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英文法を知ることと教えること【2022英語科教育法III #2】

英語科教育法IIIの第2回の授業ログ。
第1回はこちらから。

今回から偶数回が講義(ディスカッション、ワーク等含む)、奇数回が模擬授業&対話型模擬授業検討会というサイクルに入る。

初めての講義回のテーマは「文法指導」

文法の授業といえば、教師が一方的に話して、確認プリントをして終わりという印象が強かった(後略)

授業後の学生のコメントより

上の学生の授業後のコメントにあるように、「文法指導」と聞くとついついOne-wayのティーチング、いわゆる「チョーク&トーク」(死語?)のような授業場面が思い浮かべられるらしい。

今後様々な技能にフォーカスした模擬授業を学生にはしてもらうことになるからこそ、「今日から新しい文法やるよ〜!」以外にもたくさん文法指導のチャンスはあることを認識してもらえれば嬉しい。
活動の内容によって当然文法にどれほどの注意を払うかは変わってくるが、それでも基本的に文法は言語活動を通して学ぶことができるし、文法を使えるようになるには言語活動を介さない一方的なレクチャー(だけ)では難しいだろう。

3 Dimensions of Grammar

Core Readingsの一つとして
太田(2016) 『新装改訂 英語の授業が変わる50のポイント』pp. 164-165.
を読んできてもらい、Celce-Murcia & Larsen Freeman (1999)文法の3要素(Form / Meaning / Use)について授業で少し掘ってみる。(尚、同書の最新版が一向に安くならないのでいつも引用は手元にある1999年。)

ひとまず受動態を例に、その形式・意味・機能を概観した後、いくつかの文法項目から一人一つずつ選んでもらい、それぞれの形式・意味・機能を整理する。
(今回のFurther Readingsの一つでもある)Larsen-Freeman(2003)によればこの3要素は様々な言語単位(語彙・文法・定型表現など)の説明に適用可能で、むしろこの3つの要素それぞれについて考えなければ言語に対する不完全な理解に終わるとされている(Larsen-Freeman, 2003, p. 36)。
今回学生は比較級、関係代名詞、第5文型(SVOC)、助動詞のcouldについてそれぞれ説明を試みた。

授業で起きたこと全てを残すことが目的ではないのでここで学生からの説明を全て書き起こすようなことはしないが、全員「意味」と「機能」を適切に区別し、それぞれの文法事項について最低限以上の説明を与えてくれた。

ただ、やはり「機能」については全体的になかなか核心に迫ることは難しそうでもあった。
例えば比較級について考えた学生は「2人/2つを比べる時に使う」と説明し、それ自体は決して間違っていないのだが、その結果(多くの場合)主語についての顕著な特徴を伝えるという機能が生まれることまで踏み込めるようになりたいところだ。そうすると、突然KenとJohnの身長を比べるという謎イベントを英文法参考書で多発させる必要もなくなる(というか、謎イベントを謎イベントとして見ることができる)。
主語についての顕著な特徴を伝えるとは、例えば、
"My girlfriend is cuter than Asuka Saito."
などと言えば「え、彼女めっちゃ可愛いじゃん」とか「めっちゃ彼女のこと良く言うやんw」みたいな反応を得ることができる。
これが誰も知らない架空のMaryだと比較すること自体の旨味がない。

一度の授業で3側面全てを扱う必要もなければ、言語学的分析ではなく学習英文法としての教授であれば時に無視していい要素もあることを確認した。
ただ、生身の中学生・高校生への指導に落とし込もうと思うと、余計なことまで喋ってしまったり、機能の説明が限定的すぎたり抽象的すぎたりして、教師の期待するほどの納得感を生徒に与えられないということも個人的には何度か経験している。

学習英文法のいろいろ

授業後半戦は「学習英文法」という概念の確認から。
お馴染み「5文型」に加えて「7文型」も紹介してみたが、そもそも「5文型、神!」みたいなテンションの学生もおらず、5も7もそのありがたみをどこまで伝えられたかは微妙。

そして、意味順英文法も紹介する。本当なら(一人一冊『意味順英文法ドリル』を配って)そのメリットとデメリット(限界点)を検討する時間を取りたかったのだが、90分の時間感覚が一生掴めない私のタイムマネジメントミスで泣く泣くカット。
仕方ないので奥住先生との対談動画だけ宣伝して終了。

塾でアルバイトをする学生もいることだし、もう少し丁寧に意味順については導入して、指導のオプションの一つにしてもらいたかったところ。

教師として知っておきたい文法観のいろいろ

履修者の中には複数名Syntax(統語論)のゼミに入っている学生がいる。これは非常にありがたいことだ。(仮にFormの知識に偏るとしても)文法に関する抽象的な議論・思考に耐えられる力は英語教師として必ず武器になる。

ここでは理論言語学の諸分野、認知文法・英語史・機能文法など英語教師に役立ちやすい言語学諸分野をザッと紹介した。今日の授業では「英文法」って5文型のことでもなければ、ツリーを描くことでもないよ〜というメッセージが伝われば十分。
実際にありがたみを感じてもらうにはFurther Readingsの文献にアクセスしてもらう他ない。

