

新型コロナの感染拡大を機に2020年3月に帰国しましたが、学校の年間計画の中に『運動会』を導入することと、それを実施できたことが嬉しかったです。

ブータンで開催された運動会の様子

棚村:私もマレーシアから同時期に強制帰国になった口ですが、五百川さんは2020年の12月から佐渡市の地域おこし協力隊として着任していますよね? この9か月の間に一体何があったのでしょうか?

五百川:7月頃まではブータンに戻れる見込みもあったのでJICAの指示により待機していたのですが、当分は無理かも、と思い始めたタイミングで、「JICAの教師海外研修経験のある教師が集まる交流会が佐渡であるからおいでよ」というお誘いがあったんです。

交流会では『佐渡の教育』について、小学校から高等教育に携わっている方々との意見交換をしました。

島外出身の若手教師が感じる孤独感やキャリアの中での箸休め感、高等教育以上になると選択肢が狭まることなどについての意見に触れる中で、佐渡で『コミュニティ・スクール制度』が始まったと聞きました。

棚村:コミュニティ・スクール制度とはどういった制度でしょうか?
五百川:コミュニティ・スクールとは、学校運営に地域の声を積極的に生かし、地域と一体となって特色ある学校づくりを進めていくことができる制度です。

そのお話と併せて、佐渡市役所教育委員会 社会教育課が『放課後等学習支援担当』の地域おこし協力隊を募集するという話を伺いました。

JICAの教師海外研修に参加経験のある先生方と

棚村:良い出会いでしたね!
五百川:この出会いが7月頃だったのですが、とりあえずプチ移住をしながら準備を進めようと思い、9月からの2か月間、赤泊の体験住宅に住みながら両津の加茂小学校で地域コーディネーターとして活動していました。

棚村:えっ、遠い!! (笑)
五百川:当時は約40㎞を原付バイクで毎日通っていましたね (笑) 
棚村:人生は勢いとタイミングだと感じる、見本のようなエピソードですね!


『教育』に教員ではないカタチで
中長期的に関わり続けたい

棚村:ブータンに、佐渡に…。五百川さんの『教育への熱』はどういった想いが根底にあるのでしょうか?
五百川:『教育は大事だよ』と伝えたいのがひとつめの想いです。私は「教育」は学校だけのものではないと思っています。企業での新人教育や、飲食店舗などでアルバイトスタッフへの指導も教育の一部。家で子どもに接するなど、人間は何かしらの形で教育を行っているのに、それを自覚している人は多くありません。

もうひとつは、今を生きる子どもたちに『かっこいい大人はいるんだよ』ということを伝えたいということ。私自身、高校生の時までに出会った "大人" の印象があまり良くなくて海外に出たこともあって。自分と同じ思いをさせたくないんです。

佐渡に来る前は子どもたちの将来の選択肢を1つでも多く持ってもらいたいので、子どもたちを社会と繋ぐことでかっこいい大人たちがいることを見せたいですね。

「先生のおかげで」って言われると、やっていて本当に良かったと感じますね。そういった場に立ち会えることって中々できないことなので、一度その喜びを知ってしまうと皆さん抜け出せないと思いますよ (笑)

文弥人形について教わる体験教室の様子

棚村:『放課後等活動支援』ではどんな活動をされているんですか?
五百川:佐渡市の教育目標のひとつである "家庭・地域の教育力の充実" という目標のために、各地域でその拡充や整備を行っています。

棚村:五百川さんは島内各地の学校を毎日走り回っている印象です。
五百川:令和5年度は小学校が10校、中学校が1校。それと自主的に高校を2校回っています。教育委員会・支援コーディネーター・放課後こども教室の講師の方々との打ち合わせや、それに準ずる日程調整や教室の準備などが日頃の活動内容になります。

棚村:色々な教室をコーディネーターと共に運営されてますよね!
五百川:創るプロジェクト&佐渡マイプロジェクト』 や、育てて収穫まで楽しんだ『焼き芋教室』、文弥人形や佐渡おけさの伝統芸能に触れる教室など、様々な体験教室を開催しています。ALTの先生による英会話や、プログラミングを学ぶ学習活動の時間もありますね。

