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UXデザインで重要な準備フェーズ!「共創」を大事にしたチーム作り・目的設定・リサーチ準備

こんにちは。TAMのUXデザイナーの吉本です。


前回は、「UXとは何か?」と「UXデザインを実施するにあたってのマインドセット」についてご紹介しました(前回の記事)。おさらいしますと、「新しい体験ができるサービスをユーザーに提案するために、そのユーザーの行動や嗜好を理解し、コンテキストを知る」でした。

私自身もこの姿勢を大切にし、「子供たちは日本の宇宙開発について、どのように興味を持ち学ぶのか?」「医学生は最適な研修先を見つけるため、どのように行動をするのか?それはなぜか?」など、多くのユーザーに接しながら、サービス設計の仕事に取り組んできました。

「新しく社会にイノベーションを起こすためには、消費者やユーザー、顧客の⾏動を中⼼に考えて視野を広くし、考え方を柔軟に!」という、デザインシンキングのテーマを叩き込まれた結果かもしれません。

デザインシンキングは、「1.共感・理解」「2.問題定義」「3.アイデア創造」「4.プロトタイプ化」「5. テスト」というプロセスが基本です。

もちろん、予算やスケジュール、人員体制によって、今ではデザインスプリントやマーケティング手法の要素を取り入れたり、アレンジしながら進行することもあります。

ですがやはり、ユーザーのコンテキストを探りながら思いがけない課題やアイデア要素を得るには、「1.共感・理解」から始めることが、とても有効的です。

今回は「1.共感・理解」のステージに取り組むための、準備ポイントについてご紹介します。

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1. まずはユーザーとの「共創」だという認識を大切に。

新しいWebサービス開発やサイトリニューアルのご相談をいただく上で、すでに目的や課題、ターゲット層、サービスシステムの構成など、計画書をクライアント側で用意されていることが多々あります。

綿密な計画を練られて素晴らしいものばかりですが、私は改めて「ほんとに、この要件定義や計画内容がユーザーにとっての価値を生み出せるのだろうか?」と、まずは自分に疑問を投げかけるようにしています。

その理由は「ユーザー利用に関する行動や嗜好についての情報が十分に提示されていない計画書が多いため」です。

例えば、顧客の属性情報やGoogle Analyticsの分析情報はよくご共有いただけます。

しかし「どのような状況だから、顧客はこのサービスを使うのか?」や「顧客はどのように操作して、製品を購入へたどり着くのか?」など、行動パターンや、その背景・理由まで記載された調査結果報告書を提示いただいたことは、記憶に残る限り1回しかありません。

そのためクライアントの希望は大事にしつつも、ユーザーが求めるニーズや嗜好を少しでも理解して、改めて要件内容を噛み砕き、新しい価値あるサービス体験とは何かを模索することが、大きなポイントであり、心構えとして大事だと思っています。


2. 刺激しあえるメンバー集め

リニューアルも含め、新しい「何か」を作るうえで、知識・スキル・センスなど多様性のあるメンバーの協力を求め、幅広い視点から刺激しあえるチーム作りをすることも理想です。

プロジェクトの上層ステージでは、ディレクターやプロデューサーといった同じ分野のメンバーだけでの構想だと、知識や思考の幅が狭くなりがち。

そこで、デザイナーやエンジニア、広告プランナーなど、様々な分野のプロも参加いただき意見を出し合うことで、さらに視点が広がりオリジナリティに富んだサービス開発へと進めることができます。

また、チーム活動を柔軟に進めていく行動派メンバーの存在は重要です。

一度議論して思い立ったら、すぐに外へ出て調査し、リソースをアイデアに取り入れていくようなメンバーが一人でもいると、自然にメンバーへの刺激となり、大きな推進力となるので、プロジェクトの発展と成功に近づくようになります。

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3. 何を作りたいか「えいや!」で仮目的を設定し、ステークホルダーを描く

要件定義も踏まえた上で「目的」または「ビジョン」を仮設定することも有効です。

「ビジョン」は一言でいえばチームの「欲望」です。一度「こんなサービスにしたい」や「こんな風な便利なWebアプリが欲しい」など具体的に1行で書いてみます。

例えば、「自分のCDコレクションを持ち運べる”ウォークマン”が欲しい!」は、誰もが知る人気オーディオ「iPod」を開発する際に最初に掲げたAppleのビジョンだったそうです。

ビジョンを一回設定する理由は、大きな目標や方向性を一度具体的に設定することで、チームの認識合わせと、プロジェクト進行の潤滑油として進めやすくなることです。

ただ私の経験上、研究プロジェクトを始める際に、メンバー同士でこだわりがぶつかり合い、完璧な目標設定を作ることに議論が白熱して、なかなか方向性が決まらないことがありました。

その時は、「えいや!」と勢いで一度設定することがポイントになります。顧客ターゲットへのインタビューやリサーチによって、改めてビジョンの方向性を変更できるので、次のステージに進めるために、1つのビジョンにこだわらないように気をつけています。