文法指導の方法のいろいろ

事前に読んできてもらった
岡田ほか(2015)『基礎から学ぶ英語科教育法』pp. 196-202
をベースに、Focus on Meaning, Focus on Form, Focus on FormSを簡単に整理。
その中でFocus on FormSの手法として紹介されがちな「パターンプラクティス」に着目し、「意味や価値観のやり取りのあるパターンプラクティス」を生み出すことで、Focus on Formとしてのパタプラが可能になるという話。別にFonFが他より偉いということではないけれど。

手前味噌だが以前noteに掲載した関係代名詞のパターンプラクティスを例に挙げた。

Core Readings

次回は初めての模擬授業ということで、
渡辺(2019)『授業づくりの考え方-小学校の模擬授業とリフレクションで学ぶ』pp. 61~64 / pp. 191~199
を事前に読んできてもらう。
英語科教育法Iでも学生に読んでもらうものだが、とにかく模擬授業の生徒役のクオリティ(というか、色々考えながら生徒役を演じようとする構え)と対話型模擬授業検討会が私の英語科教育法の肝になるので、この部分の共通理解だけは外せない。

Further Readings

今回の講義内容に関わって、更に色々と深めてもらうための文献を複数共有した。後にも先にもこれより多い回はあるだろうか??
(ここにあがる本を個人的にフォローしますというメッセージを複数の方から頂いたので、授業本編より説明的に色々書いてしまった)

安井(2014)『英語とはどんな言語か』pp. 76~87 / pp. 134~142

英語をこれまでより深く見るということにおいて、本書は個人的に欠かせない一冊だ。他の本と比較して質がどうこうという以上に(もちろん質は良いのだが)、大学生になって初めて学術書と呼べるものを読んで心を強く動かされたのがこの本なのだ。要は私にとっての青春のバイブルみたいな本だ。

今回切り抜いた一箇所目は第9章「形容詞について」。形容詞について知っていることを問われ「名詞を修飾する」「補語(C)になる」以外に何を答えられるようになるか。教室で直接役立つ知見ばかりではないが、たった10ページで英語という言語への理解の深まりと感動が大いに与えられる。今回のFurther Readings選定のために読み返してまた胸が躍った。

もう一箇所は第16章「未来表現管見」
「現在・過去・未来の3つの時制」というフレーズに「ん?」と引っ掛かりを持てるようになるための章とでも言えるだろうか。
これを知らなくても気にならずに生きてこられた人は幸せだが、willやbe going toが「未来形」とか「未来時制」とか説明されて、過去形・現在形との様子の違いにパニックになった川村少年はこの章で18歳にして救われた。

堀田(2016)『はじめての英語史』pp. 110~139

文法指導の回ではあるが本書からは語彙の歴史に関わる第5章をチョイス。あえてそこを選んだ一番の理由は、文法の3要素の「機能」の話で「似ている別の表現と比較することでその文法特有の機能が見えてくる」という話をして、それを語彙の領域でも考えてもらいたいからだ。第5章では英語語彙の3層構造(古英語・フランス語・ラテン/ギリシャ語)について説明されており、語彙にしろ文法にしろ、似た意味を持つアイテムの聞き手/読み手に与える印象・使用場面等の違いを認識していることは納得感の高い説明を与えたり、生徒の語用論的スキルを見取る際の助けになるだろう。

今井(1995)『英語の使い方』pp. 47~74

『must = have to ?』と題された第3章はmustとhave toの違いが説明できる!と胸を張る英語教師にも読まれたい。というか、そこで胸を張りたい人ほど必読だろう。シンプルに法助動詞の全体像を首尾よく理解したい人には私はまずこの章を差し出す。私自身も学部生時代に何度も読み込んで個別指導塾でドヤっていた時期があった。
法助動詞と言いながら、意味の繋がりで現在進行形やbe to構文まで説明されており、至れり尽くせりという感じだ。その分、若干一章が長いが、楽しい時間が長く続く喜びでもある。

大津(2022)『英語学習 7つの誤解』pp. 17~26

抜き出したのは誤解1「英語後学習に英文法は不要である」だ。
まだ学生とは出会ったばかりでそれぞれの英語学習観もほとんど知らないままなので、もしかしたらこれも入れておいた方がいいかも?と急遽追加した。

Larsen-Freeman (2003) "Teaching Language. From Grammar to Grammaring" pp. 34~48

文法の3要素として導入したForm/Meaning/Useについてより理解を深め、語彙や定型表現まで広く適用・説明してくれている。
1個ぐらい洋書を入れとくかぁ〜、という気持ちで探し始めたが、文法の3要素を導入する以上無難にこれかなぁとなった。

大津(2012)『学習英文法を見直したい』pp. 194~205

「科学文法と学習文法」というタイトルの高見健一氏の論考。タイトルの通り、理論言語学など研究としての文法と、外国語学習のための文法の棲み分けと関連について明快に述べられている。今日の授業のメッセージの根幹に関わる文献。
なお、この授業の直前の休み時間にふとtwitterを開いて高見先生の訃報を目にした。何も直接的な関わりはないが、学部・院・フリーター時代にゲスト参加させていただいていた英語学ゼミでは『謎解きの英文法』『日英対照 英語学の基礎』を読み、開拓者言語・文化選書の『受身と使役』も個人的に勉強させていただいた。それ以外にも私程度の人間が出会ってきた言語学界隈の極めて狭いエリアの中だけでも高見先生の貢献の上に成立していた議論が多々あったことだろうと思う。
心より、ご冥福をお祈りいたします。


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