棚村:いわゆる『学童』とはどういった違いがあるのでしょうか?
五百川:学童は厚生労働省による保育としての預かる場所、放課後こども教室は文部科学省による教育をする場所という違いはあります。学習指導があるかないかが明確な違いですね。ただし学童と連携することは必要だと思います。

棚村:五百川さんは今年で任期満了となりますが、活動の中での目標はありますか?
五百川:放課後こども教室の運営マニュアルの作成を完了させます!
私の活動の目的は単なる教室やイベントの開催ではなく、佐渡市が制定した教育目標達成のために制度の拡充や整備を整えることです。

そのためには、一度は私が主体で企画・運営したものを、最終的には各教室に携わってくださっている支援コーディネーターさんが出来るようにならなくてはいけません。教室で行ってきた内容や、年間スケジュールの組み方や、運営中に起きがちな失敗例などをまとめ中です!



地域と学校を繋げるために

棚村:佐渡の暮らしの中で困ったことはありましたか?
五百川:生活面で言えば、私は地域密着型の協力隊ではないので、地域への橋渡しが無い生活は困りました。家の近隣の方には挨拶したのですが、どこまでが同じ集落なのか、角付けって何を準備したらいいのか… など (笑)

地域の集まりのお知らせを前日に受けることもあり、放課後に授業がある関係でなかなか参加出来ずにいるので地域に溶け込めていないなあと感じますね。任期後は積極的に参加していきたいです!

棚村:仕事面では何かありますか?
五百川:正直なところ、着任当初からしばらくは教育委員会との関係性に苦労しました。皆さん普段の業務が忙しすぎるのもありますが、協力隊を受け入れる体制が整っていなかったこともあり、最初の4か月はお互い探り探りでしたね。「よし、いくぞ!」というタイミングで担当者が2回異動になったのも痛手でした (笑)

棚村:あるあるですね~。担当者や地域、世話役との関係性づくりや制度についての相互理解で最低でも1年必要!(笑)

五百川:あとは、支援員さんや地域コーディネーターさん探しでしょうか。
子どもたちを地域全体で育てようという意識には、少なからず地域差があると思います。仕事柄関わりたくても積極的に関われない保護者や地域の方もいらっしゃいます。

五百川:通学に使うバスの便数や時間、保護者が指定の時間に送迎ができないなど、物理的な理由もありますが、学校に預ければOKという雰囲気も感じます。教室のメンバーとして1年間協働して企画・運営しても任期を更新して頂けなければまた0からのスタートなので、悩みどころですね。地域コーディネーターに興味がある方はぜひ、佐渡市教育委員会 社会教育課までご連絡ください!

棚村:協力隊が地域にずっと居続けることが良しではなく、いない状態で地域が回っていく状態を目指していく必要がありますよね。五百川さんは任期中、特に嬉しかったエピソードはありますか?

五百川:教室の運営のためにお呼びした地域の方から「学校に関わる機会を設けてくれてありがとう」と感謝の声を頂いたことです。そのきっかけづくりに関われたことが嬉しかったですね。

棚村:任期後については何か計画されていますか?
五百川:今やっている業務の継続と、地域と学校の間の人を育てる中間支援組織づくりを行う予定です。教育委員会と連携して、地域から教育に携わるスタイルを引き続き行っていきたいです!

棚村:最後に、佐渡で一番好きなスポットを教えてください!
五百川:社会教育課のある両津支所の裏からも見える『加茂湖(かもこ)』です!佐渡の景色はどこを切り取っても素敵ですが、加茂湖の雄大さは見ているだけで疲れが軽減されます!(笑)



取材をきっかけに、五百川さんの任務の目的が改めてクリアになりました。各隊員はそれぞれの想いと責任を持って、佐渡市や地域の受け入れ先と協働しています。これからもどうぞ、地域おこし協力隊をよろしくお願いいたします。

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