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WebMagazineタマガ

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多摩美術大学芸術学科フィールドワーク設計ゼミが発行しているウェブマガジンです。芸術関連のニュース、展覧会評、書評、美術館探訪記、美術家のインタビューなどアートにかかわる様々な記事… もっと読む
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記事一覧

デザイナー大原大次郎の「手」の痕跡を見る

 東京・銀座のギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催中の大原大次郎の展覧会「Daijiro Ohara HAND BOOK」を訪ねた。  2023年12月に出版された作品集「HAND BOOK 大原大次郎 Works & Process」と同名を冠した本展覧会では、グラフィック・デザイナーとして知られる大原大次郎の創作活動に共通する「手」=HAND を使った仕事の数々が展示されている。作品集を読み進めていくような形で鑑賞することができる。  ギャラリーに入ると、大原の仕事

秋山光洋(舞台美術家)~人気2.5次元舞台シリーズ『弱虫ペダル』の巨大スロープの秘密~

 『ペダステ』では、スロープが舞台装置として設置されている。「パズルライダー」と呼ばれるキャストたちが手動で動かし、時に学校の裏の坂、インターハイ序盤の峠、はたまた最終決戦が繰り広げられる坂とさまざまなレースコースに変化する。物語の大半がレース場面の『ペダステ』では、必要不可欠な舞台装置だ。  しかし、秋山さんが初めて演出家の西田シャトナーさんに会ったときには、「正直自分の演出の感覚では、セットがなくてもできるんです」と言われたそうだ。「でもセットでさらに面白くなることがあ

【タマガ体験記】カフェでポタリーペインティングをやってみた @ぽたかふぇ。(東京・高円寺)

 2023年10月、東京・高円寺にある「ぽたかふぇ。」を訪れた。2012年4月にオープンした、ポタリーペインティング(陶器の下絵付け)ができるギャラリーカフェだ。カフェを営業しながら、展示とポタリーペインティングのワークショップを行っている。このほど、記者は陶器に絵を描く楽しみを体験すべく、同店のワークショップに参加した。  店に続く階段を上り切ると、店長の松永美樹さんが笑顔で迎えてくれた。店内には作家のイラストや絵画、松永さんお気に入りの雑貨などが飾られていた。 ポタリ

【タマガ探訪記】 彫刻になったゴッホと箱根で出会う

彫刻の森美術館(神奈川県箱根町) 訪れたのは11月中旬の平日。雲ひとつない快晴、屋外展示を楽しむのにうってつけの彫刻の森美術館日和だった。日本人だけでなく外国人も多く訪れており、平日にもかかわらず賑わいをみせていた。7万平米もあるという広大な敷地の中に約120の彫刻が置かれている。作品には触らないのが基本的なルールだが、中に入ったり腰掛けたりできるものもある。音声ガイドのある作品も15個あり、作品の見方を教えてくれる。 印象に残った彫刻をいくつか紹介しよう。1つ

眠れないホテル、MANGA ART HOTEL,TOKYOに宿泊してみた!

 MANGA ART HOTEL,TOKYOは地下鉄神保町駅から7分ほど歩いた、地上9階建ての商業ビルの4階と5階にある。4階が女性専用フロア、5階が男性専用フロアとなっている。チェックインは5階で行うが、それ以外にフロアの行き来はできない。  チェックインを済ませ、4階の鍵番号を入力してドアを開けると、”MANGA ROOM"と書かれた扉が目の前に現れた。扉を開けた先には今年漫画大賞を受賞した漫画が1位から順に並べられている。さらに奥へ入っていくと、所狭しと漫画が並んだ空間

自然光で日高理恵子の「空」を見る

 家村ゼミ展2023『空間に、自然光だけで、日高理恵子の絵画を置く』が、多摩美術大学八王子キャンパスのアートテークギャラリーで開催されている。展覧会名のごとく、人工照明を用いずに絵画を自然光のみによって見せている。同ギャラリーの4つの部屋に展示されている日高理恵子の作品は計5点。それぞれに、異なる姿の樹木が描かれている。同ギャラリーにある複数の大きなガラス窓からの採光の下で、それらの絵は空間に溶け込んだかのように存在し、自然の美しさを放っているようにも感じられた。  201

未来を望む! 新たな国際アートフェア「Tokyo Gendai」を訪ねて

 フェア初日の7月7日は、日本や中国で毎年行われる伝統行事「七夕」である。会場中央では、そのイメージを表現に取り入れたという彫刻家・大平龍一のインスタレーション作品《The Circuit》が展示された。今回のアートフェアのために制作されたものという。たくさんの彫刻が立つ中に、レース場のような「サーキット」が敷かれている。伝統的な美意識や文化の多様性を問うコンセプトと、ダイナミックな展示方法が印象的だった。 アートの未来のあり方を感じる展示  Tokyo Gendaiは、

