見出し画像

マクドナルドで感じた幸せの形について

「すみだ水族館に行きたい」
と3歳8ヶ月になる息子が言ったのは、午前10時が過ぎた頃だった。その日は息子のリクエストで図書館に行って大戸屋でお昼ご飯を食べる予定だったのだが、気が変わったらしい。我が家からすみだ水族館までは車で30分と少し。ソラマチの立体駐車場は10時を過ぎると満車になり、私たちが着くであろう11時近くに駐車するのは難しいと思われた。それでも息子が水族館に行きたいというのだから、まあ地下駐車場が空いてるだろうと思って行くことにした。すみだ水族館の大ファンで年パスまであるのだから、行きたい時に行ってやるのが親の仕事だろうと思った。

スカイツリーに着いてみると、私の予想が甘かったようでソラマチの地下駐車場も満杯なので、仕方なく近くをウロウロしてコインパーキングを探した。運よく4時間1000円の割安なところを見つけるも、道幅が狭く駐車するのが困難で、下手したら車を壁に擦りそうで断念し、その隣にあった20分300円、最大料金なしの駐車の難易度が低い所に停めることになる。車を停めて、チャイルドシートから息子を抱き寄せると「すみだ水族館行きたい!」と満面の笑みで見つめられた。小さな手を繋ぎながら緑色に濁る小さな川に沿って歩いた時の温もりは、梅雨の湿り気と涼しさを一層際立てた。

日曜日の11時前後、ソラマチの人の量は多くて、すみだ水族館のチケット購入の列は30分待ちだった。私たちはチケット購入に並ぶ人たちの横をすり抜けて、年パスでするりと入っていく。息子は一目散に大好きなクラゲコーナーに。赤クラゲとパシフィック・シー・ネットルを眺めて、オワンクラゲ、ビゼンクラゲ、カラージェリーフィッシュを足速に見てからミズクラゲの大水槽に立ち止まる。「色が変わって綺麗だね」と言うと、子供たちで賑わう小笠原大水槽の前でいつものシロワニに挨拶すると、今度は「ハリセンボン!」と言ってネズミフグを見に足を早める。水族館は人で溢れ、外国人観光客と一緒にネズミフグを満足するまで見つめ、「おしっこ!」とトイレに駆け込む。

用を足したら、スロープを下ってペンギンコーナーに急ぎ、何が面白いのか私には全然わからない、すみだ水族館のペンギン相関図のチェックに行く。「なんで喧嘩しちゃったの?」「この子は仲良いの?」と私に質問を投げかけ、私を困らせたりするのもまた可愛らしい。気がすむとペンギンコーナーの側にあるクラゲのラボに行き、成長中の小さなクラゲたちを愛でていた。
「これはオワンクラゲ?」
「違うよ、サラクラゲだって」
「バツがついてるね。なんで?」
「何でかな。ママにもわからないな」
「これもサラクラゲ?」
「これはミズクラゲだって」
「サラクラゲに見えたけど」
大好きなクラゲを見ながら私と手を繋ぎ、言葉が次々と溢れてくる。時々答えられない質問に戸惑いながらも、なるべく誠意を尽くして答えるようにする。私が分からないと、「調べてみて」とスマホを使うように指示するのが何とも賢いと親バカながら思ってしまう。

「チョウテンガンがみたい」
と息子が言うので、金魚コーナーに行くと真剣に金魚たちを見つめる。出目金をみて、「これもチョウテンガン?」と不思議そうに言う。「それは違う種類かな」と答えると、「なんで光があるの?」と質問が続く。「みんなに金魚をみてもらうためだよ。光がないと暗くてみんなが金魚を見られないからね」と私は答える。満足するまで金魚を観察すると、「ハンバーガーとポテトが食べたい」と言うので、水族館を後にすることにした。ここ最近は水族館の後はソラマチのマクドナルドでお昼ご飯を食べるのがパターン化している。

