空想お散歩紀行 メモリートラブル
「裏切り者ーーーッ!!!」
「ち、違うんだ!こ、これは・・・ッ」
いつの世も古今東西かかわらず、人と人とは争いを繰り返す。
それは非常に小さいものから非常に大きいものまで様々だ。
だが、今ここで起こっている争いは正確に言えば人と人のものではない。
「しらばっくれても無駄よ!全部分かってるんだから!」
「い、いや、だからそれは」
一組の夫婦がいる。争いの内容は、これまたいつの時代にもある浮気疑惑だ。
「ちゃんと、ログ残ってんのよここに。あなたは消したつもりかもしれないけど!」
「ぐっ・・・」
だがこの夫婦は人間ではない。
アンドロイドだった。
機械の体に、AIの頭脳。最初はごく簡単な思考しかできなかったアンドロイドも、時を経るにつれ、どんどんと人間に近づいていった。そしてある時、一つの問題が湧き上がる。
人間とほぼ同じになっているアンドロイドにも人権を認めるべきではないか?
それまでは、あくまで人間の所有物としての扱いを受けていたアンドロイドたちを個々の存在として社会が受け入れるということである。
これは激しい議論を呼び、長い時間を掛けたが、結果としてアンドロイドたちにも人権が認められることとなった。
人間と同じように生活できるようになったアンドロイドたち。そこから始まったのが、彼らアンドロイド同士によるアンドロイド婚である。
内容は人間の結婚とさほど変わらない。お互いで誓いという名の契約を交わすのである。
人間の場合は、それが指輪だったり、神に宣誓するなどであるが、アンドロイドたちの場合は少し違う。
彼らの場合は、情報アクセスの制限である。
彼らはそのネットと繫がった頭脳で、瞬時に世界中の情報を得ることができる。
そしてアンドロイド同士で情報を共有、並列化することでいつでも自分のアップデートできるのだ。
普通のアンドロイド同士では、この個体間の情報共有は無制限で行われている。
かつてまだ所有物であった頃は、所有者である人間の意志で共有の範囲を決められていたが、今はアンドロイド自らで決めることができる。
なので結婚の際は、夫婦となるアンドロイドは、お互い以外の個体とは必要最低限以上の並列化をしないということが、誓約として盛り込まれるのだ。
それまで自由に生きてきたことに、制限が課される。これもまた結婚というシステムの一つの面を表しているのではないだろうか。
そして、今ここで起こっていることである。
「誰よ!?このユミって娘!私のメモリーに入って来たんだけど!JK530型って!やっぱり男ってそうなのね!いつもいつも新しい型の娘の方がいいのねッ!!」
「だ、だから、それは・・・」
夫婦間で並列化をした際、夫の方のメモリーに残っていた情報(本人は消したと思っていた)が妻の方に流れ込んだ。
それが、この争いの始まりである。
「裏切り者ッ!あんたなんか初期化してやるわーッ!!」
「ちょ、ちょっと待て、それはマズイ!!」
いつの時代も争いは絶えない。それは形を変えるだけで、これからも無くなることはないだろう。
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