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40代サラリーマン、アメリカMBAに行く vol. 15


事業プレゼンの
基本は3C

1月に始まった第2セメスターも5月の1週目には終了。気がつけばMBAの1年目が終わった。第2セメスターの試験前には、学内で多くのピッチイベント(事業プレゼンイベント)が開催された。私はその内の2つに聴講者として参加。1つは学生が運営するアクセラレーションプログラムで、もう1つは学校主催のもの。両方とも事前の書類選考を勝ち抜いた起業家たちが、投資家や教授の前で3分程度のプレゼンをする。その後Q&Aが続いた。

Q&Aでの各審査員からの質問は多岐に渡ってはいたが、質問を聞いているうちに「これらはすべて3Cだな」と感じた。まずは何をしている事業なのかという質問。プレゼンを聞いていても数分では審査員にちゃんと伝わっておらず、結局何をしている事業なのかを確認する場面が何回かあった。どんな価値を提供しているのかに加えて、差別化ポイントは何か。どんな特殊な技術を有しているのか。どんなチームか。どのようなビジネスモデルか、収益化するのか。利益率はどのくらいか。売上予測はどの程度か。こういった項目は最初のC、自社(Company)に関わる内容だ。

顧客に関する質問も多かった。誰がターゲットなのか。どの国をマーケットだと考えているのか。顧客はどんな問題を抱えているのか。すでに顧客がいるのか。何社顧客がいるのか。すでに売上は立っているのか。これらは2つ目のC、顧客(Customer/Consumer)に関する項目。

そして3つ目のC、Competitor。競合企業はどこか。どのくらい多くの競合企業がいるマーケットなのか。なぜ他の企業にはそれができないのか。なぜ他の企業はそれをやっていないのか。

これら以外にも質問はあったが、概ねCompany、Customer/Consumer、Competitorの3つのいずれかに関する質問だったと言える。3Cはビジネスの基本。目新しいことではないが、基本だからこそ投資家たちも把握したいのだろう。実際、2つのピッチイベントで表彰されたチームは、顧客と顧客の抱えるペイン、そしてその顧客にどう他と違う価値を提供しているのかが明確なところだった。起業や新規事業のプレゼンといっても、基本の3Cをしっかり抑えることができればまずは合格点。そこからさらに差がつくのは、ペインの大きさだったり、斬新な違いを生み出していたり、既に事業を”Do”していて多くの顧客がいたりすること。ただし、まずは3Cにしっかりと取り組むことが事業プレゼンにおいて大切だと感じさせられた。

資料なしで
エレベータピッチできるか

学校主催のピッチイベントを聴講した時に驚いたのが、登壇者はマイクを持つのみでスライドを審査員に見せて説明することができなかったこと。登壇者はおそらく3分程度で事業説明を口頭だけで行い、審査員の質疑に関しても全て口頭で行った。

パワーポイントを始めとするスライドを使ったプレゼンをしたり、聞いたりすることに慣れてしまっている私としては、これは新鮮だった。スライドがない分、説明者は内容を簡潔にまとめ、相手にイメージできるように伝えなければならない。提案内容を理解し尽くしていないとできないなと思った。

この資料なしでプレゼンするスタイルは、必修科目での授業でも体験した。この科目は、実在する企業にコンサルティングサービスを提供するというもので、クライアント企業の課題の特定とプロジェクト範囲の合意から始まって最終プレゼンで授業が終わるのだが、この授業でも資料なしでのエレベータピッチに触れたのだった。

最終プレゼン日の約1ヶ月前にはプレゼンの準備を始めるように言われた。授業では各チームからランダムに選ばれた学生が、自分のチームのプレゼン予定内容を5分以内で説明する。このプレゼンではスライドを使うことが許されたが、資料なしのエレベータピッチはその後に訪れた。各チームが発表した後に、それを聞いていたクラスメイトからランダムに1人選ばれて、その人がたった今聞いた内容を資料なしでみんなの前でエレベータピッチするように言われたのだ。聞いたことを自分なりにまとめて説明しなければならない。誰が当たるか分からずドキドキ。集中して各チームのプレゼンを聞いた。私は当たらなかったが、当たった学生は教室の前に出て資料なしでエレベータピッチ。聞いたばかりの話なので印象的なところしか説明できない。こうして、各チームがどこまで自分たちの伝えたいことを相手に理解してもらっているかが炙り出されたのだった。

この授業はクライアント企業へコンサルテーションを提供するもので、プレゼン資料は詳細なデータを含み大容量だ。そのためある学生は、私たちが用意しているプレゼン資料は、エレベータピッチをする類のものではないのではないかと教授に質問した。しかし自身もコンサルタントである教授は、どんな詳細なプレゼンテーションであったとしても、数分のエレベータピッチで相手に説明できるように準備しておくべきだと返した。プレゼン当日にクライアントのオフィスのエレベータに乗り込んで、一緒になった人から「今日は何をしにいらしたのですか?」と聞かれることもある。そうした時に簡潔に話すことができればチャンスは広がる。教授が昔クライアント企業のオフィスのエレベータに乗り込んだ時にまさに同じ場面に遭遇した。その時彼は説明する準備ができていなかったようだ。しかし同乗して質問してきた人はその企業のCEOだった。

事業が軌道に乗ったら
デリゲーション

事業プレゼンをして投資家の支援を得て起業家は事業を大きくしていく。企業を成長させるために最も大切なものはCashであり、現金が手元にどの程度あるのかを起業家は日々確認する必要があることは既に別の記事でお伝えしたとおり。Cashは企業のどの成長ステージにおいても重要な要素だ。ただし、企業がなんとか初期の立ち上げ期をサバイブしてある程度安定し、更なる成長へと向かうステージにおいては、別の要素がカギとなるという。それがデリゲーション。簡単に言えば権限委譲。経営者としての自分の仕事をいかに他の人に与えていけるかだ。

創業し、起業家自身の能力と努力、そしてCashによって事業を軌道に乗せる。組織がある程度のサイズになってくると、起業家個人のマネジメントを続けるのではなく、他人を通じて組織をマネジメントすることに移行していかなければならない。この有無が企業が更なる成長を遂げるのか、消滅してしまうかの分かれ道となる。

デリゲーションはCashと同じくらいスタートアップの成長にとって重要な要素である。Cashに関しては別の記事で紹介したとおり、商品の値段を上げることやキャッシュコンバージョンサイクルを改善するなどの打ち手が授業で紹介されてきた。では、デリゲーションに関して同じように有効なアプローチはあるのだろうか。

私は教授に尋ねたところ、「方法論はないが、デリゲーションとはコミュニケーションすることだ。そしてその人物を引き上げること(エレベーション)だ」と答えた。任せっきりはデリゲーションではない。任せつつ、任せた人とコミュニケーションする。その人物の判断が違う場合はなぜ違うのか、どうすべきなのかを提示することで、その人物を本当に任せられる人物へと引き上げる。そうして完全に仕事を任せられるようにする。それがデリゲーションだと教わった。

デリゲーション(Delegation)
 = コミュニケーション(Communication) + エレベーション(Elevation)

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著作者・出典:Freepik

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