いつもより1時間遅いマクドナルドなので人は多く、運良く座るところを見つけたので店で食べることにした。ハッピーセット、チーズバーガー、ピクルス抜きで。ヨーグルトに、アップルジュースとアップルパイ。腹ペコあおむしのオモチャはなくなってしまったので図鑑を。私はサムライマック、ベーコントマト、ポテトにアイスコーヒー。息子は喜んでポテトを噛み締め、アップルパイに吸い付く。私は抜歯したばかりの親知らずの痛みに耐えながらハンバーガーを右顎だけで頬張り、アイスコーヒーを飲んだ。

店内は親子連れが多くて、乳幼児から10歳くらいが目立った。10歳くらいの男の子が母親と二人で食べる姿を眺めながら、10年後、13歳になった息子は今日みたいに私と二人でハンバーガーを一緒に食べてくれるのだろうかと、ふと思った。その時はもうハッピーセットではないだろう。もう、母親とマクドナルドという年齢ではないのかもしれない。それとも、もうマクドナルドではなくて、もっと洒落たお店に行けるようになっているかもしれない。

水族館の帰りに母親と二人でマクドナルドに来た記憶は息子に残るのだろうか。いつまで水族館に通うのかわからないけれども、息子と二人ですみだ水族館に行くならば、帰りはソラマチのマクドナルドのコースはこれからしばらく続きそうだ。息子はごろごろの野菜が入っていない、おしゃれな胡麻もついていない、素朴なジャンクのチーズバーガーとポテトを愛しているのだ。何よりアップルパイの美味しさを覚えてしまったのもマクドナルドへの愛を深めてしまった。パパはマクドナルドが好きじゃないから、ママと二人じゃなきゃマクドナルドには行けないものね。

この日のことは、きっと息子は覚えていないのだろう。10年後、20年後、私は3歳の息子を思い出して、この日に戻りたいと思うことが来るのだろうか。息子とポテトをつまみながら、ポテトがなくなると「何でないの?」と言う息子に笑いながら「もう食べちゃったからだよ」と言う私はとても幸せだったのだと思う。

何気ない日常。愛おしい日常。過ぎていく時間。

息子は早く4歳になりたいという。新幹線のプラレールセットは4歳の誕生日になったらあげると言ったから、いつ4歳になるのだと毎日聞いてくる。そんなに急いで大きくならなくても良いんだよと思いながらも、子供の成長は想像よりずっと早い。

マクドナルドでお腹いっぱいになった息子の手を連れて割高のコインパーキングに戻り、請求金額にギョッとして、息子の大好きなエリック・クラプトンのCDを聴きながら家に戻る道で寝落ちる息子を愛しいと思う。自宅マンション併設の駐車場に着いて、寝ぼけ眼の息子を抱っこし、息を切らしながら階段を駆け上がって自宅に着く度に、自分に二人目は育てられないと諦める。寝ぼけた息子を布団に下ろし、このまま昼寝してくれという祈りも虚しく息子は目覚めて、リビングに模造紙を広げて思う存分にリンゴの絵を描き上げた。赤い紙テープをどこからか引っ張ってきて、模造紙の隅に貼って、壁に貼ろうと言って、「こうすれば大きいのでも貼れるね」と誇らしげだった。

その後、夕飯の準備をしようと冷蔵庫を開けると、ナメコが常温に戻っており、ハーゲンのアイスクリームは溶けかかっていて、冷蔵庫の急死という不幸に遭った。慌てふためく私に、息子はニコニコ笑って「大丈夫だよ。冷蔵庫屋さんに行こう?」と冷静に意見を言うので、3歳児ながらなんとも頼もしくもあった。すぐに近所に家電量販店に駆け込み、エネルギーを消耗し切った1日になったのだが、とても大切な日だったような気がして、今日という日を言葉として残したかった。別に日記でも良いのだけれども、今日は息子に幸せってこういうことって教えてもらった気がするのであった。

この記事が参加している募集

子どもの成長記録

読んで頂き、ありがとうございます。とても嬉しいです。頂いたサポートは、note内での他クリエイターのサポートや定期購読などに使わせて頂きます。