ロッド・エリス先生のTBLTに関する講演を聞きました。

中部地区英語教育学会(2021/6/26-7, オンライン)の初日,オーストラリア・パース大学のロッド・エリス教授による50周年記念講演ということでTBLT(タスク・ベースト・ランゲージ・ティーチング)についてのお話を聞きました。TBLTについては自分自身まだあまりちゃんと勉強できていないので,自分用のメモも兼ねてここに簡単にまとめます。

Taskの定義

「タスク」とは何か。よく授業で行われる「アクティビティ」とは何か。まずは定義から示されました。4つのポイントがあります。
① (形式ではなく)意味が重視される
特定の文法形式の使用を意図したものというより,コミュニケーション上の意味のやりとりがあるものを「タスク」と呼ぶようです。

② インフォメーションギャップがある
生徒達が何かを伝えたり,理解したりするために,インフォメーションギャップが必要とのことです。「全部分かってたら話す必要も聞く必要もないでしょ」ってところでしょうか。

③ 学習者は自前の言語・非言語資源を用いる
①でも触れましたが,「この文法項目を使いなさい」ということはありません。ジェスチャー等も含め,生徒が自分で使うことのできる資源を使って行います。スマホやタブレットも使っていいんでしょうか?

④ コミュニケーション上の成果がある
②でインフォメーションギャップというのも出ましたが,コミュニケーションを取った結果そのギャップが埋まり,何かしらの成果(アウトカム)があるのがタスクだとのことです。

特定の文法形式の使用が促されなかったり,自分の持っているあらゆる言語・非言語情報を使うというところは我々の日常的なコミュニケーションに近い感じがします。
一方,日常生活での我々の会話・コミュニケーションには必ずしもインフォメーションギャップはありません。また何かコミュニケーションの結果のアウトカムを求めるだけのコミュニケーションしかしていないという人はかなり少ないのではないでしょうか。
例えば,「昨日の〇〇の動画見た!?」「見た!あれやばいよね!」「最近〇〇ちょっと来てるよね。登録者100万行きそう」みたいな会話,同じ動画を見てその動画について話すので特にインフォメーションギャップはありません。それにこの会話に何かしらのアウトカムを求めていることは考えづらいでしょう。もしかしたら,「相手も知らない〇〇の動画の話をして,チャンネル登録をさせる」みたいなこともあるのかもしれませんが…。

Input-based TaskとOutput-based Task

TBLTへの批判的(否定的)な声として代表的なものが「初学者向けではない」だそうです。
それに対するロッド・エリス先生の答えは,「初学者にもInput-based Taskなら出来る」というものでした。
タスクと聞くと何気なく「話すこと(やりとり)」の授業場面を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。自分もそうです。しかしタスクはそういったアウトプット中心のものだけでなく,インプット活動も(上の①~④の定義を満たす限り)タスクと呼ぶことができます。

またロッド・エリス先生曰く,人はもともと偶発的・暗示的に言語(母語)を習得できるものです。そしてその言語習得の初期はインプットが中心になります。今,目の前で起こっていることについての描写であれば,文法理解なしに内容を理解できます。乳幼児期の子どもと一緒に犬を見たときに「ワンワンがいるねぇ。かわいいねぇ〜」みたいな感じですかね。
また子どもはまずチャンクから言語を理解していきます。その後に徐々に文法についての体系的な理解が続きます。

この話はL1(母語)獲得についての知見に基づいたものですので,実際に教室で教えることを考えるとインプットの量や質の問題も気になってきますが,そのあたりはまた自分で勉強してみようと思います。

Input-based Taskの例

この講演で最も印象的だったのがInput-based Taskの例として提示された活動例です。自分は「タスク」と聞くと少し手の込んだ活動を思い浮かべてしまうのですが,ここで紹介されたものは至ってシンプルで,「え,そういうの小学校とか中学校でも普通にやってない?」とか「それって『アクティビティ』じゃなくて『タスク』なんだ」とか思いました。

先生から英語で指示された通りにプリント上に物を配置したり,聞いた内容に合うような絵を選んだり。センター試験のリスニングもそんなんありましたね。
「それでいいんだ!え,いいの?」という気持ちになりましたが,確かに
① (形式ではなく)意味が重視される
② インフォメーションギャップがある
③ 学習者は自前の言語・非言語資源を用いる

④ コミュニケーション上の成果がある
の4つの定義は確かに満たしている気がします。

「タスクの例,出すぞ」って言われた時に少し身構えた自分としては,「拍子抜け」ってこういう時に使うんだ〜ってなりました。小学校とか結構な頻度でTBLTやられてるんじゃないでしょうか。実際小学校の授業をほとんど見たことないので分かりませんが。

