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サルの恩返し-日本昔話風-

昔むかしあるところに、お爺さんとお婆さんが暮らしていました。

お爺さんは働きもせず、昼間っから酒ばかり呑んでいる町一番の怠け者。

そんな怠け者なお爺さんに命令され、今日もお婆さんは樽に入った酒を汲みに行きます。


■■


その日、ちょうど樽の酒が底をついてしまいました。

お婆さんは、これを機にこの樽を壊してしまおうと思いました。

この樽が無ければ酒を保存しておけず、お爺さんも一度に大量のお酒を飲むことができなくなるからです。

でも心優しいお婆さんには、樽を壊すことなどできませんでした。

それどころか、樽は悪くない、こんなに汚れてしまってなんだか可哀想だ、と思い、樽をゴシゴシと掃除し始めたのです。

ゴシゴシゴシゴシする内に樽はみるみる綺麗になっていきました。

お婆さんが最後の一拭きをし終えた瞬間、

なんと樽が猿に変わったではありませんか。

お婆さんは腰を抜かしそうになりました。

だって猿が話しかけてきたのですから。

お婆さん、僕をピカピカにしてくれてありがとう。

おかげで呪いが解けたよ。

僕はサ行が全部、タ行になってしまう呪いにかかってたんだ。

この呪い、次はお爺さんに引き渡してあげる。

それでお婆さんを必ず救ってあげるね。

お婆さんは、何を言ってるの、と困惑したけれど、これ以上、今の状況が悪くなることも無いだろうと思い、お猿さんの申し出を受け入れることにしました。


■■


同じ日の夜、お爺さんが寝てしまった間に、早速お猿さんが、お爺さんに呪いをかけました。

翌日、お爺さんは相変わらず働こうともせず、

お婆さんに

酒持ってこい!酒!と叫びます。

いつもならすぐに酒が出てくるはずですが、今日は一向に出てきません。

お爺さんはイライラし、

お婆!はよう酒持ってこんか!と、また叫ぶのです。

それでも酒は出てきません。それどころかお婆さんの姿すら見当たらないではありませんか。

チッ、どこほっつき歩いてんだ、あいつは。

しばらくすると帰ってくると思って待っていましたが、昼を過ぎてもお婆さんは帰ってきません。

だけども、お爺さんはお婆さんの心配より酒が飲みたくて堪らなかった。

お婆、帰ってきたら覚えてろよ。

そう呟き、お爺さんは酒を求めて町の酒屋に向かいました。


■■


よお、爺さん久しぶりだな。酒屋の店主が威勢よく話かける。

おお、久しぶりだな。それより早く竹を売ってくれ。

その要望に答えるため、店主は笑顔で竹を渡そうとする。

お爺さんは困惑した。

竹じゃない!わしが欲しいのは竹や。

ですからこれは竹ですよ。と店主は言うのだ。

馬鹿にしてるのか!これやこれ!これが欲しいんや!

これって何ですか?

だーかーら!

たーけーや!たけ!


これは酒です。お爺さんが言ってるのは竹じゃないですか。

お爺さんの堪忍袋が切れた。

もういい!こんな店二度と来るか!

そう言ってその酒屋を後にし、他の酒屋に向かった。

だがどの酒屋に行っても結果は同じだった。

なんや、どの酒屋もわしをおちょくりやがって。

そして町にある最後の酒屋に辿り着いた。

おーい、竹売ってくれぇ。

酒屋の店主は案の定、竹を用意しだしている。

わーかった、わーかった。もう今日は諦める。

だから後日、これ!これを家まで配達しに来い!

わかりました、何本ご用意しましょう。

100本や。もうお前らの顔なんて見たくないからな!

承知致しました。因みにこれってなんですか?

うるさいうるさい、これはどう見たって竹や!竹だろ!つべこべ言わず竹100本送ってこい!


■■


後日、お爺さんの家に100本の竹が送られてきた。

お婆さんは未だに帰ってきていない。

お爺さんはこの状況に愕然とした。なんなんだ、これは。なんなんだ。

その頃にはお酒が抜けてお爺さんは久しぶりに正気に戻っていた。

そして気づいた。

うわぁああ、ごめんよ。ごめんよ。

お婆がいない家は寒すぎる。ごめんよ、お婆。

わしはお前のことがなんだ。だいなんだ。

(呪いが解けた)

うおおん、もう酒なんて飲まないから、戻ってきてくれよ。お願いだよ。



言いましたね、お爺さん。

背後からお婆さんが語りかける。

お婆、戻ってきてくれたのか。

あぁわしはもう酒は飲まない。仕事も真面目にする。だから戻ってきてくれ。

これが最後のチャンスですよ。

■■

それからお爺さんは人が変わったかの様に一生懸命働き、町一番の働きものになった。

そしてお婆さんとも仲良く暮らしたとさ。

おしまい


-解説-

サ行が全部、タ行に変わってしまう呪いによって、本人は酒!と言ってるつもりなのに、竹!と聞こえてしまってたのですね。

もちろん酒屋の店主達も酒が欲しいのはわかっています。だけどお婆さんに協力して、皆でお爺さんに酒を飲まさず正気に戻そうとしていたのです。

これはフィクションだからハッピーエンドだけど、こんな簡単に許しては貰えないからね。ちゃんと日々相手を想いやりましょう。

そして気づいている人もいると思いますが、この呪いによって、「サ」る、が「タ」る、にされていたのです。物を大切にすることも大切ですね。

ここまで読んでくれたみんなのこと

月だよ。(本人は好きと言っているつもり。ああ呪いはたまごまるに渡されたのだ。)

終わり






ここまで読んでいただきありがとうございます。