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「400字詰め原稿用紙〇〇枚分」って古くないか?

ある日生まれた小さな疑問

タイトルの通り、ある日僕はこう思った。

「400字詰め原稿用紙〇〇枚分」って古くないか?

それはちょうど僕は短編小説の文学賞に応募しようとしている時だったのだが、募集要項に「文字数:400字詰め原稿用紙30枚以下」との記載があった。

僕は最初、単純に「ああ、400字×30枚で、12,000文字ね」と思い、応募用の原稿の文字数を調整していた。

でもなんだかその周りくどい言い方が気になったので、調べてみることにした。


結論から言うと、『400字詰め原稿用紙30枚以下』は『12,000文字以下』では無かった。

よく考えればその通りだ。
原稿用紙を使うときは全てのマスに文字を書き込んだりはしない。
段落の最初は一文字分の空白を空けるし、セリフなどの鉤括弧を使った文の後は必ず改行する。

だから、原稿用紙には必ず使われていない空白がある。
つまり、「400字詰めの原稿用紙30枚以下」は「12,000文字以下」の意味ではなく、『空白を含めて30枚以下になるように書け』という指示なのだ。

確かに原稿用紙のルールに合わせればその通りだ。
僕が知識不足だったのかと思い、なんとかしてそのルールに合うように、僕は文章を削っていくことにした。


でも、一体どうやって計算する?

そして、次の問題に直面してこう思った。

「いや、どうすりゃええねん……」

もちろんパソコンで執筆をする時は、わざわざ原稿用紙なんて使わない。
文章作成ツールにそのまま書くだけだ。
そのツールは文字数を自動で計算してくれるから、今何文字書いたのか一眼で確認できる。

原稿用紙云々ではなく、『〇〇文字以内』と明確にしてくれれば一眼で自分の文章が規定文字数以内かを確認できるわけだ。
だが、『原稿用紙〇〇枚以下』という謎の条件のせいで、一体どれだけ自分の文章を削れば良いのか分からない。

原稿用紙を買ってきて文章を全部書き写すのもバカバカしいし、ひどく時間がかかる気がする。
僕の使っている文章作成ツールには今の文章を原稿用紙に換算するような機能はついていないから、手詰まりになってしまった。


結論:テンプレートを使えば解決!!

結論から言えば、僕はネットに転がっていた原稿用紙のテンプレートを活用することにした。

こちらはMacに入っている文章作成ソフト「Pages」で使える原稿用紙のテンプレートで、作成した文章を全部コピペすると原稿用紙何枚分かを計算できる優れものだ。

これのおかげで、段落最初の字下げ、セリフの後の改行などを加味した枚数を割り出すことができた。

このテンプレートを使って原稿用紙何枚分かを確認し、規定枚数に収まるように文章を減らしていく。僕は原稿用紙のままだと見にくいので、元の文章を減らしてまたテンプレートに入れて計算する作業を何度も繰り返している。

このテンプレートのおかげで原稿用紙に1万文字以上を書き連ねる手間をかけずに済んだので大変助かった。


なぜ『原稿用紙換算で〜』と定義するのか?

これで一件落着!
…と言いたいところだが、納得できないところがある。

なぜどの文学賞も『原稿用紙換算で〇〇枚以下』という表現をするのだろうか?

この時代に原稿用紙に手書きで小説を書く人なんてほとんどいないのだから、単に「〇〇文字以内」と定義すれば良い気がする。

そうすればもっとみんな賞に応募しやすくなるし、応募者側の負担もかなり減るだろう。

もしかして、変な条件を突きつけて僕たちを試しているのか?
それとも、未だに大御所の作家は原稿用紙に手書きで書いているのか?

