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2000件の寄付がホップ栽培の未来を変えていく

岩手県遠野市では、毎年8月下旬からビールの原材料「ホップ」の収穫作業が始まっています。

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ホップ収穫作業の様子

遠野でホップの栽培が始まったのは半世紀以上前。美しい里山の中に佇むホップのグリーンカーテンや、その収穫作業は遠野の夏の風物詩です。しかし、農家数の減少によって、その景色も少しずつ失われています。

日本のホップ栽培も他の農業と同じく、たくさんの課題を抱えています。

全国各地に新しくビール醸造所が急激に増え、「クラフトビール」が数年前より身近になっている今も、日本のホップ農家の減少が続いています。

「全国ホップ連合会」の令和2年度報告資料を見ると、令和元年統計で北海道+東北の農家数は合計で141戸。平成23年資料では農家数は277戸でした。平成23年から令和元年の9年間で、277戸→141戸とほぼ半減しています。令和4年度時点ではさらに減っているはずです。

農業全体として衰退しているとはいえ、特定の作物の農家数がここまで減っているものは他にはあまり無いと思います。

日本における農業としてのホップ栽培を終わらせたくない。半世紀以上守り続けた地域の誇りを失いたくない。私たちはホップ栽培を未来に繋げるために、ふるさと納税の制度を活用して寄付金を集めています。

遠野市へふるさと納税で寄付をする際に、寄付先を「ビールの里プロジェクト」に指定いただくと、寄付金の一部が栽培現場の課題解決に使われます。

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ふるさと納税を活用した仕組み

ふるさと納税の制度を活用したこの取り組みは、2020年から本格的にスタートしました。

2年間での寄付は約2000件・約4000万円

ビールの里プロジェクト宛の寄付は、2020年度は821件・17,710,000円、2021年度は1,121件・23,449,000円でした。

この2年間で、約2000件・約4000万円もの寄付金が集まっています。

寄付いただいた皆さま、本当にありがとうございます。

ふるさと納税の制度上、寄付金から返礼品の代金・送料・事務手数料などを引いた約50%の金額がプロジェクトの財源となります。

寄付いただいた皆さまへのお礼と合わせて、この寄付金をどのように使って栽培現場の課題を解決していくのかをご説明させていただきます。

使い道については遠野市役所を中心に協議を重ねており、現時点の進捗です。

私たちが解決したい課題について

まず、私たちはどんな課題を解決しようとしているのかをご説明します。

遠野市のホップ生産量・生産面積は、ピーク時から6分の1以上も減少しています。生産量・農家数が減少している主な理由は、高齢化と後継者不足です。

しかし、新規就農者を増やすだけでは解決できない課題があります。

栽培現場の課題はたくさんあり、複雑に絡み合っているのですが、特に大きな課題は下記です。

「乾燥施設の老朽化」と「栽培コストの高騰」

ホップは収穫後に「選果」と「乾燥」という作業が発生します。毬花だけを選別し、ペレット加工をするために乾燥させる作業です。この作業を行うために、遠野では現在2つの乾燥施設が稼働しています。

収穫されたホップの蔓から、毬花だけを取り出す
選別した毬花を既定の水分量まで乾燥させる

乾燥施設では40年以上前に導入された機械が現役で、毎年修繕を繰り返してなんとか維持をしています。早く大規模な修繕をしないと、この先いつまで稼働できるか分からない状況なのです。

また、現状の機械は人手が多く必要であるために、稼働費用(特に人件費)が高くなってしまいます。

現状の機械では乾燥施設運営に多くの人手が必要

修繕費用や稼働費用など、乾燥施設を運営するための費用は、施設使用料という形で各ホップ農家が負担しています。老朽化によって毎年の修繕費用は増加傾向にあるのに、それを負担する農家数が減少しています。

結果、農家一人当たりの栽培コストが高くなり、利益を圧迫しています。さらに近年、燃料代や肥料代、栽培に使う資材の高騰も重なって、ホップ農家の収益構造はますます厳しくなっています。

さらに、新規就農者は、以前から遠野でホップ栽培を行っている先輩農家と比べて、売り上げを上げにくく、栽培コストが相対的に高くなる傾向にあります。畑や機械を購入・賃貸する費用が発生するなど、様々な要因があるからです。一概にはいえませんが、新規就農者は利益を出しにくい状態なのです。

