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秋山光洋(舞台美術家)~人気2.5次元舞台シリーズ『弱虫ペダル』の巨大スロープの秘密~

 舞台『弱虫ペダル』(通称『ペダステ』)は、週刊少年チャンピオンで連載されている同名の人気漫画を原作として何度も舞台化された、いわゆる「2.5次元舞台」の大人気シリーズだ。ロードレースに青春を捧げる高校生の熱いストーリーもさることながら、自転車のハンドルのみを持って足を動かすことで自転車に乗っていることを表現しながら、一人何役も兼ねて時にガードレールや自動販売機すらも役者が演じる、演技力が最大限に生かされる演出を特徴としている。その中でもひときわ異彩を放っているのが、舞台上を縦横無尽に動く巨大スロープだ。この可動式のスロープは一体何を表現しているのか、舞台美術を担当した秋山光洋さんに話を聞いた。


 『ペダステ』では、スロープが舞台装置として設置されている。「パズルライダー」と呼ばれるキャストたちが手動で動かし、時に学校の裏の坂、インターハイ序盤の峠、はたまた最終決戦が繰り広げられる坂とさまざまなレースコースに変化する。物語の大半がレース場面の『ペダステ』では、必要不可欠な舞台装置だ。

舞台『弱虫ペダル』より。可動式のスロープが設置されている

 しかし、秋山さんが初めて演出家の西田シャトナーさんに会ったときには、「正直自分の演出の感覚では、セットがなくてもできるんです」と言われたそうだ。「でもセットでさらに面白くなることがあったら、それを提案してほしい」とも。そこで提案したのが、左右に動かし回転することもできるスロープだった。
 原作の『弱虫ペダル』は、極めて独白シーンの多い作品だ。レース中にそれぞれの登場人物の過去やレースに懸ける思いが、何ページにも渡って描かれている。それを舞台で表現しようとすると、観客はただ単に立ったままセリフを話すシーンを見ることになってしまい、入り込むことができない。そんなとき、スロープがあることによって、カメラを左から右あるいはその逆に振る映画の撮影技法「パン」のような効果を、舞台上でも狙うことができるという。例えば、登場人物が動かなくてもその下のスロープそのものを動かすことで、スローモーションのような動きを出せたり、前の人を追い抜くシーンをゆっくりと見せて追い抜いた瞬間に早く動かして場面を切り替えたりする、といったようなことができ、空間をより立体的に見せやすくなる。
 また、立ち位置によって高低差をつけて心理状態を表すことができたり、レースシーンでは勢いよくスロープを駆け上がることによってダイナミックで白熱したバトルシーンを展開したりすることができる。

舞台『弱虫ペダル』(2023年)  THE DAY1 舞台平面図
舞台『弱虫ペダル』新インターハイ篇~スタートライン~スロープ図面
舞台『弱虫ペダル』(2023年)  THE DAY1 床面図面

 キャストの安全面や健康面にも配慮している。スロープをあえて地面から少し隙間を開けて段差をつけることによって、キャストに段差を意識させ、激しい動きの中でもつまずいて怪我をするのを防ぐ。演じるキャストが腰を痛めないよう、試行錯誤を繰り返して今の角度にたどり着いたそうだ。
 「背景を作り込みすぎるとある意味でお客さんにこういうシーンですよねと押し付けることになってしまう。むしろ、作り込みすぎないことで、お客さんに想像の余地を残すんです」
 スロープを有効活用しながらも、『ペダステ』の舞台セットは基本的にはシンプルだ。それが逆に想像を掻き立て、実際にインターハイの会場で戦いを見届けているかのような錯覚に陥るほど臨場感あふれるレースシーンを体感できるのである。
            
                         取材・文=岩田和花
                         写真提供=秋山光洋


秋山光洋(あきやま・みつひろ)
舞台美術家。株式会社n10design代表取締役。高校3年生の時に見た野田秀樹演出の『虎一野田秀樹の国性爺合戦』で舞台美術の面白さを知り、日本大学芸術学部に進学。在学中から堀尾幸男氏に師事し、卒業後フリーランスとして活動を開始。2023年11月に公演された『刀剣乱舞 山姥切国広単独行―日本刀史』をはじめとする舞台『刀剣乱舞』シリーズ、舞台『弱虫ペダル』シリーズのほか、さまざまな舞台で美術を手掛ける。

【株式会社n10design】
HP: https://www.n10design.com/

秋山さんが過去に手掛けた作品

舞台『薄桜鬼』より
舞台『もしも命が描けたら』より
舞台『終わりよければすべてよし』より
舞台『終わりよければすべてよし』より
ミュージカル『さよならソルシエ』より
演戯『ヴィジュアルプリズン』より
演戯『ヴィジュアルプリズン』より
SOLO PERFOEMANCE ENGEKI『僕とメリーウェルの7322個の愛』より


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