人魚王子
とある国に絶世の美貌と誰からも愛される性格を合わせ持った女王様がいた。だけどこの女王様、生涯独身を貫いて亡くなった。
独身だったが天涯孤独で愛に飢えていたわけではない。むしろその顔は愛に満ちていた。
これはそんな女王様が亡くなる半世紀前のお話。
〜50years ago〜
僕の名前はライアン。この国の王子だ。歳は15になる。僕の周りにはなんでもある。何か望めばなんでも手に入る。物も地位も。だけど何かが足りない。とても窮屈なのだ。
もっと自由になりたい。
自由になりたいと感じた時、僕は海に潜る。
海は自由だ。
魚やカメたちがいつも楽しそうに泳いでいる。
それに海に潜っていると、綺麗な歌声が聞こえてくるのだ。
人魚の歌声だ。
この国では海の深いところには人魚の国があると信じられている。人魚は魚たちと同じようにこの海を永遠に泳ぎ回ることができる。
僕は密かにそんな人魚になってみたいと夢みていた。
*
今日も人魚になった時のことを考えながら、ベッドでうとうとしていると、急にピカッ、ドカーーンと雷が近くで落ちた音がした。
驚き窓の方を見ると、そこに1人の女が立っていた。
黒い三角帽に、黒のローブを纏っている。すぐにその女が魔女であると理解した。
その魔女は僕にこう話かけてきた。
お前の夢を知っている。お前の願いを叶えられる。人魚になりたいのだろう。魔法をかけてあげよう。
こんなこと急に言われても、普通なら断る。
だけど僕にとって人魚になることは夢であったから。だから魔法をかけてもらうことにした。
話を聞くとこの魔法が発動する条件があるそうだ。
その条件とは
🦹♀️とある女性と結婚すること🦹♀️
だそうだ。そしてその女性と出会う方法と、その女性についても魔女は教えてくれた。
その女性に出会うには
🧜♀️明日の正午にいつもの海に行くこと
🧜♀️その時浜辺に倒れている女性が、その女性だ。
🧜♀️そしてその女性は元人魚で、海の魔女に人間になる魔法をかけられている。その魔法を解く条件は僕と結婚することだ。
つまり結婚すれば僕は人魚に、その女性も人魚に戻れ、人魚の国で幸せに暮らせるってことだ。
なるほど、じゃあ早速明日の正午海に行ってみよう。
*
そして翌日の正午に海に行くと魔女が言ったとおりに女性が浜辺で倒れていた。
しっかり足もある。本当に元人魚なんだろうか。だが今はそんなこと考えてる余裕はない。弱りきって今にも死んでしまいそうだからだ。
そこから僕は彼女をお城に連れて帰り何日も看病した。
一週間が経過しただろう頃に彼女は目を覚ました。
どうやら彼女は声を発する事ができないようだ。
だけど何かを必死に訴えかけようとしてくれているのがわかる。彼女もおそらく魔女から人魚に戻る条件を聞かされているのだろう。
人魚になる条件として彼女と結婚すること、と言われた時は、そんなたまたま出会った女性と恋に落ちるなんて無理だろうと思っていた。
でも月日を重ねるうちに僕らは自然と恋に落ちた。
毎週日曜日の正午。そう僕らが出会った日曜日の正午。その日は必ず海に行ってデートした。
海に向かって彼女は声なき声で歌を歌っていた。それにつられて僕も一緒に歌った。なんだか心の歌声が共鳴している気分だった。
こんな何気ない日々が幸せに感じるようになってきた。
だから僕らは結婚することになんの迷いもなかった。
*
結婚式には沢山の仲間がかけつけてくれた。その仲間達と今日でさよならしないといけないのは辛いが、それよりも僕は彼女と彼女の国で幸せに暮らしたかった。
牧師さんが僕らに問うてきた。
永遠の愛を誓いますか?
僕らは迷わず頷いた。彼女は声を発さられないからその分2人で懸命に頷いた。
その本気の想いが通じたのだろう。
周りが水に包まれた。
気づくと僕は人魚になっていた。
よしこれで彼女と人魚の国で幸せに暮らせる。
そう思ったが彼女の姿が無い。
海のあちこちを探し回ったが見当たらない。
もしかして、と悪寒が走り、僕らが出会った浜辺近くに行った。
そこに彼女は立っていた。
彼女はまだ人間のままだ。
おかしい、魔女の話では結婚すれば彼女も人魚に戻れるはずだ!
*
彼は戸惑ったが、実は海の魔女が彼女にかけた魔法は、人間になる魔法だったのだ。
そして人間であり続けるためには、助けてくれた王子と結婚することが条件であった。
彼女も王子と上手く恋に落ちられるか心配だったが、その心配は無用のものであった。
王子の優しさに触れ、彼女はどんどん王子のことが好きになっていった。
私の歌が響かない分、彼が一緒に楽しく歌ってくれた。
そんな日々を過ごしていくうちに本当に彼と結婚して、彼の国で幸せに暮らしていきたいと思えるようになった。
そして彼も同じ気持ちを持ってくれたみたいで結婚式を挙げた。
牧師さんの問いに声を発する事ができないから、その分必死で頷いた。
想いは通じ、光に包まれた。
気づけば私は彼と初めて会った浜辺の上にいた。しっかりと足がある。声も発せられるようになっている。人間になれたのだ。
これで彼と幸せに暮らしていける。
でも彼の姿が無い。その代わりに海に人影が見える。その人影はどんどんこちらに近づいてくる。
その人影がなになのかを認識した時、私は泣き崩れた。
どう見てもライアンだ。だけど人魚になっている。
ライアンも私を認識して泣いている。
ここでやっと私たちは魔女に騙されていた事を知ったのだ。
完全に騙された。
でも騙されても確かに生まれたものが一つだけあった。
愛だ。
真実の愛が2人の間には作られていた。
そして魔女は理解していなかった。
姿がどうなろうとも、この真実の愛は壊すことなどできないことを。
私たちはそこで改めて誓った。
お互いを永遠に愛することを。
そして私は彼が王様になるはずだった人間の国で女王になった。
彼は私が女王になるはずだった人魚の国で王様になった。
人間と人魚の交流は固く禁じられている。
だから私たちは死ぬまで毎週日曜日の正午にだけあの海に行った。
そして歌を心の奥まで響かせあった。
終わり
サイドストーリー
その歌声が魔女達に呪いをかけた。
マガアニモガオニの呪いだ。
魔女は今日も誰かに魔法をかけようか。と問う。だが聞いてる方には阿呆をかけようか。に聞こえる。聞いた人達は誰が阿呆やねん!とツッコむ。魔法がダメなら、じゃあ呪文をかけようかと、魔女は問う。だが聞いてる方には呪怨をかけようか。に聞こえる。そなな呪怨みたいな怖いもん誰がかけてほしいねん!
そうやって魔女は決して誰にも魔法も呪文もかけることができなくなったとさ。
めでたし、めでたし。
ここまで読んでいただきありがとうございます。