Taskの2側面 Design/Implication

タスクを作る際に考えることとして,「デザイン」(Design)と「実装」(Implication)が挙げられました。以下にそれぞれを簡単にまとめます。

デザイン
・トピック選び…生徒の好み・興味も考えよう
・非言語情報…生徒の理解を助けるものや生徒が作るものなど,色々
・複雑性…トピックや非言語情報で調整しよう
・言語形式の選択…どんな言葉をインプットしたいか。「色の名前」とか「自動詞」とか,色々
・インプットの方法…①即興的に,柔軟に ②スクリプトの通りに (教師の自信次第)
・アウトカム…初学者向けタスクのアウトカムは基本closedで (活動そのものや評価の難易度的に)

実装
・タスクの準備…pre-taskやpre-teach (事前にタスクで使えそうな表現を入れておくのも可)
・L1使用…必要最低限にしたいが,場合によっては可
・インプットの工夫(Input Modification)…生徒の様子を見つつ,リピート・短縮・強調などなど,あの手この手で分からせよう
・インプットの調整(Input Elaboration) …タスクに必要な言語情報とオプショナルな情報を分けておきましょう。

ちなみに実装の中の「インプットの工夫」からの流れでFocus-on-Formが言及されました。
生徒の注意を一時的に形式面に向けさせる手法です。単数系と複数形の違いに気づかせたければ,1個のりんごと2個のりんごを見せつつ,"An apple" "Two apples"と(少し不定冠詞や複数形のsを強調したりして)言うやつですね。
あまりTBLTの文脈で出てくるものだと思っていなかったので,意外でしたが,基本的に意味に注目する指導法だからこそ,時に形式に目を向けさせたい時,FonFのアプローチが取られるのかなと理解しました。

Task Repetition

タスクは何度か繰り返すことで生徒(と教師)のパフォーマンスが向上するため,繰り返し(repetition)が推奨されています。特に小学生等は,飽きがくるまでは同じようなタスクを複数回課しやすいですね。
実際にタスクの繰り返しによって期待できる効果は,
・L1使用の減少
・アウトプットの向上 (インプットメインのタスクでも生徒が何か英語で発したり)
・理解向上
・モチベーション維持 (繰り返すほどにモチベーションが維持されると言う,なんだか逆説的な感じですね)
エリス先生も「中学生以上は微妙かも」と言っていました。

質疑応答① 明示的指導は不要か?

エリス先生「非明示的な指導や確かに結果が出るまでに時間がかかる。だけど教室ではできるだけタスクを通して意味のある非明示的な学習をして,明示的な学習は宿題とかでいいんじゃない?」

これは個人的には結構納得感なくはないですね。
学校で文法を明示的に教えて,「外で英語使う機会ないからねぇ〜」と変えようのない現実に嘆くぐらいなら,文法はある程度家でやらせて教室を英語コミュニケーション空間にしようということですね。
なかなかアウトプットタスクは自分は得意じゃなくてやれていないのですが,読み中心のインプットタスクは結構自分もやってるなぁと思いました。そしてそれが盛り上がりすぎると文法は後から明示的にパパッとして後は宿題!って感じ。
それでも文法指導頑張りたいマンではあるので,形式・意味・機能のバランスはこだわっていますが。

質疑応答② オープンなタスクはダメ?

エリス先生「明確なタスクアウトカムがないと評価も難しいし,closedなアウトカムなら調節もし易い」

質疑応答③ 教科書が文法シラバスでタスク向きではないんですが…

エリス先生「僕も日本にいた時期ありますけど,そんなことないと思いますけどね。PPPの最後のPからやるとか,色々やりようはあると思いますよ」

質疑応答④ EFLとESLの違いで考えるべきことってある?

エリス先生「EFLとESLの定義が曖昧だからあれだけど,日本みたいに学校の外でほぼ英語を使わないところではリアルライフタスクとかは多分合わないから,生徒の好みとかに応じてトピックを選んであげよう」

雑感

途中にも書いた通り,タスクってあんまり身構えなくていいのかなぁと少し気が軽くなりました。とは言っても,自分はスピーキングの空気作りとかが本当に下手でALTがいないとなかなかスピーキング系の活動に踏み切れないので,今見てる生徒たちにもまずはリスニングのインプットタスクとかから増やしていってもいいかもなぁと思いました。実際,今回聞いた話の内容からそのままリスニングタスクを作ると,多分ただの模試対策みたいになりますが。



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