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UXデザイン実践の第一歩は「ユーザーの本当の想いを知ろう」というスタンス

初めまして。TAMのUXデザイナーの吉本です。

TAMでは、コンセプト設計に向けたUXプランニング、そしてディレクションを担当しています。これまでJAXA有人宇宙技術部門や立教大学、マイナビ、幻冬舎といったクライアント様が社会に発信したい新しいWebサービスのUXデザインに関わらせていただきました。

最近、DX (デジタルトランスフォーメション)やVR(ヴァーチャルリアリティ)、自動生成AIといったテクノロジーの劇的な躍進を目の当たりにして、最新テクノロジーの活用を考えている企業様も多いのではないでしょうか。

「もっと多くの人々が感動するような製品やサービスを、世の中に広めて成長していきたい!」

世界中の企業様が切望している大きなゴールだと思いますが、「そのゴール達成に貢献するのはテクノロジーだけの力なのか?」正直いつも自問自答しています。

「まずは、オフィスの外に出て、満足してほしいお客様と一人でも接し、そのユーザーの行動や価値、感情に寄り添うスタンスではないか?」

約9年間に渡るUXデザインの学術研究と実践経験から強く感じていることです。

今回は自己紹介も兼ねて、UXデザインに惹かれた背景と、失敗しながら学んだこと、そして「UXデザインにつながるマインドセット」についてご紹介いたします。



◼️UXデザインにつながる体験

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「なぜ自分がUXデザインに惹かれていったのか?」。振り返ってみますと、アメリカにてインタビュー・取材を通してドキュメンタリー製作や国際報道に関わってきたことが、大きく影響していると思います。

もともと子供の頃から映画が大好きで、いつか本場アメリカで映画製作を学んでみたいと思い、20歳の時に渡米しました。ロサンゼルスの州立大学で学びながら、「いつか大ヒット作を作るんだ!」みたいな青臭いことを最初は考えていました。

しかし、実際の大事件や波乱万丈な人物について描くドキュメンタリー映画製作に関心を寄せていくようになります。フィクション映画よりもメッセージ性が強く、視聴者を惹きつけるパワーがあると感じたことが理由でした。

卒業後、現地である日本のテレビ局の国際報道にも携わるようになりました。インタビューや現地取材に同行することも多く、特にメキシコ国境での不法移民に関する取材は思い出深い経験です。

学校でのいじめがつらいと、泣きながらインタビューに答える不法移民の子供の姿は、「人種差別」の理不尽さが一瞬で痛く伝わりました。
さらにメキシコとアメリカの国境沿いに広がるバラックだらけで荒れ果てた貧民窟は、貧富の差というを現実を目の当たりにした忘れられない光景です。

そのときです。

記事を書くとき、映画を作るとき、そして新しいサービスを作るとき、重要なヒントを得るには、外に出かけて行って取材し、人々の想いを直に聞くことがとても大事だということを学びました。


◼️失敗ばかりで学んだデザイン思考

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帰国後、映像だけに囚われず幅広くデザインの領域について勉強し直したいと思い、31歳で大学院に入学し、デザイン思考に出会いました。

イラストレーターやWebエンジニア、アニメーターのようなプロでなくても、創造性を引き出し、新しいイノベーティブな商品やサービス体験を生み出せるアプローチに興味を持ちました。

デザイン思考は、アメリカのデザインコンサルティングファーム「IDEO」が提唱したイノベーションを創造する考え方ですね。問題解決の方法とよく言われがちですが、人々の生活を満足させて、社会に新たな価値を生み出すためのアプローチと捉えるべきでしょう。

具体的なプロセスでいうと、

1. ユーザーの行動をじっくり観察・分析して、潜在的なニーズを抽出してペルソナを作ります。

2. ペルソナが満足してもらえるアイデアを重ねてプロトタイピングを繰り返す。

3. ユーザーテストを重ねながら、新しい商品やサービス、事業などの新しいコンセプトを創り出す。

というものです。

ロンドンとニューヨークへの海外留学も含めて、3年間は失敗が多かったように思います。特にユーザーの行動観察から新しい価値を導き出し、精度の高いペルソナを設定については苦労しました。

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ある日、リサーチに行く前に、ユーザー対象者のことを綿密に調べたところ、教授から、

「ユーザーについて余計な知識を入れると先入観で観察してしまう!対象者の言葉や行動をそのまま尊敬して、観察しろ!」

と怒鳴られました。多少無知で失礼でもいいから自分の解釈は捨てて、実態を見ないと、新しい価値は抽出できないということなんですね。意識改革は苦労ばかりでした。

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ロンドンの大学院では「Ageing Society(高齢化社会)」をテーマに、新しいサービス開発プロジェクトに取り組み、市内を歩き回って道行く高齢者に声をかけてはアンケートを取りました。

