３話：👽は言った。「中でオシッコしてもいい？」

　このケース、「嘘も方便」という言葉すら適合しない

　私は、電気グルーヴの音楽を聴いていた。そう、自然に体が熱くなり、動いちゃうようなあの、電グル。そしてトイレの個室に男と二人で籠っている。電グルの音楽に別に呼応しちゃいないが、私はため息だの、アー、だの、アーン、だの、そこ気持ちいい、だの、もっとして、だの、もうほしい、だの言っちゃっている。男の格好と言えば、Ｔシャツは体に張り付いたままで、薄い色のデニムとピンクのパンツを片方の足にひっかけている状態だ。私はふたを閉めた便座に座り、その上にその男が、そんな恰好でまたがっている、そんなわけだ。それは、とてもありふれていて、普通の光景だ。男は、終始無言だった。ただ、汗はやたらとかいていた。無臭の汗だった。鼻水も垂れていた。目ヤニもついていて、涙もにじみ出続けていた。私は先に挙げた、私はため息だの、アー、だの、アーン、だの、そこ気持ちいい、だの、もっとして、だの、もうほしい、だの言っている割には、最初の私のリクエスト通りに、男はおそらく、私を本気で「犯して」いたから、私も「犯されている」という気持ちに自然となっていた。昔の映像を見ているみたいだ。そう、長野。逆さにしたシルクハットの底辺に、私の父の実家はあり、その熱くて狭い押し入れの中で、私の9つ上のいとこのお兄ちゃんは、私の舌を吸ったし、乳首を舐めたし、それらはだんだんエスカレートして、フェラチオの訓練も受けたし、クンニもされた。私はクンニされ、気持ちよすぎて何回も連続していって、頭を私の股間から、離そうとしたお兄ちゃんの頭を、両手で、力を込めて、上から押さえつけ、クンニを続行させようとしたほどだ。そんな風に、押し入れの中では、ある意味わがままで、甘ったれで、してしてして、という根性を持っていたくせに、いとこたちの場、親戚たちの集い、広げて言えば、幼稚園だの学校だの、ご近所の子供同士だの、そんな社会性の中に置いては、おとなしく、主張もそうはなく、自分から話しかけるなどあまりなく、運動も嫌いだったし、趣味と言えば、読書と整理整頓といった子供で、その割に、皆に話しかけられ、それに対して仏頂面という私ではなく、異常なほどのサービス精神も人より抜きんでて育っていた子供であったし、だから、めっぼう愛想もよく、そのころが絶頂期ではなかったか？　と自分でも思うほど、喋りにもたけていて、私の周りではいつも、どっ、という笑い声がおこっていたし、つまり人を笑わせるのが得意であったし、迎合精神も持ち合わせ、コミュニケーション能力も高く、自己肯定感がいまいち薄いが故の、プライオリティを他者を優先させるという癖から、人に対してとてもやさしく、他者の私への評価と言えば、面白くて、明るくて、優しいくみちゃん、というものだった。よく言うよな。これを読んだとき、お前はお前をやけに褒めすぎであると反感を抱き、他者からの評価なんぞ、己の主観でもって、わかるわけがあないではないかああという人もいるかもしれない。けれど、私は、幼いころに、とうに、私は押し入れの中で、舌を吸い、オマンコを舐めてくれる、お兄ちゃんが大好きであるけれども、お兄ちゃんに言わせれば、いとこの中では、くみが最もめんこい、その程度の比較の上での、オマンコ舐めであって、私は私という存在の絶対ではないということや、比較的な存在であることや、そのころ頭の中で、明確に考えられないことではあったが、今思うと、人間の相対性、存在の矛盾ｗ、そんなものをうっすらと、感覚的につかんでいたのだと思う。私は私という意識を持っている。それなのにほかの人もほかの人特有の意識を持っている。あーーあ、それぞれは、別個の意識であって、私たちは比較したり、未来を想像してみたりとかしちゃう、相対的な生き物なのだなあという感覚を。まあ、だから私自身を相対的に見えたのだ、と主張するわけでもいのだが、いちいち説明させんなよｗ。そういうことってだいたいつかめるもんじゃん。
