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2台ピアノ第九 清水和音氏と髙木竜馬氏による歓喜の旋律

ベートーヴェン交響曲第九番「第九」といえば、年末にオーケストラと大人数の合唱で奏でられる名曲と思い浮かべることでしょう。それを2台のピアノだけで演奏されるとはどんな感じなのか、想像するとワクワクしかありません。それはこの夏に4台ピアノ演奏を聴き、ピアノだけで奏でる交響曲の素晴らしさに触れたからです。4台ピアノコンサートピアニストの一人、髙木竜馬さんが親子ほど年の離れた大ベテラン清水和音さんと共演すると聞けばこれはもう行きたい気持ちを抑えられませんでした。


第九といえば

「第九」とは、1824年ベートーヴェンが54歳(今の私とほぼ同世代!)の時にウィーンで初演された交響曲第9番「合唱付き」のことで、そのメロディは年末になると耳にする言わずとも知られる名曲。ベートーヴェンは若い頃から難聴に苦しんでおり、54歳の頃はほとんど耳が聞こえていなかったと言われている。

苦労を重ねてきたベートーヴェンの音楽は、「苦悩を克服して歓喜に至る」劇的な志向があり、それは第九でさらに果敢に推し進められた。(プログラムより)

ドラマティックに始まる第一楽章、印象的なフレーズが耳に刺激的な第二楽章、美しい第三楽章、そして歓喜の歌と共に最高に盛り上がる第四楽章。パワーに溢れたこの曲は一度聞いたら胸に残る名曲。人類最高の芸術作品とも言われている。

リストが編曲した2台ピアノ版の第九

フランツ・リストはベートーヴェンより41歳ほど歳下の超絶技巧を持つピアニストでもあり作曲家で、ウィーンでのデビューコンサートの後にベートーヴェンに会うことができ、賞賛されたという。リストはこの出会いを終生の誇りとしており、彼はベートーヴェンの全交響曲をピアノ用に編曲した。まさにベートーヴェン作品への愛の賜物。すごい!

第九の2台ピアノ版は
「リストも『第九』を人類の遺産だと思っていたのではないかな。ベートーヴェンの原曲を最大限に活かして、編曲がかなりうまくできている。」
とプログラムで和音さんが述べている。

同じくプログラムで竜馬さんは
「ピアノという限られたなかで、いかにしてオーケストラを表出していくかということを、リストはここで極めようとしたのではないか。リストが残してくれた鍵盤技術のある種限界に近いようなものに近づけたら・・・あれだけ聴いてきて、あれだけ愛する作品を、ピアノで弾ける。これほど幸せなことはない。初めてコンサートで弾いたとき、どういう気持ちになるんだろう?」
と語っている。

超絶技巧盛り沢山の2台ピアノ第九をお二人がどんな風に弾くのか行く前から楽しみでしかたなかった。

このお二方ならではのベートーヴェン第九

東京オペラシティコンサートホール

コンサート会場は東京オペラシティコンサートホール。二つのホールをもつオペラシティ。私は小さいリサイタルホールへ行ったことがあるが、コンサートホールは初めて。一歩中へ入ると木の香りがして天然木がふんだんに使用されたホールに思わず「わぁ〜素敵!」と声が出てしまった。一緒に行った友人もこのホールは初めてとのことで二人揃ってコンサートが始まる前から感動してしまった。

美しいホール✨

実はこの友人こそ、私がピアノを大人になって再び習い始めるきっかけを作ってくれた、20数年程前にピアノ連弾を誘ってくれた友人である。久しぶりに会えて、一緒にピアノコンサートへ足を運べたことに幸せを感じる。

いよいよ始まる!