しかし、その結果を教授に報告すると、

「ただ話を聞いだだけではダメ。実際に高齢者の方が過ごしている環境に接して、その雰囲気からヒントを得なさい。」

と少し呆れ気味で言われてしまいました。

まだ他人の生活にドタドタを入り込むことに抵抗はありましたが、メンバーが老人ホームセンターに掛け合い、そこで書道教室や日本語レッスンなどのイベントを通して、イギリスの高齢者の方々の行動を観察でき、有益なヒントを得ることができました。


◼️制作現場で導入してみて

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実際にWebサービス制作の現場で仕事を始めてから、デザイン思考も含めUXデザインの手法を使おうとした時、多くの殻を破らないといけないことに気づかされます。

ひとつは「軸は守りつつも、進め方やメソッドにこだわらない」ということです。

私の場合、「学術分野で使われるUXデザインなんて無意味と思われている雰囲気」に気づかされたことがきっかけです。

「手間のかかる方法を使う時間はない」「専門家でなく一般の人にヒアリングして意味があるのか?」「クライアントを巻き込まないでアイデアはプロが考えるべき」といった意見に驚かされてきました。

あるお客様グループと一緒に、施策アイディエーションのワークショップを開いたことがあります。

ユーザーヒアリングから理想に近いターゲットを用意して準備をし、気軽にアイデア一緒に考えてもらおうとしたのですが、参加された方々から戸惑いがにじみ出た雰囲気が漂い、十分なアイデア数をいただけず、中から「こんなアイデアって意味あるの?」と懐疑的なコメントを投げられ、対応に閉口してしまったこともありました。

これまで、お客様と共に新しいWebサービスのUX設計に関わってきましたが、様々な反省からプランニングについては試行錯誤の連続です。

頭の引き出しにある様々なUXデザインの手法を選んで、パズルのピースをはめながら、一番最適な進め方を提案するようにしています。

その背景には、限られた日程と予算内でいかに効率よく、コンセプトを作るかを迫られるからです。

そして、UXデザインの有効性、特にユーザーの些細な行動や意見の重要性、をお客様にしっかり説明して理解してもらうことも、実際の現場から学んだと思います。


◼️UXデザインにつながるマインドセット

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余談になってしまいましたが、このようにデザイン思考はUXデザインを進める上でのひとつのアプローチに過ぎないのです。手法やメソッドは、アレンジし放題ですし、自分で考え出してもいいものだと思います。

ただ、その前にUXとは何か?を理解しておくことは大切です。

「UX = 利用者体験」と言ってしまえば多種多様な解釈が生まれてしまいます。新しい商品やサービスの利用者体験を作っていく開発者であるならば、

UX = 「ユーザーのコンテキスト(環境や状況)」+「ユーザーの目的」

と捉えるのはどうでしょうか。

コンテキストは「文脈」と言われますが、いわゆるユーザーの環境、状況、状態、背景です。

人間が生きている以上、世界中で約70億人の人々が、日々それぞれコンテキストに囲まれて何かを体験しているわけです。

つまり、これこそユーザーの体験を形作るための大事な要素になります。

そして、人には体験するにも要求があり、その要求のために目的をクリアしていきます。つまり、ユーザーには何かしらのコンテキストに取り囲まれて、何かしらのタスクをクリアしていこうとしているんです。

なので、その状況を踏まえて、ユーザーがタスクをクリアしてもらうため、ユーザーのコンテキストを理解して、サービスやデザインを作ろうというのが、UXデザインということです。

そうなると、私が体験したデザイン思考の学びから言えることは、

1. 自宅やオフィスから飛び出して、ユーザーの声を聞きに行く意欲はありますか?

2. コンテキストを知るために、自分の先入観を捨てることができますか?

3. 徹底してユーザーの環境や状況をに接することができますか?

と自問自答してマインドセットすることが、UXデザイン実践の第一歩だと思います。


■まとめ

過去に多くの企業が、UXデザインを使ってみることで、人々のライフスタイルをより豊かにする製品やサービスを提供してきました。

それを実現させるためには、ユーザーに寄り添い、ユーザーの行動を観察して、コンテキストを知ることから始まります。そこから新しいアイデアが生まれてくるのではないでしょうか。

次回は、 UXデザイン手法における、プロジェクトの始め方からユーザー行動観察・インタビューへの準備までのプロセスについてご紹介します。