ヴィジュアル作品としての表現を追究した詩人・北園克衛の資料が物語るもの

1993年に「北園克衛文庫」を設立  北園は、日本を代表するモダニズム詩人であり、詩作のほか評論の執筆、雑誌の編集、書籍の装幀など幅広い分野で活躍した。本学は北園の多くの資料を収蔵する機会を得て1993年に「北園克衛文庫」を設立し、関連の展覧会を開くなど顕彰に務めてきた。 詩をヴィジュアル作品として捉えた北園  「紙面の広がり、漢字とかなの配分、レイアウト、フォント、すべてに明晰な北園の美学が冴えわたっている」「抽象絵画のような、具象彫刻のような、北園の独自の詩世界」と

大雨で倒れた樹齢1300年の御神木から生まれた佐藤壮馬のアート作品@資生堂ギャラリー

東京・銀座の資生堂ギャラリーで開催中の第16回 shiseido art egg展で、佐藤壮馬のインスタレーション作品《おもかげのうつろひ》が展示されている。会場でこの作品を初めて見た人は、おそらく何をどう表現しているのかがまったくわからないのではないだろうか。 しかし、感じられる何かがあるはずだ。曲面を成した白い物体が、見えない何かを円柱状に囲んでいる。つまり、その円柱部分には、何かが存在していることをほのめかす。 それは、2020年7月11日に豪雨によって倒れた、岐阜

フランスにこんなに暗い絵があったとは! ブルターニュ展@国立西洋美術館で「黒の一団」の絵を見る

国立西洋美術館で開かれている企画展「憧憬の地 ブルターニュ モネ、ゴーガン、黒田清輝らが見た異郷」は、フランスのブルターニュ地方という地域をテーマにした企画だ。フランスはモネ、ルノワール、ゴッホらをはじめとする多くの偉才を生んだり育てたりしてきたが、特に19世紀以降は鉄道網が整備されたことなどから、移動が盛んになった。 ブルターニュ地方はフランス北西部にあり、半島を成して海に面している。19〜20世紀前半にはモネ、シニャック、ゴーガン、さらには黒田清輝など、多くの画家がこの

実は拾いたくなる「すてるデザイン」@GOOD DESIGN Marunouchi

東京・丸の内のGOOD DESIGN Marunouchiで、「すてるデザイン〜ゴミを価値に変える100のアイデア」 という企画展が開催されているというので、出かけてみた。筆者が教員として勤めている多摩美術大学のデザイン関係の学科と一般企業の協働による成果物の展示であることをお断りしておく(ただし、筆者の所属は芸術学科であり、出品者の中には直接教えている学生は多分いない)。企業との協働、すなわち産学連携の成果ということで、一定の水準以上のものばかりが展示されていた。 「すて

死を通して生を伝える藤原新也の祈り@世田谷美術館

写真家として知られる藤原新也さんの半世紀間にわたる活動の中で生まれ出てきたものを目一杯受け止めることのできる「祈り・藤原新也」展が、世田谷美術館で開かれている。 まず心を捉えたのは、まだ20代の頃にインドに渡って撮影した写真の数々だ。 とても半世紀も前の風景とは思えず、今も生きているインドの姿が写っていることを感じた。仮に同じ場所の今の風景が近代的な姿に変わっていたとしても、あまり重要なことではないだろう。藤原さんの写真は過去の記録というわけではなく、インドのそこここにある

安藤礼二教授のイラン旅行記〜「シルクロードの先に日本が見えた」

 9月に2週間ほどイランを旅した多摩美術大学芸術学科教授の安藤礼二氏に、現地についての話を聞いた。「シルクロードの先に日本が見えるような感覚を覚えた」という。  羽田空港から安藤教授が出発したのは、9月8日だった。イランへは、タイとカタールの空港で乗り継いで向かったため、空港での待ち時間も含めて到着までに24時間以上かかったという。  今回、イランへ向かった目的は、建築家の磯崎新氏が中心となって行う『間』展をイランで開催する準備のためだった。初めてイランを訪れた安藤教授は

どうしてもミュージアムを巡りたい!〜栃木・福島旅行記〜

 2022年8月、栃木県、福島県に旅行に行った。栃木県、福島県というとまず何を思い浮かべるだろうか。温泉、避暑地、いちご、ラーメン…。どれも楽しめそうだが、これらは一度置いておいて、今回の旅の中ではミュージアムや史跡をメインに巡った。いまこのレポを読んでいるあなたが、それぞれの施設に興味を持つきっかけになればうれしく思う。 那須テディベア・ミュージアム まず紹介したいのが、栃木県那須町にある那須テディベア・ミュージアムだ。駐車場から美術館入口へ向かう道では、たくさんの『とな