これが新規就農者を増やすだけでは解決できない理由です。

ホップ栽培を持続可能にするためには、収支構造を健全化する必要があります。

こういった話をすると、「大手ビールメーカーの買取価格は上がらないのか」といった質問をいただくことがあります。日本産ホップの品質がさらに向上し、ブランド化が成功し、需要が高まり価格が上がっていくことは良いと思っています。しかし、現状大手ビールメーカーの買取価格は世界の他の地域と比べて安いわけではないですし、価格を上げるだけでは本質的な課題は解決されないのです。なぜなら、乾燥施設周りのコストの上昇によって、利益が少ない構造は変わらないからです。

これらの課題をどのように解決していくのか。私たちは中長期の施策と、短期の施策に分けて取り組みを進めています。そして、それぞれの施策に皆さまからの寄付金を活用しています。

中長期では「乾燥施設」の改修を目指す

これからも遠野でホップ栽培を続けるためには、乾燥施設の改修が絶対に必要です。改修のポイントは、将来も使用できるように大規模な修繕と、省力化・効率化を目指すことです。少ない人数で運営できる乾燥施設に改修すれば、人件費が減り、施設使用料の低減を目指すことができます。

乾燥施設の内部

乾燥施設の改修はすぐにできるものではありません。現在、改修の図面を作成したり、スケジュールについて関係者で議論を進めていますが、数年かけて実現していく計画です。改修には多額の費用が必要となるため、皆さまからいただいた寄付をこれからも積み立てて、その費用を賄おうとしています。

しかし、乾燥施設がリニューアルし、使用料を低減できるまでにも手を打たないと農家が離農するスピードを抑えられません。そこで、短期的な施策も同時に進めています。

短期では収益構造の改善を目指す

栽培コストの中で大半を占める施設利用料を下げるには、乾燥施設の改修が必要であり、数年かかります。それまでの間、①面積あたりの収穫量の改善と、②一時的な栽培コストの低減を実行することで、収支構造の改善を目指していきます。

短期施策①面積あたりの収穫量の改善

同じ品種のホップを栽培していても、畑によって反収(たんしゅう・面積あたりの収穫量のこと)に差があります。反収を上げることができれば、同じ面積でも売上が増えるので、収支構造を改善することができます。短期ではこの課題解決に着手しています。具体的な方法は、農作業の人手不足解消と土壌調査・栽培方法の分析です。

農作業の人手不足解消
ホップ栽培も他の農業と同様に、適期栽培(決められた時期までに農作業を行う)をしないと反収が下がる傾向にあります。ホップ栽培は特定の時期の作業に人手が多く必要になり、ホップ農家はアルバイトを雇って作業を進めます。しかし、ホップ農家の高齢化と同時に地域のアルバイトの方も高齢化し、人手の確保が難しくなっている(その結果、農作業作業が遅れる)のが現状です。

今年から遠野では「遠野アグリサポート」という団体が、農作業のボランティアを募集し、人手不足解消に向けた活動をしてくれています。6月の「つる下げ」という人手が必要な作業の際には、約10日間で83名ものボランティアの方々が手伝ってくれました。

【ホップのつる下げ体験会を開催しました✨】 6月4日(土)・5日(日)に一般の方々向けに「ホップのつる下げ体験会」を開催しました🌱 その他日程で開催した事業者様や岩手県立遠野緑峰高等学校の生徒とともに行った、つる下げ作業の参加者も合わせる...

Posted by 遠野アグリサポート on Monday, June 20, 2022

結果、今年はスケジュール通りに作業を進めることができた農家が増えました。この活動は来年以降も継続していく予定です。(中長期的には、ボランティアだけでなく、アルバイト人材のマッチングや圃場の集約化・機械化なども進めていく予定です)

土壌調査・栽培方法の分析
栽培作業はスケジュール通り進んでいるのに、反収が低い畑も存在します。この場合は、そもそも土壌や栽培方法に問題がある可能性があるため、調査を進めています。

日本で「どのようにホップを栽培すれば収穫量が増えるのか」については、これまで正確に解明された事例やデータが多くありません。私たちは様々な観点で現状の栽培方法を分析し、これからの日本のホップ栽培に役立てようとしています。

