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おはなし保管庫

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現実に重なる不思議なおはなし(小説、フィクション、言い伝え)保管庫
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#音

陽の光に向けて

陽の光に向けて

真っ白に花が浮かぶ、真っ暗な山道を。ひとり、歩く。

空の向こうに、ぽこっと見えるまん丸な月。その光を吸いこんだように、白く光る花。

風がふっと通り過ぎたら、小さな光たちがふわふわと目の前をこぼれて、落ちる。

夜の山を歩くのは怖い。けれど、この桜の花が咲いている時だけは好き。

怖いけれど、好き。
そんな春の夜。

耳の奥で、じいじいと音が鳴る。静かすぎる山の中で、山神さんが人の世界をみつめて

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ふらふらした記憶の帰る場所は

「こちらは地域防災センターです。地区の防災に関するお知らせをいたします」

毎朝6時に始まる地域防災センターからの放送は、11時と16時半にも放送される。そして、18時にはサイレンの音と「お帰り放送」。

その放送は、ぽつぽつとあったスピーカーから聞こえる。田んぼの途中や、集落の上、地区の公民館、学校と役場。それぞれの場所から、盛大な音量でお知らせが流れ出る。

カラスがねぐらに帰る鳴き声、どこか

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