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あの雨、あの夜、あの本屋で。

24歳のどん底のある日。
家のゴタゴタで鞄ひとつと犬とフェレットを連れて家を出た。
当時私はお菓子屋さんでバイトしながら家賃5万円のワンルームに住んでいた。

お金はないし、1人は怖いし、バイトもなんかうまくいってないし、
先なんて何も見えない真っ暗なトンネルを進んでるような毎日。
どんどんどん底のある日、なぜか私は近くのATMにキャッシュカードを取り忘れてしまった。
見つけて銀行に届けてくれた人がいたらしく(ありがたい!)銀行から電話があった。
「じゃあバイト終わったら取りに行きます」
『あ、カードは〇〇支店でお預かりしていますので』

えっ!!遠い!!
そこはバイト先から自転車で行っても30分はかかる場所だった・・・
「仕方ない行くか・・・」
バイト終わりに自転車でその支店まで忘れたキャッシュカードを取りに行った。
無事に受け取り、また30分かけて自転車を飛ばして帰る途中、雨が降ってきた。
最悪だ、傘もない。
ずぶ濡れになりながらひたすら暗い雨の中を走っていく。

この時に思った。

『人生を変えよう!』
こんな人生を変えてやろう!そう本気で思った。
いや、決めたに近い。
とにかくもう嫌だ、何やってんだろ私、このままじゃだめだ、
変えるこの人生を
そう決めた。

負け犬みたいに雨に濡れて自転車漕いでる自分がものすごく惨めだった。
向かう先も希望も何もないのに真っ暗な道を必死に走っていくなんて嫌だった。
だから変えてやる、そう決めた。

必死に自転車を漕いでバイト先の場所まで帰ってきてこのまま家に帰るのがなんだか無性に嫌で、こんなに頑張った自分に何か与えてあげたくて本屋に向かった。
せめて大好きな本を一冊買って帰ろう、そう思ってずぶ濡れ負け犬の私が本屋に入ったその時、
一冊の本が私の目に飛び込んできた。

たかぎなおこさんの本だった。
タイトルは「ひとりぐらしも5年目」
ひとり暮らしを始めた私にピッタリな本だった。
内容も今の私に響くところしかない運命のような本。

でも本当の運命はその本の最後にページにあった。
“コミックエッセイプチ大賞”の募集。

『これだ』

コミックエッセイを描いて本を出そう、そう決めた。
これしかないと思った。
掴んで離すな!この暗闇のトンネルを進んでいくにはこの一筋の光を、
この藁を離していけない、そう強く感じた。
暗いトンネルに確信めいた光が差した瞬間だった。

この先私はまだまだ暗闇のトンネルを進んでいくんですが、数年後にトンネルを出ます。
人生を変えるにはあの日のあの雨、あの夜、あの本屋じゃなきゃいけなかった。
じゃなきゃ人生を変えると決めなかったから。

そう思うとキャッシュカードを忘れる意味ってあったんだなって思うんですが、
人生でキャッシュカードを取り忘れるなんてあの一回しかないからきっと何か見えない存在が忘れさせたとしか思えないです(笑)




ーあの雨、あの夜、あの本屋でー
卯野たまご




たかぎさんが今年デビュー20周年を迎えられて、お祝いのイラストを描かせていただきました💖

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運気のことや、暮らしのこと、本には書いていない自分のこと家族のことなどのお話を書いています。その時々の言葉と日記のようなエッセイです。

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