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月に1度だけ訪れる、ぼくらの日常と非日常

奇跡は起こすモノ。

まさにそんな夜だった。マンガでも描かれないような展開でヤクルトは逆転勝利。試合終了直前に降り出した雨さえも気にならない。心地よい風が吹き、緑軍団の声援がこだまする。

この日は、旧知の友人と一緒だった。昔の同僚でもなければ、恋人でもない。だけれども、お互い何でも言える仲だ、とぼくは思ってる。軽口をいえば軽口が返ってくる。真面目な話をすれば、ちょっとだけ首をかしげながら、大げさな身振り手振りを交えて答えてくれる。そんな、彼女の優しさは身に沁みる。

ぼくがチケットを手配し、席を取る。仕事が終わって彼女が来る。そんな1カ月に1度だけある日常の中に訪れる非日常。その中で起こされた奇跡の余韻に浸りながら、雨の銀杏並木を歩く。お互いに傘を差しながら。

試合中に気にならなかった雨が気になる。非日常から日常へと戻った瞬間なんだ。いつもは素通りする外苑前から電車に乗り家路を目指す。話たりなかったぼくらは、彼女の家から1つだけ ーぼくの家からは2つ手前のー 星は見えないけれども雨は止んだ街に降り立った。

昼間は騒がしいこの場所も、23時を回れば大人の街に変わる。桜並木にベンチが並べられたオシャレな通り。ベンチには夢中になったカップル、スマホをいじるOL風、眠りこけそうなサラリーマン。ありふれた光景を横目で確認することもなく、ぼくらは進み坂を登る。

なんの話をしたかは、あまりおぼえていない。いや、まったくおぼえていない。彼女もきっと、おぼえていない。おぼえているのは非日常的空間で起こった奇跡だけ。ぼくらの間に意味のある会話なんてそれほどなく、その場を楽しむそんな関係。これが月に1度の日常なんだ。

きっと、それでいいんだと思う。

ぼくは、ここから再び歩き出す。

7月26日:ヤクルト(11-10)中日

こちらサポートにコメントをつけられるようになっていたのですね。サポートを頂いた暁には歌集なりエッセイを購入しレビューさせて頂きます。