本日のおすすめ本 村上陽一郎『科学の現在を問う』 科学哲学の分野より

 科学哲学というのは科学や科学史を扱う哲学の一分野です。これは、前に紹介した近代芸術論とならんで、受験生が苦手とするジャンルの一つです。

今回のもわりと古い本なので、私たちが生きている今日の社会とのズレはあると思いますが、非常のよく出題されてきた本なので、これを選びました。興味のある人は読んでみてください。
ただし、この本を読んだからといって、いきなり現代文の成績が上がるわけではありません。以下のようなことをざっと知っておけば十分だと思います。


さて、「科学者」という概念ができたのは19世紀に入ってからだそうです。それまでは、「scientist」という言葉は存在せず、私たちがいわゆる「科学者」として思い浮かべる存在も概念も生まれていなかった、と村上陽一郎さんは述べます。
(「概念がなかった。だからそれに呼応するものもなかった」という話は、じつは科学哲学以外の分野でも出てきます)

私たちはガリレオやニュートンを「科学者」だと思っている。しかし、彼らをその生きていた時代の文脈に置いたとき、彼らは私たちの考える「科学者」とはまったくことなります。

たとえば、ニュートンは万有引力の法則を発見しました。微分積分法を発見したのも、ニュートンです(微積はライプニッツも発見しましたけどね)。
それらの事実にリンゴのエピソードを重ねると、ニュートンは科学者以外の何ものでもないように見える。
しかし、彼は何のためにそれらの研究をやっていたのか。じつは、神の道を教え広めるためだったのだそうです。

ここでいう神とはもちろんキリスト教の神ですが、神の創りたもうたこの宇宙が、いかに美しく普遍性に満ちているか、それを示すためにニュートンはさまざまな研究を進めたのだそうです。晩年の彼は、聖書研究と錬金術にも入れこんでいたともいわれています。

ここに描かれるニュートン像は、私たちのイメージする合理的な「科学者」とは異なります。
新たなる〈知〉の王位を簒奪するために、科学は「物語」を必要とし、その「物語」ゆえに私たちは「近代科学」というパラダイムの中でしか物事を見ることができない。
(なにいっているか分からない、ですって? ま、こういうのを勉強するのが現代文、というわけですね。予備知識なしでは多分意味不という人が多いと思います。ここでいう「物語」の具体例を挙げると、有名な「ニュートンの林檎落下びっくり事件」とか「ガリレオのそれでも地球は回っている発言」だったりしますw)

ちなみに「パラダイム」というのは「物事を見るときの枠組み」のことをいいます。
科学哲学者であるトーマス・クーンの提唱した概念です。科学というものは継続して発展する直線的なものではなく、断続的かつ革命的に変化する。すなわち「パラダイム・シフト」が起きるとクーンは指摘しています。
(なにいっているか分からない、ですって? 要するに、私たちは学校で理科を習って、科学というものがガリレオ→コペルニクス→ニュートン みたいに徐々に発展してきたと思っているけど、実はそうじゃない。あるとき、ある考えや、ある発見がきっかけとなって、科学はそれまでとガラッと変わってしまう。すなわち累積的ではなく断続的かつ革命的に変化する、線形ではなく非線型で変化する、ということです。ワトソンとクリックがそれまでの生物学をガラリと変えてしまったことが代表的な事例)

パラダイムという言葉は科学哲学以外の分野でもよく出てくるので覚えておきましょう。


付記:個人の好みで作品を選んでいます。また、購入する必要はありません。便利かな〜と思って貼り付けているだけなので。図書館が再開されたら、たぶん図書館でも読めます。というより、授業でこういう話をきちんと聞いていれば大丈夫です。

https://www.amazon.co.jp/科学の現在を問う-講談社現代新書-村上陽一郎-ebook/dp/B00DKX4EXI/ref=tmm_kin_swatch_0?_encoding=UTF8&qid=1590014523&sr=8-1

#おすすめ本 #推薦図書 #現代文 #国語 #水谷たまえ #科学哲学 #大学受験 #センター評論


この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?