そんなことを考えたが、なんとなく納得できる答えに思い至った。


おそらく、本として出版する時のことを考えているのだ。

例えば小説であれば、賞を取った作品が最終的に行き着く先は「書籍化」だ。
出版社側もそうやって良い小説を自社で出版するために募集をしているわけで、文学賞の目的は「書籍化」と言っても良いだろう。

最終的に本にする場合のことを考えてみると、その形式はまさに原稿用紙とほぼ同じだ。
段落ごとの字下げなどの原稿用紙のルールが、そのまま文庫本などに適用されている。

文庫本は20×20文字の400字詰めでは無いが、書き方のルールは原稿用紙と一緒だ。
だから、わざわざ『原稿用紙〇〇枚分』と定義しているのだ。

それは出版するときには「文字数」ではなく「ページ数」の方が大事だから、と言うことだ。


仮に文字数を「1万文字以内」と定義した時のことを考えてみよう。
その場合、文字数は少ないのに本にしたらページ数が多くなる作品が生まれる可能性がある。

鉤括弧ばかりの作品がその良い例だ。
仮に、そんな作品を想定して考えてみよう。

「ねえ。」
「うん、どうしたの?」
「いや、いいの?」
「そう?」
「ええ、もういいのよ」
彼女は寂しげな表情でそう言った。

セリフ多めの文章

例えばこの文章では、鉤括弧内の文字数がかなり少なく、短文での会話が続いている。
この場合、文章は「6行」で文字数は「39文字」だ。

「ねえ。」
彼女は少し寂しげな表情でそう言うと、俯いて目に涙を浮かべた。僕は何と声をかけるべきか悩んだが、結局最後まで何も言うことができなかった。それは、よく晴れた夏の出来事だった。
あのとき僕が勇気を出して声をかけていたら、きっと今の僕の人生は違ったものになっていたのだろう。僕はそれからずっと目を閉じる度に、あの日の彼女の横顔を思い出している。

セリフ少なめの文章

一方、こちらの文章はセリフ以外の文が長い例だ。
一般的な文庫本の1行あたりの文字数である35文字で換算すると、こちらも先ほどの文章と同じく「6行」だ。

だが、文字数は「153文字」と最初の文章に比べて極端に多い。
後の文章の方が改行が少なく、その分文量が多いからだ。

ところが、どちらの文章も書籍化された場合には同じだけの行数になる。
会話ばかりの文章でも、説明が多い文章でも、結局ボリュームは同じということだ。


つまり、「〇〇文字以内」と定義してしまうと、文字数は少ないのにページ数がやたら多い作品も来てしまうわけだ。
実際にそれを書籍化したときにはやたらページ数が多くなってしまうので、出版社としてはかなり困ってしまうだろう。

そう考えれば「原稿用紙〇〇枚以下」という定義の仕方は正しいように思える。
少なくとも、なぜ文字数ではなく枚数で定義しているのかは理解できる。


これからの文字数の定義方法

それでも、やはり現在ほとんど使われていない「原稿用紙」で換算するのは意味が分からない。

それだったら「〇〇文字を1行として××行以内」としてくれた方が、まだいくらか分かりやすいというものだ。
一般的な文章作成ソフトで1ページを20×20文字に指定するのはものすごく面倒なので、せめて「1行を40文字とする」くらいの現代の執筆スタイルに合わせた条件にしてほしい。

だが、おそらく世間一般に認知されている文章の形式が「原稿用紙」しか無いのだろう。
文庫本も、1行の文字数や1ページあたりの行数が出版社によって違うこともあるから、定義がしにくいのだろう。

そんな中で唯一誰もが知っている文章の形式が「原稿用紙」だったのだろう。
それなら老若男女誰も分かるし、勝手に「1行を40文字として〜」などと定義して批判を喰らうこともない。


そう考えると、おそらくこの先も『原稿用紙〇〇枚以内で』という定義の仕方は変わらないのだろう。

僕が将来もし審査員側とか出版社側に回ることがあれば、もっと分かりやすい定義を提案したいものだが、結局最後には「やっぱり原稿用紙が一番分かりやすいね」となってしまうかもしれない。

とりあえず、当分は自分の書いた文字を原稿用紙のテンプレートにコピペして推敲していく日々が続きそうだ。


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