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「アーモンド」ソン・ウォンビョン〜私はアーモンドを大事にできるのか〜

表紙の少年の顔がずっと疎遠な自分の弟とあまりにもそっくりで、なんとなく敬遠していたのですが、先日好きな人が読んでいるのを見て、ついに手に取りました。


しょうもない理由でなんで今まで読まなかったのだろう、と後悔するほど物語に惹き込まれ、文字通り一気読みしてしまいました。

感情を司る扁桃体(アーモンド)が小さく、喜怒哀楽を感じない主人公・ユンジェ少年が、両親と生き別れてから施設で育ってきた同い年の少年・ゴニと出会います。ゴニはいわゆる「問題児」で暴力的な挙動を繰り返しており、何かとユンジェにも突っかかってきますが、ユンジェが彼を拒むことはありません。この二人の関係を軸に物語が進んでいきます。

ユンジェには文字通り感情がありませんが、他人の考え方や場の空気を感じ取る能力が長けています。私はユンジェと同じ年頃の時にはクラスでの人間関係が辛く、「感情なんてなければいいのになあ。何も感じずに、傷つくことなく生き延びたい。」と激しく思っていた時期がありました。でも、ユンジェは実際には周囲が自分やゴニをどう思っているか冴え冴えと理解し、自分のルールに従って行動しています。感情がないからと言って、他人の目や場の雰囲気から解放されることはないのです。どうしたってその中で生きていかねばならず、だからこそユンジェのお母さんが熱心に世間一般の感情パターンを教え込む姿が心を打ちます。

また、普段の生活でいかに自分が知らないふりをしたり、知ろうとしないでいたりするのかに気づき、心が凹みました。私が感情を閉じ込めるのは、大体が護身のためです。傷つきたくない、苦しみたくないと考えるときに、真っ先にするのが感情を殺すことです。「自分は何も感じない、だから大丈夫だ」と思ってその場をやり過ごそうとするのは、悲しいことに、結局生まれてこなければよかったと思うのと同義です。

このような本に出会うと、やっぱり私は読書が好きだとしみじみ感じます。本を読むことで得られる感情に対しては、ブレーキをかけることはありません。もしかすると、自分の感情に一番嘘をつかないのは、読書中かもしれません。これからどうやって生きていくのが自分の心に適うのか、たくさん考える一冊でした。


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