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また「ステークホルダー(利害関係者たち)」を整理してみることも、準備としては有効です。

ビジョンを実現する上で関わる「購入者(ユーザー)」「商品開発者(クライアント)」「販売者(クライアントの営業部)」など、属性と価値をひと言短く定義するだけでも、どのような人たちにインタビューや行動観察を行えば、ヒントになる課題感や気づきを得ることができるか見えてくるからです。

私の場合、ユーザーやクライアントへのインタビューする際の準備作業として、またはチームメンバーとの認識合わせとして、ワークシートを使ってまとめてきました。

さらに、関係者の属性と価値を設定してみると、どのような体験やサービスができれば互いにWin-Winとなる新しい購買体験ができるかを見られるので、後のコンセプト設計やシステム構築の参考にもなります。

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4. ユーザー行動調査・インタビューへ進む前に

いよいよ「共感」ステージの要である、ユーザー行動調査・インタビューへと進めていくことになります。私の場合は、始める前にまた一歩下がって、改めて下記3点の準備をするようにしています。


[1] 観察やインタビューで注目したい、フォーカスポイントを決める

既存サービスを使うときの様子を観察したり、ユーザーの体験談を聞いたりしている中で、「どのようなことに注目すべきか」を決めるようにしています。

例えば「既存のアプリを使ってもらいながら、操作している手の動きと表情に注目する。その際、アプリの操作性と視認性の課題を見つける」といった具合です。

その背景にあるのは、1つの失敗体験でした。研究生だった時にある靴屋さんのお仕事ぶりを行動観察をさせていただいたのですが、店長さんがおしゃべり好きで予想外な意見が飛び交い、さらに新しい発見がたくさんあったため、そちらに話が膨らんでいきました。そのため、一番知りたかったことを聞き出せなかったという失態に。。。

インタビューや行動観察は協力いただく方々の時間も限られています。なので「自身が設定したビジョンにとって役立つヒントは必ず抑えておく」というフォーカスポイントを設定することは重要です。

最近では、下記のようにガイドラインをまとめて、準備の際にはチェックするようにしています。

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[2] アンケート結果やクライアントのお客様から、協力者を探し出す

インタビュー対象者を実際に選ぶことは簡単ではありません。

最適な協力者を見つけることも大事ですが、そのために時間と工数を増やしてしまうと前に進めません。しかし、だからといって「無鉄砲に誰でもいいのでインタビューを開始する」などという方法も得策ではありません。

そのような時は、私たちはクライアント様の協力をお願いすることがあります。クライアント様によっては、営業先のお客様とのネットワークや、過去に集計しているアンケート資料をすでに持っていることも少なくありません。

営業部署の方からお客様を紹介いただいたり、アンケート資料から設定したステークホルダーに近い候補者を選定したりして、準備を進めていきます。私たちの社内スタッフに当たって探すこともあります。

このインタビュー対象者を決定することが、一番労力を使うステップだと思います。


[3] ラポールを築く

ユーザー行動調査・インタビューに協力いただくということは、貴重な時間と労力を協力者にお願いすることになります。そのため、「ラポール」を築くことは重要です。

ラポールとは心理学の用語で「私たちとユーザーとの間に、お互いの信頼し合い、安心して感情のさらけ出すことのできる関係が成立した状態」という意味です。

協力いただける方のプライベートな部分まで観察したり尋ねたりするわけですから、安心できる信頼を築かないと、相手も正直に答えてくれません。

私が取り組んだ研究プロジェクトでは、民族誌調査の対象として三重県南伊勢町に住む80歳近くの郷土史研究家を探し出し、何度もご自宅へ足を運んで交流を深めました。

その結果、街の文化や人々の生活スタイルについて貴重なお話伺うことができ、コンセプト設計に役立てることができました。最後には、その方は研究成果のプロトタイプのテストまでご協力いただきました。今でもとても感謝しています。

つまり、より有効なインサイトやユーザー価値、コンテキストを抽出するためには、お互いの信頼関係を築くことが大事だということです。

最近でクライアントの顧客にインタビューを協力いただく時は、ご案内状を配布したり、一度電話でお話ししたり、数分でもいいのでオンラインミーティングでお話しするようにしています。地味な作業ではありますが、この準備が一番大切だと感じています。

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最後に

「ユーザーのコンテキストを知って、新しい施策やコンセプトのヒントを得る」という手法がUXデザイン特徴の一つです。

そのためには、いいチーム作りをし、モチベーションが高めるようなビジョンを一度作り、作りたいものを使ってくれるターゲット層を考え、協力者ユーザーと信頼関係を築く、といった準備期間が必要だと思っています。

その結果、本当にユーザーに共感しながら行動調査とインタビューが実現でき、面白い気付きやヒントが得られるはずです。

次回は、具体的なユーザー行動観察・インタビューの取り組み方と、ターゲットペルソナ設計のポイントについて、ご紹介します。