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【感想文】キリマンジャロの雪/ヘミングウェイ

『チコちゃんに叱られない方法』

余、深更の御酒により酩酊なりしはもとより論なし。
しかるに本稿、人をして殺意抱かしめずんばあらずや。

▼本書の概要:
本書『キリマンジャロの雪』の顛末を説明するのに最も適した故事は「後悔チ●ポ立たず」である。
この故事の説明は省くとして、まずヒモ男・ハリーは安楽な生活に甘んじていたが、この地で死を予期した直後から、彼の自責の念 —— 人生において何も成し遂げることは無かったのだという後悔と「死」が現実を帯びて浮かび上がる。もう取り返しはつかない。で、死ぬ。
まさに冒頭で述べた故事の通りである。
▼回想録を通じて現れる「死」:
ここで、前述の「『死』が現実を帯びて浮かび上がる」とはどういう事か説明すると、作中の回想録(新潮文庫,P.356)では、「苦痛」に関して「人間の耐え切れない試練など神は与えない」「時間と共に苦痛は自然に消えていく」というかつての談話とは裏腹に、重傷を負った戦友・ウィリアムスンがモルヒネに頼らなければ苦痛は収まらなかったとある。
要は、神とか信仰なんてどうでもよく、所詮はモルヒネを拠り所にしている点に「死」という不可避な現実がオーバーラップしている。
こうした点も含めて本書全体を通してハリーという男の「生の不毛さ」が描かれている様に思う。
▼ラストシーンの意図:
とはいえ、本書ラストの「キリマンジャロ山頂を目指すハリーの夢」のシーンだけを切り取れば、前向きで救いのあるラストではないか?という議論があるかもしれない。私が思うに、それはハリーの後悔の裏返しであり、要は願望に過ぎないのではないかと思う。というのも、直後の描写、<<ハイエナが闇の中で鼻を鳴らすのを止め、奇妙な、人間のような、泣きわめくような声を発しはじめた。(同,P.362)>> における <<人間のような、泣きわめくような声>> の持ち主にハリーが重なるからであり、また、ハリーはヘレンという女にたかるハイエナの様でもあり、そんな彼に本物のハイエナが終始つけ狙うといった状況である。山頂付近で死んだ豹が見た光景は現実だが、ハリーが見たそれは夢である。
以上を加味すると、「救い」といった前向きな言葉よりも「皮肉」ひいては「生の不毛さ」のほうが近い様に思えてくるのである。
▼余談(自己言及的なSNS投稿):
SNSを始めて約1年半が経過した。他者のSNS投稿を色々見ていると、自己への言及といった投稿が割と多い。一方、そういったいわゆる「自分語り」をなぜか恥辱に感じている私のSNS投稿ときたら、9割が大ウソ or 超テキトーである。私もハリーと同様、生涯自分を晒すことなく嘘を吐き続け、死を予期した直後、ようやく自己言及&後悔の念に駆られるに違いない。であれば自己を省みて未来を見据えた今をしっかりと生きるべきか。
いずれにせよ、私とハリーはチコちゃんに叱られる。

といったことを考えながら、家に帰ると祖母の玉井チコ(82歳)に『ボーっと生きてんじゃねーよ!』と叱られた。

以上

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