短期施策②一時的な栽培コストの低減

ホップ栽培に使用する資材が近年高騰しており、ホップ農家の利益を圧迫しています。緊急的な対策が必要と考え、寄付金を財源として、高騰する資材の購入費の一部を補助する制度を立ち上げています。

皆さまからいただいた寄付金は、乾燥施設改修のための積立金以外にも、人手不足解消プロジェクト運営費の一部、土壌調査の費用、栽培方法の分析、補助制度の立ち上げなど、ホップ栽培現場の課題解決に実際に活用され始めています。

ここまで、現時点での使い道を書かせていただきましたが、引き続き関係者で協議を重ねながら、ホップ栽培を持続可能にするために最も良い使い道を選んでいきたいと考えています。

栽培現場の課題はたくさんありますが、皆さまからの応援があることで、私たちは諦めずに、前を向いて一つ一つを解決していくことができています。

金銭的な話だけでなく、こんなにも多くの方が活動を支えてくれているという事実が、私たちの力になっています。

改めて、本当にありがとうございます。

挑戦はまだまだ続く

日本産ホップの再興を目指す挑戦はまだ始まったばかりです。私たちは中長期的な目線で、ホップ栽培を取り巻く構造的な課題に向き合おうとしています。

乾燥施設の改修についても、全国のホップ産地でも同様に老朽化という課題を抱えており、ここを突破できるかどうかで日本のホップ栽培の未来が変わると考えています。

また、遠野市にとって「ホップ」は農業だけの話ではなくなってきています。遠野ホップ収穫祭や遠野ビアツアーズなど、ホップとビールをきっかけに遠野を訪れる観光客が増えています。ホップ栽培の未来を変えることは、地域にとって良い未来をつくることに繋がっていくと信じています。

農業の構造的な課題解決は、1年、2年で解決できるものではありません。私たちは、これからも粘り強くプロジェクトを推進していきます。2,000件の支援の力が、5,000件、10,000件と積み重なっていくと、ホップ栽培の課題を解決できるはずです。引き続き応援していただけると嬉しいです。

遠野市のふるさと納税には魅力的な返礼品がたくさん出品されています。ぜひ下記のリンクからご確認ください。寄付の使い道に「ビールの里プロジェクト」を指定いただくと、寄付金の一部が栽培現場の課題解決に使われます。

ふるさとチョイス

楽天ふるさと納税

毎年好評の「一番搾りとれたてホップ生ビール」も予約受付が開始しました

遠野産ホップを使用した一番搾りとれたてホップ生ビールを申し込んで、遠野のホップ栽培を一緒に守っていただけると嬉しいです。

一番搾りとれたてホップ生ビール用のホップの出荷はすでに完了しています。その様子をこちらにまとめましたので、ぜひご覧ください。

いつも応援していただいている皆様へ

皆さまと共に守り育てていく遠野市のホップ畑で、美味しいビールを飲みたいです。いつかホップ畑で会いましょう。そして、日本のホップ、日本のビールを一緒に盛り上げていきましょう!


◎書いた人◎

田村淳一
株式会社BrewGood 代表取締役/ 株式会社遠野醸造 取締役
2016年にリクルートを辞めて遠野に移住し、遠野醸造というマイクロブルワリーと、BrewGoodという会社を経営しています。BrewGoodでは遠野を拠点にホップとビールによる新しい産業づくりに挑戦中。

WEB:https://brewgood.jp/
twitter : https://twitter.com/tam_jun    
Mail:info@brewgood.jp

株式会社BrewGoodでは、地域や農業の課題解決、地域のブランディング、新しい産業づくりに挑戦しています。今回ご紹介したふるさと納税を活用した取り組みも、弊社が中心となって進めています。課題解決という点ではまだまだスタート地点に立ったばかりですが、未来に向けて変わっていく兆しをつくれたのではないかと思っています。

私たちはホップ栽培を起点に取り組んでいますが、同じような課題を抱える地域は日本全国に多いと考えています。私たちは遠野市での挑戦で得られた知見をもとに、他の地域、農業、企業の課題に対して、実践的で具体的な解決をサポートすることができます。お困りごとがありましたら、まずはお気軽にご相談ください。


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