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楽しい夏休み

あくまで凡人的な生活を送っている私ですが、稀にフィクションのような出来事もある。

ずっと友達だった年下の男の子とセックスした。(よければ前回記事もどうぞ!)普通の女の日常にも、こんなキラッとした瞬間があるんだな、世の中ってちょっと面白いかも。そう思ってもらえれば本望です!

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小学生の絵日記みたいなタイトルだ。
でも、夏休みの特権は子供だけのものじゃない。

今年の8月は私にとって人生の夏休み。仕事をやり遂げた達成感と、会社に所属していない期間のゆるみと、これから始まる留学生活への緊張感が混ざり合って、記憶に残る1か月を過ごしていると感じる。この夏のことは、おばあちゃんになっても思い出すだろう。

バンビ君と私はその日、老舗温泉旅館をめがけドライブしていた。

目的地付近に到着し、ランチを食べる。老舗カレー屋さんの味に感動して「うまいうまい」と言いながらカレーをほおばる。

午後に雨がたっぷり降り出して、庭園を散策する私たちの肩をぬらす。足元をみるとサワガニが何匹もいる。「サワガニだ!」「そこにもいる!」と勝手にサワガニクラブの活動を始める。ここまでの様子はやっぱり小学生の夏休みかもしれない。

巨大な野外美術館を散策して、
この銅像のタイトルはなんでしょう〜とか
やっぱピカソはすごい!とか
静物なのに動物がいる。とか
しょうもない会話を繰り広げて笑った

夕暮れ、辿り着いた温泉旅館はその土地の老舗で、大正ロマン風の奥ゆかしい母屋が私たちを迎えてくれた。磨き込まれた床、玄関を満たすお線香のような香り、部屋から見える山々は、私たちの疲れをいっきに癒やしてくれた。

贅沢な夕食に舌鼓を打って、日本酒の飲み比べをする。私は飲み比べに挑んだわりに、ひとつひとつ飲み干していったので「それじゃ比べていることにならない」とバンビ君に的確な指摘をされた。

すっかり満たされてお部屋にもどる。こんな幸せな気分で、ふたりだけの時間を過ごせるなんて、とっても贅沢。

この時間にどれだけ感謝しているのか、その気持ちを示したくて、わたしはその日ちょっとした皮小物のプレゼントを用意していた。

プレゼントを買うことを思いついたときも、どれにしようか悩んで決めた時も、渡す直前にも、やっぱり悩んでいた。

『私たちの関係に場違いじゃないかな?』

ただの友達からはじまって、バンビ君と私は少しずつ、その関係の解釈を少しずつ広げてきた。デートのパターンも増えて、今日はふたりで旅行に来ている。そして更にプレゼントを渡そうとしている私。この行為がどんな風に受け止められるのか?勝手に緊張してしまう。

それでも私は後悔より行動を選びがちな女なもので、改まってお渡ししてみた。

「今日はずっと運転してくれてありがとう」

バンビ君は少し驚いた様子だったけど、
「お〜!ありがとう〜!」と小動物のように飛び跳ねて喜んでくれた。まるでバンビ。

温泉からあがってすっかりいい気持ちになって、金曜ロードショーを一緒にみる。

映画が半分くらい過ぎたところで『バンビ君ほんとに見ているのかな…』とテレビに嫉妬して、彼との距離を縮めてみる。バンビ君はそんな私の様子を察して、受け入れてくれる。

抱き合ったり、キスしたり、触り合ったり、時間を忘れて過ごす。その瞬間がバンビ君でいっぱいになる。辺りは静かで、世界にふたりしかいないみたい。

『ずっと続けばいいのに』

そう思うけど、温泉が閉まる時間が近づいているのにふたりでハッとして、もう一度体を流しにかけこむ。

明かりを消して寝る間際。
バンビ君は「留学がんばれっ!」と言って、片手で私のほっぺをつかみながらキスをしてきた。お休みのキスにしてはずいぶん荒々しい。

「バンビ君も一緒にきて!」
無理は承知で、だだをこねる。

「悪くないねぇ」
バンビ君はそう言った。その真意は何なのか、何も考えていないのか。

次の日も巨大美術館で骨董品や、屏風絵や、絵画を楽しむ。何がよかった?これが一番すき!あっそれはまったく印象にないわーとか、そんな会話だけでずっと楽しい。

随分昔から、美術館にはひとりで入るのに慣れていた。数時間かかる鑑賞を誰かと一緒に行うというのも、少し気がはるものだから。でもバンビ君と一緒の鑑賞はあまりにも自然で、そんなことは忘れていた。

温泉地は雨脚が強くなってきて、私たちは都内へ帰路につく。

台風が近づいている割に、ふたりで小さな日傘一本しか持ち合わせていないという軽装備。日傘を無理やり雨傘につかって雨をしのいだ。2人でぎゅっとなって、小さな傘に収まるのがおかしい。

帰りの車内で「バンビ君はいつか車を買いたい?」と尋ねたら「ん〜子供ができたらね」と答えが返ってくる。バンビ君から子供というワードが出るのが意外すぎて、動揺する。

『あなたもいつか家族を持つの?』

そんな想像をしたら、胸が焼けるような嫉妬心のような、負けが見えている切ない気持ちのような、赤くてブルーな気持ちに胸が支配された。

いつかあなたが家族をもつのなら
家族で車で出かけるのなら
その時助手席に座っているのも、私ならいいのに

8月も後半にさしかかって、都内の自宅を引き払う日も近づいてきた。バンビ君に会えるのも残り1、2回かなと想像している自分がいる。

バンビ君の広い背中
まつ毛が目立つ横顔

「よぉ」とか「やぁ」とかいう適当な挨拶
いたずらっぽい視線

その胸に顔を埋める時の温かさ
意外とドキドキいってる鼓動

手をぎゅっと握ってくれる時の熱
ちっさい唇にキスした時の感触

そんなのがいちいち脳内でフラッシュバックされて、涙腺がしっかり反応する。私は誰に見せるでもない涙を、無駄に流す。

こうなることはわかっていた。

もうすぐ喪失感に打ちのめされる。そうわかっていたのに、これでもかというほど思い出を積み重ねてしまった。

バンビ君に会う日が楽しみで、会う予定を作って、その日を心待ちにしていた。会っている時間は一瞬で過ぎ去って、またその次の予定も楽しみにして。バンビ君と過ごす時間はとにかく閃光のように輝いている。

その光に目を細めて、いつか事故るとわかってスピードを上げていたような気がする。

私がひとり涙を流していると知ったら、バンビ君はびっくりするだろう。30代半ばにも差し掛かって、こんなに掻き乱されるとはね。

あいみょんの愛を伝えたいだとか、を最近よく聞いている。なんていい曲なんだー!

とりあえず今日は
部屋のあかり早めに消してさ
どうでもいい夢をみよう

明日はふたりで過ごしたいなんて
考えていてもドアはあかないし
だんだんおセンチになるだけだ僕は

愛がなんだとか言うわけでもないけど
ただ切ないと言えばキリがないくらいなんだ
もう嫌だ

『愛を伝えたいだとか 』あいみょん

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