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福岡空港第1ターミナル「トンカツサンド」の記憶

カツサンドではなく、あくまでも「トンカツサンド」です。
それこそが私の記憶の中に燦然と輝く最高に美味いサンドイッチなのです。

今は亡き福岡空港第1ターミナルの片隅で、そのサンドイッチは売られていました。ターミナル2階、荷物検査場手前右側のお土産物コーナー内の「ロイヤル」のブース。ショーケースの上に4~5個だけ隠れキャラのようにそっと置いてあったのです。

値段も確か300円程度でとても良心的。
それを1パック購入してから荷物検査に臨むのが当時の私のルーティーンでした。

見た目はコンビニと同じような至極平凡な三角の透明パック。
どうだ分厚いだろ!的なボリューム自慢のカツを挟んであるわけではありません。どちらかというとカツもパンもやや薄めで控えめ。さらにキャベツなどの余計な具材も一切無く、至ってシンプルです。

まさに、
「揚げたてのトンカツをそのまま食パンに挟んだだけですが何か?」
という原点回帰を地で行くスタイル。
製造シールには毅然と「トンカツサンド」と表記されていました。

しかし、そのシンプルさを侮ることなかれ。
カツの厚さ、パンのしっとり感、ソースの濃度。
口に入れたときにそれらの全てがパーフェクトに調和するのです。
ザ・ベストバランス!
バランスこそ正義!!
偶然などではなく、明らかに何もかもが計算づくの見事な職人技です。
「まあ老舗ロイヤルが本気出せばこれぐらいどうってことないですけどね…」
そう言わんばかりのさりげない自信がひしひしと伝わってきました。

誠に残念ながら、皆様にその美味しさの一端をお伝えするような写真が1枚も残っていません。
いつでも食べられると思っていたから、写真に残そうなんて考えていなかったからです。
当時の私は何も考えずに、
「超うめぇ!マジうめぇ!!」
と待合室でカフェオレ片手にムシャムシャと貪り食っていただけなのでした。

しかしながら、このトンカツサンドはある日突然店頭から姿を消してしまいました。
はっきりした年月までは覚えていないのですが、確か2008年前後だったと思います。いつものようにロイヤルのコーナーに立ち寄ったのですが、トンカツサンドの姿がありません。
今日は売り切れなのか…と思って店員さんに尋ねてみると、
「ああ、あれはもう作ってないんですよ…」
との非情な宣告が返ってきて、まさにジ・エンドでした。

その後も諦めきれない私は、ロイヤルの別の店舗や業態で売っていないのが調べてみました。しかし、どのロイヤル系のレストランにも売店にもその姿を全く見つけることができません。そもそも「トンカツサンド」などという呼称自体がロイヤル公式には存在しないのです。
どうやら、福岡空港第1ターミナルのあのコーナーだけの完全オリジナル商品だったようです。
そんなレア商品だったことなどつゆ知らず、私は当たり前のものとして無造作に口に運んでいたのでした。

美味かった!本当に美味かった!
今はただ、そんな幸せな記憶だけが懐かしい第1ターミナルの光景とともに残っています。

あれから旅に出るごとに各地でカツサンドを買ってはみるのです。
しかし、未だにあの福岡空港第1ターミナルの「トンカツサンド」を超える逸品には出会えないままです。

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