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日本のホップ栽培が抱える構造的な課題とは何か。<農業編>

ビールの原材料、ホップ。日本での「農業」としてのホップ栽培は、大きな転換点を迎えています。全国的に栽培面積が減少している中、このままもっと衰退して無くなっていくのか。それとも再興できるのか。

今回、「日本のホップ栽培が抱える構造的な課題」というマニアックな話を書きます。

ビールの重要な原材料でありながら、まだまだ知名度が高くないホップ。その栽培現場が抱える課題といっても、身近な話ではないですし、ピンとこない人も多いと思います。

どれだけの人に届くか分かりませんが、ビールが好きな皆さんと課題を共有し、一緒に考え、変えていきたい。そういった強い気持ちを込めて、書きます。日本のホップ栽培が衰退ではなく再興の道に進めるように。

ホップとは

私は2016年に、日本随一のホップ生産地、岩手県遠野市に移住しました。遠野市は、半世紀以上にわたりホップ栽培を続けている地域です。私は今、地域の仲間と一緒に日本産ホップの再興、ホップやビールを軸としたまちづくりに挑戦しています。

ホップはアサ科のつる性多年草植物で、ビール特有の苦味と香りのもととなり、泡を安定化させたりビールの保存性を高めたりする働きがあります。

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ホップの収穫作業の様子と、収穫されたばかりのホップ

ホップ栽培に適しているのは、冷涼な気候です。遠野市は冷涼であるだけでなく、寒暖の差が激しく、ホップ栽培に最適な地域。キリンビールの契約栽培地として長く栽培を続けており、遠野市のホップ栽培面積は日本一です。

クラフトビールの盛り上がりとともに、ホップにも注目が集まり始めています。個人で育てたり、ブルワリーが畑を借りて醸造所の近くで育てるという事例も増加。その年に日本で採れたホップを使ってビール醸造をする「フレッシュホップフェスト 」も年々盛り上がってきています。

しかし、農業として昔から栽培している地域は様々な課題を抱え、危機的な状況です。その危機を乗り越え、持続的な栽培モデルを実現できるのか。まさに今、日本のホップ栽培が未来に繋がるかどうかの大きな転換点なのです。

農家の減少と遠野での取り組みについて

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遠野のホップ農家はピーク時から見ると大きく減少。栽培面積は6分の1まで減少しました。農家数にいたっては7分の1以上減少しているといわれています。まさに危機的な状況です。

毎年収穫が終わり、農作業が落ち着いた頃から、「〇〇さんが今年でホップを辞めるかもしれない」という声が聞こえ始めます。現在進行形で、ホップ農家の減少は続いているのです。

これは遠野だけの話ではありません。日本各地の栽培地でも同様の課題が進行しています。残り数軒しか残っていない地域や、ホップ農家がゼロになった地域もあります。

「ホップ栽培はなぜ衰退したのですか?」
「ホップ農家の高齢化と後継者不足が大きな理由です」

私たちはいつもこのように答えていました。

高齢化を理由に、ホップ栽培を辞められる農家が多いのは事実です。

遠野ではホップ栽培を未来に残すための打ち手として、新規就農者の募集・育成を積極的におこなってきました。この5年間での新規就農者は12名。担い手不足で悩む他の地域と比べると大きな成果です。

年々、「ホップ農家になりたい」と遠野を訪れる人も増えてきました。クラフトビールの盛り上がりによりホップに注目が集まったことや、遠野での取り組みが認知されてきたことが影響していると思っています。

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遠野に移住した新規就農者

若い就農希望者は地域にとっての希望です。12名も遠野に飛び込んできてくれたことは、私たちも本当に嬉しく思っています。
しかし、新規就農者が増えた遠野は、新たな課題に直面しています。元々あった構造的な課題が顕在化したのです。

その課題を解決しないと本当の意味で持続可能なホップ栽培を実現することはできません。

新規就農者を増やすだけでは解決できない構造的な課題とは

では、どういった課題があるのか。遠野の事例をもとにご紹介します。

1、廃作予定の畑を新規就農者に引き継ぐモデルの限界

新規就農者は高齢化によって栽培を辞める農家の畑を引き継ぐことがほとんどです。土地を探し、ホップ棚を建設し、栽培を始めることは簡単ではありません。棚の建設にお金がかかりますし、ホップは苗を新しく植えてから3年後にやっと十分な収量になる作物です。何もないところから新規で始めるのは難しいのです。

遠野のホップ畑の栽培面積は6分の1まで減少したことを先に書きました。その結果何が起きているかというと、小規模で点在した畑が残っているということです。

ホップと空

ホップ畑がある遠野の風景

日本の栽培方式は先進地域と比べて機械化がまだ進んでいません。栽培の効率については品種によるところもあるので一概には言えませんが、例えばホップ先進地域のドイツと比べると、日本の1人あたりの生産面積は8分の1程度と大きな差があります。