　そんな「思い」や、そんな胸に水圧が増してくるような思いが、なぜかトイレの個室の壁に両腕を「つかされて」バッグから入れられているときに、私は「あーん。すごくそこ当たってる。そこもっと。そここすって」と言い、どうも私って、サービス精神から抜け出せねえや、と思ったときに、一気に胸を占めている水分の水圧が高まり、フリスクとは別な涙の流し方でもって、私は涙を流してしまったのだ。
　そして、トイレでの珍事をけろっと忘れるという風にはいかないが、割かし、薄れていき、ただ、帰りの電車の中では、ケータイでまた電気グルーヴを聴いていて、そのライブの楽しかった模様を反芻し、楽しかったなあ、と、ついさっきの思い出を反芻しても楽しくて、辛くも座ることのできた、電車の座席で、そうにやにやとするほど、私は周りが見えない外基地ではないが、楽しかったなあ、楽しかったなあ、楽しかったなあと反芻し、けれど、その電気グルーヴの、ステージでのまばゆい、興奮を煽る、光の点滅が、私の脳裏に浮かんでいたわけではなくって、やはり、楽しかったなあと思いながら、頭の中は、空っぽのような気がしてしょうがなくって、ほら、きれいだよ、見てごらん、と渡された万華鏡を覗いてみたら、その先には、白という色とも言い難い、なんと表現していいのかわからない、ただの「何も見えない」という状態であったのであった、というイメージがあるのみだった。そして私は万華鏡を渡してくれたの人が、友だちだったり、セフレだったりしたときに、「きれいだねええ！」と言うだろうと思う。なんにも見えないくせに。そして、「ありがとう」とも言うだろうと思う。それを思ったときにふっとさっきのトイレでの珍事っていうか、セックスｗを思い出したけれど、それがどうっていうことでもなくって、ただ、私ってこうだし、きっとこれからもこうだろうし、でももしかしたら、この先になにかがあるのかもしれないし、それは今の私に予見できることではない。けれど、そうは言ったって、その予感って、うっすいなあ、平板だなあ、まるで、畑しかない田舎道に一本道があって、その一本道は、どことつながっているわけでもないのに、ひとりで歩き続けているみたいだ、とも思った。そして、家に帰ると、いつも通り、インスタントの甘いコーヒーをいれて、テーブルに置き、ベッドに寝っ転がったまんまで、まこと君にラインしたのである。
「たらいま！」
「おかえり～、どう？　楽しめた？　ライブ」
「うんっ。楽しかったよ。でもさあ、私、犯されちった。そうそう。ライブハウスのトイレの中でね」
「え？　おまえ、したの？」
「したっていうか………。ま、したんだよね」　　　　　
　もしかしたら、私はなにかの脳の知的障害があると思った人もいるかもしれないｗ。違うのだ。私はこう考えたのだ。私は、能動的に、やはり、あくまでも能動的に、フリスクとセックスをしたのであって、明らかに、まこと君との約束を破っているのだ。約束を破ってしまった。それを隠すということ。これは「嘘をついている」という状態にならないだろうか、と私はピュアであるｗ。人は言う。「嘘をつく」と「言わない」、これは違うぜ？　だからさ、くみちゃん、今週の金曜の夜空いてる？　ひっさびさに、ホテル行こうよ。絶対に気持ちよくさせてあげるからさあ。ね？　え、彼氏？　言わなきゃいいじゃんｗ。
　幸せだったころを考える。遠い昔の幸せだった記憶。それをよーく覚えていて、何度も何度も脳の中で反芻する。リピートさせるのだ。人は雲を食べて生きていける。今がどうであろうと、過去の幸せが脳内で再生され続けるのなら、その時私は、きっと幸せな気持ちになるのだろうし、そうやっていればいいのだ。そう思う。
「終わりだな」
「え？やっぱそうか」
