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ディズニーシー破壊工作事件簿【ここがへんだよディズニーシー④】

この記事は『素直で丁寧だった頃のディズニーシーの話をしよう【ここがへんだよディズニーシー③】』続きもので、シリーズの第4話である。

東京ディズニーシーは、世界のテーマパークファンの間で時に「世界最高のテーマパーク」とすら評されてきた。しかし一方で、我々はその評価をうずうずしながら聞かざるを得ない。東京ディズニーシーはすごいが、かつては“もっとすごかった”からだ。

多くの極端なディズニーファンの間では、「東京ディズニーシーは5周年まで」といわれる。
少し年長のディズニーファンの間では、「東京ディズニーシーは10周年まで」といわれている。
ディズニーシーに同情する者にとっても、せいぜい「東京ディズニーシーは15周年まで」である。

そしてついに先日、YouTubeでこんな動画を見かけた。

"What Went Wrong?"

この文言はまさに、東京ディズニーシーの現状を映し出していると思う。

現実は虚しい。
何を隠そう、東京ディズニーシーがファンからオワコンと言われるのは、これまでに見てきた「完璧なストーリーを一流サービスの背景として活かす」という姿勢が全く見られなくなったからなのである。

この記事は、『素直で丁寧だった頃のディズニーシーの話をしよう【ここがへんだよディズニーシー③】』の続きもの。
ここまで、東京ディズニーシーを讃える海外ファンの言葉“THE BEST”を分析してきた。そこで続く記事では、東京ディズニーシーの“What Went Wrong?”という問いに向き合ってみたい。


切磋琢磨か、足の引っ張り合いか

東京ディズニーシーは2021年に20周年を迎えたが、これまでの歴史を振り返ると、恵まれたことも幾つかあった。
周囲に拡張用地が豊富だったため、大型のアトラクションが次々とオープンする一方で、開園当初から存在するアトラクションは2つしかクローズしていない。また新規アトラクションはいずれも世界のディズニーパークで10〜20年前に流行ったものを東京ディズニーシー流に大胆にアレンジしたもので、海外ファンからはオリジナルよりもすばらしいと評されることも多い。

問題なのはそれ以外である。

孤立したインスタントなストーリー

2016年にポートディスカバリーにオープンした「ニモ&フレンズ・シーライダー」は、「ストームライダー」をクローズして新たに造られた。外観はそのまま利用され、ノスタルジックな金色の部分がそのまま水色に塗り替えられている。そのため、ポートディスカバリーのほとんどすべての施設もこれに倣い、かつての金色を水色に塗り替え、それに伴って大幅なストーリーの書き換えを行なった。この書き換えの際、かつては存在した施設間のつながりが置き換えられることなくそのまま消滅するということもあったのである。

2018年、「セイリングデイ・ブッフェ」がクローズされ「ドックサイドダイナー」にリニューアルした。「セイリングデイ・ブッフェ」は、S.S.コロンビア号の処女航海を記念したパーティをテーマにしていた。その一方で、現在の「ドックサイドダイナー」は単に「にぎやかなアメリカンウォーターフロントにある貨物倉庫を改装して作られ」たと紹介されている。未だエンディコット家に関するエピソードは事欠かないが、「何故、貨物倉庫をレストランに改装したんですか?」と聞かれて答えられる人はいないだろう。

2018年春のイベント「ピクサー・プレイタイム」では、パーク内をカラフルな装飾が彩った。こう聞くとすばらしいようだが、実際は東京ディズニーシー全体をすごろくに見立てるというコンセプトで、各テーマエリアの個性豊かなデザインを上から塗りつぶして見えなくするというものだった。活火山島に造られた19世紀の秘密基地がテーマとなる「ミステリアスアイランド」では、島の所有者であるネモ船長の頭文字を取った通称「Nマーク」の上にピクサーロゴのルクソーボールが描かれた。

TPOをわきまえられない人は嫌われますよ

サービスがストーリーに歩み寄るという姿勢も、失われつつある。

「ザンビーニ・ブラザーズ・リストランテ」におけるカウンターの区分けは中止となってしまった。それどころか、“Pasta DI Primo”「プリモのパスタ」“Pizza DI ANTONIO"「アントニオのピッツァ」"RISO di ENRICO"「エンリコのリゾ」とあるが、2023年現在はリゾットは提供されていない。三兄弟のうちエンリコだけハブられている状態である。「お前の飯ねぇから!」

「ミゲルズ・エルドラド・キャンティーナ」は、中央アメリカのジャングルをテーマとするエリア「ロストリバーデルタ」にあり、探検家たちが前哨基地として使用するウェルカムな雰囲気の酒場だ。ここのメイン料理はのタコスやトルティーヤといったメキシコ料理であった。また、メキシコ音楽の演奏イベント「ムジカ・メヒカーナ」を公演していた。現在、フードメニューはシーズナルイベント限定のものがほとんどであり、ライブスタジオとしても使用されてはいない。

2022年以降、S.S.コロンビア号前のドックサイドステージでは「ジャンボリミッキー!レッツ・ダンス!」が公演されている。これが1日5回公演されているから、原寸大の豪華客船の中に存在するレストラン「S.S.コロンビア号・ダイニングルーム」や「テディ・ルーズヴェルト・ラウンジ」を予約しても、20世紀初頭のオーシャンライナーの雰囲気を味わい切ることはできないだろう。

以上のように、東京ディズニーシーは二重の意味で衰退している。
「サービスとストーリーのシンクロ」という東京ディズニーシーの魅力は、「ストーリーのつながりが軽薄化し、サービスクオリティの低下を許す」という方向と「サービスクオリティの低下でストーリーをサムいものにする」という方向の両者から破壊されつつある。

ディズニーはどこにいくのか?

では、テーマエリアをめぐるこの物語は、一体どこにいくのだろうか?

この未来を予見していたのが、シリーズで繰り返し引用している新井克弥(2016)である。
新井(2016)はこれを日本(ひいてはアジア圏)独自の消費文化として分析しているのだが、2023年現在の状況を見ると、別の解釈も成立するのではないか?

次回、「人生に全く必要のないムダな知識“テーマエリア研究”」あるいは「ここがへんだよディズニーシー」はいよいよ完結を迎える。

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『「へ〜〜まあ一応ストーリーがあるんだ〜〜」とならないために【ここがへんだよディズニーシー⑤】』

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