さらに、小規模で点在する畑の栽培を続けることは非効率。そのため、農家1人あたりが栽培できる面積に限界があります。

小規模な畑、今の日本の栽培方式では、新規就農者が栽培面積を大きくしてホップ農業だけで生計を立てていくことが難しいのです。

今までの遠野のホップ栽培を支えてきた先輩農家の皆さんは、ホップだけではなく他の野菜、米や酪農なども行い、遠野ならではの複合経営を確立されています。それは、ホップ専業のモデルでは無いということ。

ホップはとても手のかかる作物ですが、遠野でのホップ栽培が全盛期だった頃は、同居する家族の人数も多く、また近くに親戚も住んでいたため、作業が発生するときには総出で手伝っていたと聞いています。

新規就農者の立場に話を戻します。

遠野の場合、新規就農者の多くは移住者であり、農業の未経験者。ホップ栽培の技術を習得するまでにも時間がかかりますし、短期で他の作物を含めた複合経営を行うことの難易度は高い。さらに、家族・親戚総出で作業を手伝ってもらうということもできません。

新規就農者はまずホップ栽培を中心に始めることになります。しかし、小規模の点在する畑では非効率であるために規模も大きくできず、ホップだけで生計を維持することが難しいという状況になってしまいます。

課題はこれだけではありません。

2、農家減少によるひとりあたりの負担増と施設・機械の老朽化

ホップは収穫時に「選果」と「乾燥」という作業が発生します。球果だけを選別し、ペレット加工をするために乾燥させます。

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乾燥施設での作業の様子

かつて大規模でホップを栽培していた全国の他の地域でも乾燥施設が稼働しています。これらの乾燥施設は、日本でホップ栽培が始まった頃に導入されたものです。遠野でも約45年前に導入された機械が現役。

機械が老朽化しており、この先いつまで稼働できるか分からない状況です。ある地域では、機械の老朽化が引き金となって一気に農家が栽培を辞めてしまったこともあります。

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1983年に撮影された乾燥施設の写真

先に農家の減少や新規就農者について書きましたが、この状況で多額の費用が必要となる新しい機械の導入は難しいのです。

さらに現状の機械は、人手が多く必要であるために、稼働コスト(特に人件費)が高い。さらに、農家が減少することにより、一人当たりの負担も増える。乾燥施設を利用しないと出荷できないのですが、その利用料が農家の利益を圧迫してしまう構造です。

新規就農者にとっては、売上自体が大きくならないことに加え、コスト増が同時に進行しています。

このままでは、ホップ農業は持続可能なものではありません。

こういった話をすると、「大手ビールメーカーの買取価格を上げられないのか」といった質問をいただくことがあります。日本産ホップの品質がさらに向上し、ブランド化が成功し、需要が高まり価格が上がっていくことは良いと思っています。しかし、現状大手ビールメーカーの買取価格は世界の他の地域と比べて安いわけではないですし、価格を上げたとしても本質的な課題は解決されないのです。なぜなら、乾燥施設周りのコストの高まりによって、利益が少ない構造は変わらないからです。

ホップ栽培を未来に続けていくことを考えたとき、「農家が高齢化して辞めるから新しい農家を増やそう」だけでは解決できず、構造的な課題を解決しないといけません。

遠野や他の地域で栽培をやめる農家が後を絶たない現状があることからも、これらの課題は早く手を打たないといけないと思っています。

どうやって課題を解決していくのか

この構造的な課題を抱える局面はどのようにすれば突破できるのか。

遠野の私たちも、ホップ農家、行政、民間事業者、そして半世紀以上も遠野のホップ栽培を支えてくださっているキリンビールと議論を重ねています。

ここまで書いた遠野で起きている課題を解決するためには、まず下記の2つを進める必要があると考えています。

1、老朽化する施設や機械をリニューアルし、生産性をあげる
2、畑を集約し、作業効率をあげる

機械が壊れて使えなくなるとそこでホップ農業は止まってしまいます。だからまずここを乗り越えないといけません。ちなみに、海外の最新の乾燥施設を導入すれば、必要な人員は3分の1まで減ることも分かっています。

そして、栽培全体を持続可能なモデルにするためには畑の集約や作業効率が良い品種についても検討していく必要があります。

当然ながら、それぞれの施策を行うには多額の導入費用が必要です。その費用が既存の農家の負担になってしまうと廃業を加速させてしまうリスクがあります。

では、その費用をどのように集めるのか。

私たちは様々な補助金を調べ、活用を検討していますが、費用の一部を自分たちで集めようとしています。

その一つの方法が、ふるさと納税の活用です。遠野市に寄付をする際、「ビールの里プロジェクト」に寄付先指定(寄付金の使い道を指定すること)ができるようになりました。※現時点で指定ができるのはふるさとチョイスのみ

