見出し画像

聞くことと、考えること。【2022 英語科教育法III #1】

英語教員免許の取得を目指す3年生の履修する英語科教育法IIIの初回。

授業そのもののガイダンスに加えて、今年度からここに来た人間なので当然自己紹介が必要。
ということで、英語での自己紹介をスライドも適当に使いながら簡単に行う。

その後、突然"Task 1. Ask me a question. It must be different from other students' ones. Raise your hand and ask!"と無茶振りする。

一人の学生がサッと手を挙げて"How long have you learned English?"と質問してくれたので、インドネシアの日本人学校に通っていたという(インパクト大きめな)補足情報に加えて小1から一応授業では習っていたということを話した。
履修者は5名なので4人の学生がまだ質問していない。が、そこからしばらくの間は質問が出ずに、ようやく一人の学生が「全然自己紹介の内容と関係ないんですけど」と断りを入れながら "What color do you like?"と質問。その後、年齢や誕生日、これまでに行ったことのある国を他の学生からも質問されて一通り質問タイムは終わった。

この活動には「裏」がある。最初に手を挙げて質問してくれた学生にだけは予め授業前にこんなメッセージを送っていた。

今日の授業で私が英語で自己紹介をします。その後に"Please ask me a question about me which is different from others'.(私のことについて他の人と被らない質問をしてください)という指示を出します。多分他のメンバーは即座には手が挙がらないと思いますので,〇〇さんにはサッと1番最初に手を挙げて,質問をしてもらいたいです。
このことを知っているのは〇〇さんだけですので,質問を考えながら自己紹介を聞いてもらえればと思います。1番に質問するのでどんな適当な質問でも他の人と被りません😀

このメッセージを事前に読んでいたからTaskが発表された直後にサッと手を挙げて質問できたわけだ。

他の4名にもこのネタバラシをした上で、英語授業のリスニング場面について思いを馳せてもらう。特にそこで生徒が経験することを思い浮かべることが重要だ。

タスクを後からやらせるのであれば、それを事前に知らせておくかどうかの差は大きいということは全員が体験的に理解しただろう。
その上で自分が授業者になった際にどのような指示をする(またはしない)かは教師の狙いに照らして考えればよい。

ここでより重要なことは、「この後質問してもらうからね」ということを知らされずに自己紹介を聞いていた学生は、自己紹介を聞いている間何を考えていたのかということだ。「8つの窓」(Teacher/StudentそれぞれのDo/Think/Feel/Want; コルトハーヘンの「9つの問い」)で言えば、StudentのThinkの部分。
"Listen to me."と言われれば教師の英語をしっかり聞いて理解する力はこの授業の履修者全員に備わっていたと思われるが、なかなか質問が出なかった様子を見ると私の自己紹介を聞いている間はただ聞いているだけの時間になっていて次のコミュニケーションのことは頭になかったことが分かる。
実際の中学生に「何を考えて聞いてた?」と訊ねれば、「へぇ〜って思ってました」とか「特に何も」とか言われそうな状況だ。

一般的なコミュニケーションの場であれば、他の人の自己紹介を聞きながら色々と質問したりリアクションしたりして関係性の構築に向けて働きかけることが想定される。
それが英語授業になると、無意識のうちに「聞き取る」「理解する」ことに終始してしまいがちだ。もちろん技能の習得・向上という点からはリスニングに「集中」するフェイズがあっても悪くない。
だが、授業をコミュニケーションの場としたいとき、授業者として生徒にどういう準備をさせるか、何を考えさせるかは意図的に仕組みたいところだ。

この英語科教育法IIIでは2週に1回の頻度で模擬授業を行い、その度に対話型模擬授業検討会を行う。
模擬授業及び検討会では授業者としての経験・省察を通して指導技術向上や授業観の涵養が目指されるのはもちろんのこと、学習者として授業を受けてそこでの思考/感情を言語化する力が求められる。
私からのレクチャーを受ける時間は学生にとってStudentとして色々考えたり感じたり望んだりしながら学ぶ大事な時間であり、私としても彼(女)らのThink/Feel/Wantを大切にしながら授業者として成長していきたい。

Core Readings

この授業では毎授業前に全員に読んできてもらうCore Readingsと、授業後にその授業内容に関わることについてもっと深めたい人向けのFurther Readingsを毎回案内する。
今回は初回オリエンテーションということで、次回に向けてのCore Readingsのみ。

次回の授業テーマ「文法指導」に関わるCore Readingsは以下の二つ。

太田(2016) 『新装改訂 英語の授業が変わる50のポイント』pp. 164-165.

岡田ほか(2015)『基礎から学ぶ英語科教育法』pp. 196-202

二冊とも今年度の英語科教育法I~IVで幅広くお世話になる予定の文献。

また、授業観・子ども観について全体で共通イメージを持つべく、比較的平易な文章でそれなりの納得感を持ちながら読め、その上で学生が批判的に読む余地も残した文献として、

澤井(2019)『教師の学び方』pp. 47-64


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?