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サウナのマラソンへの効果~心掛けて欲しいこと~

先日、月刊ランナーズに「サウナのマラソンへの効果」を取材して頂きました(ランナーズオンラインより)。

取材のとき「一番の効果は暑熱馴化です!」と自信を持って答えました。
ですが、どうも反応が悪くて・・・

どうやらサウナのリカバリーの効果を一番知りたかったようです。
確かにググると「サウナはリカバリー」と書いたサイトがみられます。
ですが文献を検索すると、サウナのリカバリーの効果は乏しいと出てきます。

どういうことでしょうか。
サウナのマラソンへの効果、その際心掛けて欲しいことについて書いてゆきます。

1.ランニングとサウナについて

1-1.一般ランナーの多くが、ランニング後にサウナを利用している。

ロシアの文献ですが、持久系のアスリートの96.7%が、サウナや入浴をリカバリーに用いているとのことでした。これはマッサージ(86.9%)や昼寝(81.0%)よりも高率でした。

ですが日本において一般ランナーが、リカバリー目的でサウナを利用している割合を調査したものはありませんでした。が、周囲のランナーを聞くと、ランニングのあとにサウナに入る方は結構おられるようです。。

1-2.日本語でググると、リカバリー効果があるとするサイトが数多くヒットするが。

実際に「マラソン」「サウナ」でググると、たくさんのサイトがヒットします。多くは「疲労回復の効果」が題目に挙がっています。血液の循環を促し疲労物質を排泄させたり、ヒートショックプロテインによりたんぱく質を保護するという効果を謳ったものです。

確かにランニングのあと入浴したり、サウナに入ると疲労が軽減したような感覚になります。ですが、これは本当に疲労が軽減しているのでしょうか。

1-3.リカバリーなら文献的には、他の方法の方が効果的とされている。

Periodization~Theory and Methodology of Training~」というトレーニングの理論と方法論を書いた成書によると、実際に身体運動からの回復の効果は、サウナよりも軽い有酸素運動、栄養、マッサージ、睡眠、休息などの方法がより効果的であるとされています。なのに一般のアスリートがサウナをリカバリーに用いるのは、筋肉、神経、血管をリラックスさせる効果があるからだろうとのことです。

運動のリカバリーが、疲労物質・炎症物質の除去や筋線維の修復を促すことが目的であれば、サウナの効果は乏しいと言えます。ですが、自律神経の調節や、リラックス効果を含めての広義のリカバリーであれば効果があると言えるでしょう。

サウナのリカバリー効果が乏しいからか、遠赤外線サウナならよいのではないか?という報告もあったりします。

2.ではサウナのランニングに対する効果は?

2-1.暑熱馴化

一番は暑熱馴化の効果です。サウナの中距離ランナーへの効果を調べた文献では、3週間のサウナによって、深部体温の上昇・心拍数の上昇を抑えたとあります。

トレーニング後のサウナを3週間行った、暑熱馴化の効果:Kirby NV . Eur J Appl Physiol. 2021

さらに7週間まで延長すると、さらなる効果が得られそうにも見えますが、文献の結論では「7週間に延長することの追加の効果はほとんどないように思われた」とあります。
ですので暑熱が予想される大会の3週間前から、ランニング後のサウナを取り入れると効果が期待できると思われます。

2-2.持久力能力の向上

他、持久力能力の向上も見られました。3週間のランニング後のサウナによって最大酸素摂取量が0.23%、乳酸作業性閾値が0.6km/h上昇したとのことです。暑熱下でなくても、走力の向上が見込まれるわけです。

トレーニング後のサウナを3週間行った、持久力運動能力の効果:Kirby NV . Eur J Appl Physiol. 2021

その結果トレッドミルで最大酸素摂取量を測定した走行試験で、疲労困憊になるまでの時間が48秒(11.3%)延長したとのことです。

2-3.サウナをリカバリーのためにしないなら

文献的にサウナのリカバリー効果がないのはおそらく、海外の文献は「冷水浴」のない一般的なフィンランド式サウナを「サウナ」と呼んでいるからです(合間に、外気で熱を冷ましたりはするようです)。

以前Noteで、ランニング後のリカバリーは(冷水浴)<(交代浴)<(凍結療法)と書きました。リカバリーとするならば、交代浴のよいなサウナ利用をするべきです。要はしっかりと冷水浴をすることを心掛けて下さい。冷水浴が苦手な人は、足だけでもしっかりと冷水浴してください。

リカバリーの場合、「温めるだけ」はやめて下さい。

3.ではどう生かすか

3-1.暑熱の大会の前に

夏はマラソンのオフシーズンとなります。
ですが、北海道マラソンを始め、函館・千歳・黒部などなど暑熱下の大会はたくさんあります。パリ五輪の選考会のMGCも10月15日にありますが、暑くなるかもしれません。

そんな暑熱が予想される大会があるときは3週間前から練習後にサウナを利用すると効果的です。体温や心拍数が上がりにくくなります。

3-2.暑熱馴化なんて考えていなかった大会の直前に

大会直前の天気予報で、大会当日の気温が予想外に高いことに気づくことがあります。15℃や20℃の天気では、暑熱で失速する可能性があります。25℃や30℃では熱中症になる可能性があります。

そんな時、直前に1回か2回だけでも、ランニング後にサウナを取り入れてみてはいかがでしょうか。暑熱は1日・2日慣らしただけでも、リスクが減る事が知られています。

熱暑環境下における作業開始からの日数と、熱中症による死亡者数
山崎文夫:暑熱馴化と運動.臨スポーツ医35:664-668、2019

直前の悪あがきではないですが、サウナで暑熱馴化の一夜漬けをしてみてはいかがでしょうか(笑)。

3-3.大会後のリカバリーとして

大会後のリカバリーの場合、必ず冷水浴をして下さい。冷水浴だけでもよいくらいなのですから。水風呂に入らずに、サウナ⇒温泉⇒ビールは絶対やめて下さい(自分はよくやります)。暑熱馴化や持久力能力は高まるかもしれませんが、リカバリーとしてはむしろ逆効果です。


要は、暑熱馴化や持久力パフォーマンスの向上のためには、サウナにしっかり入る。リカバリーのためには水風呂にしっかり入る。という事が大事なんだと思います。

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