「ビールの里プロジェクト」に使い道が指定された寄付金は、持続的なホップ栽培実現のために活用されます。

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< 寄付金の使いみち>
・新規就農者の自立に向けたサポート
・老朽化する機械や設備のリニューアル費用
・イベントの開催などサポートの輪を広げるまちづくりの施策

遠野では「ホップの里からビールの里へ」をスローガンにまちづくりの活動を行い、イベントやツーリズムを通じてファンやサポーターを増やすことに注力してきました。

03活動を支えるサポーターの輪を広げる

遠野ホップ収穫祭の様子

今向き合っている大きな課題は、遠野にいる私たちだけでは解決することができません。でも、応援してくださる皆さんとなら、原材料「ホップ」にまつわる課題を一緒に解決していけると思っています。

解決のプロセスを一緒に歩んでいくことで、ビールが好きな皆さんにとって遠野が特別な場所になっていけると嬉しいです。

遠野市のふるさと納税には、遠野産ホップを使用した「キリン 一番搾りとれたてホップ生ビール」「ズモナビール」などが返礼品として選ばれています。他にも地域の特産品がたくさん。ふるさと納税経由でこれらの商品を申し込み、寄付先を指定していただくと直接的に遠野のホップ農家を支援することができるようになっています。

2020年11月に公開した、ビールの里のコンセプトムービー。

「たくさんの仲間がいればきっと成し遂げられる」

今回書いた課題を、たくさんの仲間と共に解決していきたいという思いから最後にメッセージを入れました。

遠野のホップ農業を未来へ繋げ、日本のホップやビールの未来を切り開いていくために、ご支援いただけると嬉しいです。

▼ビールの里遠野 ふるさと納税特設サイト▼

ふるさと納税で資金を集めるというのはあくまで一つの方法であり、これだけでは解決はできません。私たちは、引き続き色々な方法を探りながら、持続可能なホップ栽培の実現に向き合っていきます。

いつか皆さんと遠野のホップ畑で乾杯したい

遠野では夏になると市内のあちこちでホップのグリーンカーテンを見ることができます。遠野の夏の風物詩です。

私たちは夏に、ビアツーリズムや醸造所の企画でホップ畑でビールを飲むイベントを開催しています。

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摘みたてのホップをビールに入れると、フレッシュな香りが加わりここでしか飲めないビールに。参加された方の満足度は高く、ビール好きな方にとっては最高の体験だと思っています。ホップ畑で飲むビールを「人生最高の一杯だ」と言ってくださった方もいます。

夏に開催している遠野ホップ収穫祭では街中の会場からホップ畑へのバスが運行していますが、参加チケットはすぐに売り切れに。毎年、ホップ畑に行くためにたくさんの方が訪れてくださっています。

遠野や私たちにとっては、ホップは「農業」だけの話ではなくなってきているのです。ホップ栽培が持続することで、観光客の増加や、まちの産業の活性化にも繋がります。そして、ホップがあることで、私たちにはたくさんの仲間・友達ができました。

こういったホップ畑でイベントが開催できるのも、ホップが農業として続いているから。私たちは、まだまだもっと多くの方をホップ畑に案内して、一緒に乾杯して、皆さんと特別な思い出をたくさんつくりたいと思っています。そして、私たちが暮らす大切なまちをもっと盛り上げていきたいのです。

そのために、今も、これからも、私たちはホップ農業が抱える課題の解決に真正面から挑んでいきます。

日本のホップ、そして日本のビールの未来を変える挑戦。私たちと一緒にやっていきましょう。

そして、いつかホップ畑で人生最高のビールを飲んで、未来の話を語り合いましょう。その日が楽しみです。

◎書いた人◎

田村淳一
株式会社BrewGood 代表取締役/ 株式会社遠野醸造 取締役
2016年にリクルートを辞めて遠野に移住し、遠野醸造というマイクロブルワリーと、BrewGoodという会社を経営しています。BrewGoodでは遠野を拠点にホップとビールによる新しい産業づくりに挑戦中。
Mail:info@brewgood.jp


キリンビール公式noteでのインタビュー記事も読んでいただけると嬉しいです。「農業」の課題を解決した後の「流通」に対する打ち手についても最後に少しだけ語っています。

まず農業の基盤をつくり、次は持続的に日本産ホップの需要を生み出し、国内外に流通できる仕組みをつくりたいと思っています。その話は、別途書く予定です。私たちは本気で日本産ホップの未来を変えようとしています。

<関連リンク>

ビールの里遠野 ふるさと納税特設サイト

BrewGood

Twitter
https://twitter.com/tam_jun    

遠野での取り組みを週報として発信しています




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ビール×プロデューサー。ビールで楽しいことを企んでいます。リクルートを辞めて2016年にホップの聖地・岩手県遠野市に移住しました。遠野醸造 取締役&BrewGood 代表取締役&NextCommonsLab理事。出身は和歌山県。