お二人が舞台に出てくると私もドキドキ。拍手で迎えていよいよ始まる。

第一楽章は、最初は遠くから聞こえてくる遠雷のような音の掛け合い。そこに大きな音が鳴らされる。ピアノだけでティンパニーの打楽器リズムやオーケストラのメロディーを奏でる。2台の4手の音の重なりにオーケストラの音の厚みもティンパニーの力強いリズムも感じられる。2台ピアノの世界に一気に入り込んでしまった。

第二楽章は最初から音の強みがこちらに響いてきて迫力がある。お二人の力強いタッチがリズミカルで気持ちいい。息を呑むような早弾きのところは緊張感があり、こちらも手に汗握ってしまう。そんな二楽章が私は好きだ。

楽章が終わるたびに和音さんは舞台の方へ顔を向けて様子を見て間合をとっていた。和音さんはさすが余裕を感じさせる貫禄があった。

二楽章が終わり第三楽章が始まると、美しいメロディに体の力が抜けて音楽に身を任せることができた。心地よい。お二人とも力強さだけでなく、旋律も静かな音も繊細で美しい。

そして第四楽章は本来「合唱付き」なのだが、今回はピアノのみ。なのに合唱が聴こえてくる。フロイデ〜と聴こえてくるのだ。まさに歓喜の旋律。独唱も合唱もオーケストラもあるかのようだ。本当にすごい。フィナーレの最高潮に盛り上がる音のシャワーがすごかった。涙が出そうになるくらい。演奏が終わると盛大な拍手。私も立ってブラボーの声を出す。70分間に及ぶ演奏が終演した。圧倒されっぱなしの70分。

嬉しいことに何度かカーテンコールで表に出てきてくれた。第九はアンコールがないのが定説らしい。あまりにも編成が大きすぎてアンコールはできないそうだ。納得。あの最高潮に盛り上がって終わった後にはもう何も演奏できないでしょう。和音さんが竜馬さんに「お疲れさん」というふうに肩を抱いていたのを見てあったかい気持ちになった。

お二人とも心震える素晴らしい演奏をありがとうございました!

ピアノってすごい ピアニストってすごい 

それにしてもピアノってすごい楽器だ。ピアノだけで交響曲を奏でられるのだ。オーケストラになるのだ。歌も歌えるのだ。ピアノならではないか。高音から低音まで幅広い音域が出る鍵盤があり、それを両手10本の指で音を紡ぎ出す。鍵盤を叩けば音は出るけれど、それでは音楽にならない。ピアニストが弾いてこそ音楽が生まれる。

そしてピアノ版交響曲を超絶技巧で弾きこなし、オーケストラ奏者にも歌手にもなれるピアニストって本当にすごい!ブラボー!

和音さんは第九ピアノ版を日本で初めて演奏された方とのこと。相方は迫昭嘉さんだった。長年一緒に演奏されていたようだが、今年は若手の竜馬さんが第一ピアノ奏者になった。和音さんが竜馬さんのピアノを素晴らしいと感じているからに違いない。竜馬さんも尊敬する和音さんと一緒に出来る嬉しさが込み上げているよう。才ある若手実力家の竜馬さん、さすがです。演奏も体を使って力強いところは凄みがある迫力で、繊細なところは美しく、本当にカッコ良かった!

オペラシティからの帰り道、演奏が頭の中でヘビーローテーションしている。消えてしまうのが惜しい。あー消えないで!

オペラシティガーデンはクリスマスイルミネーションでキラキラ✨

おわりに

実は阿南での4台ピアノ公演へ行ってから竜馬さんのことが気になって仕方なく(女子中学生か笑)今回、巨匠の和音さんとのデュオで迫力の2台ピアノ第九が聴けて本当に幸せでした。来年1月、2月と連続で竜馬さんのコンサートへ行くのです(推し活か笑)4台ピアノで縁の下の力持ち的な役割だった竜馬さん。私が素人ながらに感じたことは、低音が魅力で、体を大きく使う感じの弾き方のためか打鍵に強さがありかつ正確なタッチ、音に凄みがあるのに、弱音のところはそれは美しく優しく綺麗だなぁと感動してしまっていたのです。

今回のコンサートで竜馬さんは前日は大阪でピアノ協奏曲のコンサート、次の日はバイオリンと共演、その次の日もバイオリンと共演。4日間全く違う大曲を連日連続弾きこなしているのです。その類稀な才能と各地へ移動して弾くアスリート並みの体力、すごいとしか言いようがなく、ただただ感嘆してしまうのです。どうぞ体調管理に気をつけて、ますますのご活躍を心よりお祈りしております。

最後は竜馬さんへのファンレターになってしまった汗
最後までお読みくださってありがとうございました。

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