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ティタノマキア(仮題)

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バンドの曲(未発表)をモチーフにして書き始めたオリジナルのファンタジー小説。初長編・初ファンタジー。見切り発車ATS。
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記事一覧

幕間、あるいは幕の中

幕間、あるいは幕の中

 カラージ国国境の攻防は、ウォーレスら傭兵団の活躍もあってか予想よりも早く決着した。ベレト達が戦っていた兵士達、地面から現れたその一団の目的は弾薬の輸送。彼らは土属性の魔法を駆使して地下道を掘り、その中を移動して前線まで武器弾薬を輸送していたのだ。そしてあえて地表近くを掘り進む事で地面を隆起させ、即席の土塁を作っていくのが彼らの作戦である。その拠点はベレト達が進んだ森の奥にあって、森に訪れた二人が

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芽生えの森③

芽生えの森③

 騒々しい森の囁きさえも凍りつき、口の中を支配する鉄錆のような味が、虚空に放り出されたように和らいだ。
 彼女の全身を締め付けていた暴力的な握力は次第に弱まり、彼女は呼吸を取り戻していく。呼吸の次に蘇ってくるのは意識と思考。何故、どうして、何が起きているのか――
 巨人の手から魔法の力を感じる。それはその巨人のモノでは無く、手の甲から外側へと伸びているように感じた。その力の糸を辿るようにアデリーが

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芽生えの森②

芽生えの森②

「立てるか」
「立てるよ」
「さっきのガキは?」
「ガキ?」
 ポアズの問いにベレトは間の抜けた返事をしてしまう。それが先ほどベレトを助けた女のことを指していると気づいたベレトは慌てて周囲を見回すが、先ほどの人物はおろか、敵の姿も消えている。
「舞い上がった土の数からして10人はいた。どこに行ったんだ?」
 ベレトは首を横に振り、再度辺りを見回した。すると木々の向こうから何か大きなものが、かなりの

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芽生えの森①

芽生えの森①

 人々が戦争を忘れて短くない時間が流れた。人々にとって戦争とは歴史学用語の1つでしかなく、他国からの侵略とはすなわち「嫌がらせ」と同じ意味を持っていた。
 それはここ、【ザナド帝国】の南西地域【カラージ国】においても同じである。それが国境に程近い隣国との係争地域であっても、みな心のどこかでは戦争を現実のものと捉えていなかった。

 少年ベレトもまた、そんな風に考えていたひとりであったし、銃弾と魔法

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それまでの、歴史

それまでの、歴史

 その世界は単に「世界」と呼ばれていた。他のどの世界とも同じように、この世には自分達の世界だけだと思っている人々にとって、たった一つの世界に名前をつける必要は無かったからである。

 また、その理由のひとつにこの世界が非常に平坦な、草原や荒地に覆われている事も大きく影響しているだろう。大地を隔てる山々も、人々に冒険心と果ての無い夢を抱かせる大海も無いこの世界において、人々の動きは非常に活発で、価値

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凍える山、君を燃やして②

凍える山、君を燃やして②

 直後、目の前に突き出されていた腕のうち左手が少年の方へと向けられ、その手から大きな炎が吹き上がる。
 その手から2メートル以上も燃え盛った炎はやがて拳大の火球へと凝縮されその光度を増していった。一方の手から放たれていた炎は左手を失った事で半減し、溶岩の勢いを止める事が出来なくなっている。

少女が飲まれる。熱く溶ける溶岩の波が氷と成り果てた少女の身体を覆い、小さな炎と水蒸気へと変えてしまった。

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凍える山、君を燃やして①

凍える山、君を燃やして①

 晴天の大地に雷鳴が轟いていた。

 角膜と横隔膜を揺らした轟音が山々を震わせ、早春の花が咲く草原がまるで割れたガラスのように弾け飛んでは、人々の悲鳴を押し潰していく。
 そこにいる誰もが混乱し、千々に千切れて逃げ惑っていたが、それが雷によるものだとは思っていなかった。地震いを知らぬ彼らにとって、このような音を発するものは、雷か大砲のようなものしか知らなかったからだ。裂けた地面の隙間から濁々と流れ

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