そんな風に、付き合った男とは言っても、一回しか会っていないのだ。まこと君の勤務するブラック企業というのは本気でブラックであり、私が知る限り、まこと君は３９連勤したりしている。部屋に来たまこと君は、すぐに私を抱き、私はすすんですぐにフェラチオして、そのフェラチオをまこと君は、すぐに押しとどめ、前戯なきまま私に挿入し、すぐに私の中に出した。なぜ中だし？と思うだろう。赤ん坊が欲しかったからだ。まこと君は私の部屋に現れたとき、真黒なファッションしていて、それがギャルソンであることはすぐに私にもわかった。そして、終わってしまった。ただ、私にとってとても濃密であった時間を過ごしただけの相手だったというだけだ。その期間は4か月ほど。ご飯も水分もあまりとらず、ゆえにセブンイレブンまで行くことも少なく、ただ、現状の報告を、ラインするそれだけであって、心がまこと君で満たされた毎日。それでいて、とてもイライラしている毎日。人は言うだろう。まこと君のその独占欲が良かったんだろう？と。愛されてる感ってやつを感じてたんだろう?と。それってダメ男とダメ女の典型だからｗ。恥ずかしげもなく、行くな！と叫ぶ。恥ずかしげもなく、ラインし続けろと言う。かっこいい男だった。勇者だった。私は年齢が43歳であるから、そのまこと君の恥ずかしさを一瞬、光を放つようなものすごいエネルギーで跳ね飛ばすさまが、とてもかっこよく見えたんだ。そのあと、私は故郷へ帰ったのである。つまり、セフレとやりまくったわけだｗ。セフレたちは、はじめチクチクと、まこと君の悪口を言っていたが、人の忘れっぽさには驚くばかりで、実に驚くばかりで、すぐにまこと君の話も、言の葉に上ることもなくなっていった。
　次にシステムエンジニアと不倫をし、次には、建築と不動産の会社を経営しつつ弁護士の資格を持つ男と付き合い、次は料理店を経営するドＳと付き合った。セフレたちは今はラインもカカオもブロックしているが、その付き合った人たちは、いまだ、ブロックしていない。今は3月であるから、3か月前に正月を迎えているｗ。その時に私はハッピーニューイヤー。今年も宜しくね！とラインをしているが、理由は後程口述するが、不倫以外の全員が全員、すぐに既読にはなった。ラインはブロックされてはおらず、つながってはいることが確認できた。けれども、返事は帰ってこなかった。人はもしかしたら、それを既読スルーと呼ぶかもしれない。私はこれら、つきあった男性の誠実さややさしさ真面目さ、かっこよさを再確認し、それらを、私の誇りにも思えるのだ。わからない人がたいていだろう。しかし私は言ったはずだ。男女の関係の一般化なんぞに、はじめっから興味なんてないのだと。一対の男女は、生殖から発生するはずの「好き」という感情を抱く癖に、そこからはみ出る幻想を共通して持ち、それらはどうしてもはみ出るし余ってしまうし、生殖に還元されえず、生殖からはじかれる。それらをきちんと、その男性らと、ともに一時期ではあるが、共有できたという思い出。それらをほかの奴らが、どう思っても、どうという気持ちにもならないし、私の心に生えている川辺の葦は、そよ風にそよぐふうでもない。なんの影響も葦に与えていないのだ。
まず、不倫相手は、心配性だった。不倫が家庭にばれることを心配するという意味じゃない。私のことをやけに心配した。うちに来るときはサンドイッチや、じゃがりこを持参してきてくれた。また、挿入後、延々オマンコをかき混ぜて、それらのワードはつぶさに覚えていないが、ある種のいじわるな言葉をかけるのことが性癖のようだった。けれど、ある日、突然、カカオのアカウントが消えてしまった。その日の朝、彼の通勤時にイチャイチャと、会話があったというのに、その会話は、ナチュラルに続きが今にも始まりそうなふうなのに、その後、突然アカウントは消えた。ブロックではなかった。名前まで消えているところを見ると、カカオのアカウント自体を削除したらしかった。私はカップラーメンを時々食べながらも、2日間、あまり睡眠もとらずに、号泣し続けた。そして今でも時折涙ぐむｗ。どうして、あれだけ、好きだったまこと君とは「え？やっぱりそうか」という風に終わり、カップラーメンを時々食べては、号泣し続けるという現象が、起きなかったのに、不倫ではそれが起きたのかは、私にもわからないことだ。ただ、不倫は、たまに私を車の助手席に乗せ、黙ってドライブをすることがあった。私はその時間がとても好きだったし、居心地がよく、眠るまいと思っても、ついつい眠ってしまった。寝ているはずだ。けれど、時折、カーナビの音声は、耳に入ってくる。私は、眠っているはずだ。それだけのことだ。

５話：👽は言った。「中でオシッコしてもいい？」に続く！