見出し画像

第1章 決算書を読みこなすためのコツ   


5.「貸借対照表」の基本的なしくみ


「貸借対照表」で財産状況を報告する日とは?

 「貸借対照表」は「資産」「負債」「純資産」の3つの項目で構成される会社の財産表です。
 一定の日における「財政状態」を表わす書類です。
 貸借対照表での一定の日とは、基本的には、事業年度の末日である決算日をいいます。
 ただし、四半期決算や中間決算など事業年度の途中において貸借対照表を作成する場合は、その計算期間の末日における財政状態を表わします。このように、財産状況を集計して報告する日を「貸借対照表日」といいます。

貸借対照表は資産・負債・純資産


資産は会社の「プラスの財産」

 「資産」とは「会社のもの」です。会社に所有権があり、会社名義である価値のある「プラスの財産」です。

 現金預金、商品や製品をツケで売った代金をまだ回収していない売掛金、商売のタネである商品や製品、他人にお金を貸している貸付金、製品配達用の車両、土地、商品倉庫や本社ビルなどが、プラスの財産ですね。
 自社が所有する土地を他人に賃貸している場合も、その土地は会社の資産として計上します。反対に、他人が所有する豪華なビルを賃借している場合には、その建物は会社のものではないので資産計上されません。

 「当社の財産は人である!」と考えている経営者も多いかもしれません。
 しかし、従業員については会社に所有権はありません。
〝人材”は会計での資産に含まれません。
 また商品や土地、建物、車両のように有形の資産ばかりではありません。
 のれん、借地権、特許権などの無形の資産も計上されることがあります。
 「のれん」とは、企業買収において貸借対照表の純資産価額よりも高値で会社を取得した場合の純資産と取得価額との差額です。  
 純資産価額が企業の価値であるである買いした超過収益力部分といえますが、貸借対照表に計上されていない価値があると判断し、そのである「のれん」、他人が所有する土地を借り受ける権利である「借地権」、特許権などの無形資産も計上されます。

 ただ、これらの資産は、売却、解約、回収などをしなければ資金化されません。プラスの財産とはいえ、「お金の使い方」(運用)でもあります。

負債は会社の「マイナスの財産」

 「負債」とは、銀行からの借入金、投資家からお金を借りる社債、商品仕入代金の未払いである買掛金などの「マイナスの財産」です。
 銀行からお金を借りる、社債を起債する、仕入先に支払を猶予してもらうことは見方を変えれば「お金の集め方」です。いまは資金繰りは楽ですが、いずれ返済しなければならない他人からの調達です。
 経営分析においては、負債を「他人資本」といいます。
 賞与引当金や退職給付引当金、または貸倒引当金など、将来の費用または損失の発生に備えるための「引当金」も会計での負債に含まれます。

「純資産」は資本金と利益の蓄積

 「純資産」は、資産総額(プラスの財産)から負債総額(マイナスの財産)を控除した残額。資産と負債の差額としての純額の財産です。 
 純資産の中身として代表的なものは元手と儲けの蓄積です。具体的には、ビジネス開始時とその後の増資時に株主から払い込まれた資本金(元手)、儲け(利益)のうち社内に留保した額(利益剰余金)の2つです。
 純資産は、原則として、返済する必要のない「お金の集め方」です。
 経営分析において、純資産(厳密には、「株式引受権」「新株予約権」「非支配株主持分」を除く)のことを「自己資本」ともいいます。
 「純資産の部」の各項目の変動については、「株主資本等変動計算書」という独立した計算書類を作成して報告します。

いつも貸借が一致する財産の残高表

 貸借対照表日において、会社が所有するプラスの財産(資産)、返済義務のあるマイナス財産(負債)、そして資産と負債の差額である純資産の額がいくらであるかを報告する書類が、貸借対照表です。   
 貸借対照表は、決算日における会社のすべての「財産の残高Balance)表」なのです。そのため、貸借対照表は「バランスシート(Balance sheet、略してB/S)」と呼ばれています。
 そして、使っているお金である資産(運用)と集めたお金である負債と純資産(調達)は同額です。貸借対照表の左側「貸しているお金」と右側「借りているお金」はつねに一致します(貸借一致)。貸借対照表は、左右の合計額が一致(バランス)する書類(バランスシート)でもあるわけです。

 貸借対照表は会社の「お金の集め方」と「お金の使い方」の両面で捉えた財産表であり、右側(負債と純資産)からはお金の集め方にムリがないか、左側(資産)からはお金の使い方にムダがないかどうか判断できます。

 このように、財産の残高表である貸借対照表を見ることで、
「どれ程の資産を保有して商売をしているか?」
「借金が多すぎないか?」
「すべての資産を売却して負債を返済したならば、差額の純資産はいくら手許に残るか?」  
といったことが読み取れます。


<問題>

 次の文章のうち、「貸借対照表」の説明として誤っているものは ?
1.貸借対照表における左右の合計額は、常に一致(バランス)する
2.貸借対照表はプラスの財産とマイナスの財産、その差額である純資産の残高(バランス)表である
3.貸借対照表では事業年度の開始日における財産状況を報告する
4.経営分析において負債を「他人資本」、純資産を「自己資本」という


<正解>
1.○ 
2.○ 
3.× 貸借対照表では事業年度の開始日における財産状況を報告する
→ 貸借対照表では事業年度末日(決算日)における財産状況を報告します。

4.○ 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?