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仕組まれた退屈


 今少し先の未来の話である。以前も世界では一般の人が人の道を踏み外さないようにという名目で法律や条例、如何わしいサイトの削除など様々な方法で日常生活に規制が敷かれていたが、ここ数十年の間でその規制が非常に厳しくなった気がすると人々は言う。何がどう変わったというわけでは無いが、現に犯罪件数も数十年前と比べても比較にならないほど減少した。別に法律が増えて規制がきつくなったわけでは無い、ただ皆口をそろえて言うのは自分が何かに監視されている気がするということである。

   N氏もその一人であった。N氏は都会のマンションに住まいをもち、朝になると自らが勤める会社に行き夜になると家に帰って寝る、まあいわゆるごく普通のサラリーマンである。ただそのN氏にも趣味のようなものもあった。それはネットサーフィンである。会社から家に帰り、ミルクたっぷりのコーヒーを片手に自分のパソコンとにらめっこする時間がN氏にとっては至福の時間であった。これは何年も前から変わらない自分だけの時間である。N氏のネットサーフィンのルートは大まかに決まっている。まずFaceboxやTwetterなどで知人の近況を把握する、昔はこれも楽しかったが、なんだか最近はみな当たり障りのないようなことばかり発信するようになってしまったように感じられて少しつまらなくなってしまった。次に動画サイトで自分のお気に入りの配信者の動画を見る。これはなかなか面白い、皆炎上しないように意識しながらそれでもユニークなものを生み出そうとする姿勢は見ていて関心さえする。それが終われば後は自分の思うままにネットの世界をうろつく。やはりメインなだけあってここに最も時間を割く。ネットも規制されているとはいえどうしても規制者側が把握できない範囲が存在するもので、これ大丈夫かと思わせるものにパッと出会うことがある。これがいい刺激なのだ。そして一通り満足したらベットに潜り込む、これで一日が終わるという感じだ。


 そんなある日、いつものようにネットサーフィンをしていたのだがとんでもないものに出会ってしまった。麻薬の取引サイトである。これが目に入った瞬間、誰かに見られている気がして慌てて画面を閉じた。それからというものいつもの楽しみが変わってしまった、いつものようにネットサーフィンをしているのだが終始誰かに監視されているような気がするのだ。だから絶対に安全そうなサイトしか見なくなった。その気配が怖いのである。ただ自分の楽しみが得体のしれないものに奪われるのもしゃくだったので、とある日、決心してビデオカメラを購入し、自分を一日監視することにした。するととんでもないことが判明した。カメラには夜遅くに急に起き上がって自らのパソコンを操作する自分が映っている、自分を監視していたのは自分だったのである。

 次の日、自宅には政府から手紙が届いており、そこには監視システムに気づいたからには政府の一員として働くようにという指示が書かれてあった。政府に逆らう力はあるはずもなく私は政府機関へと足を進めた。今では、私は生まれたばかりの赤子の体内に罪悪感に反応して起動し、自分を監視するように脳に命令するマイクロチップを埋め込む仕事をしている。もちろん知ってしまった私に自由はない。

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