見出し画像

23-24AWメンズウェア展示会リポート③

この時期には個別の展示会はほぼ終わり、PR会社が一堂にブランドを集めたプレスプレビューがメイン。多少インポートも混じる。

4月5日

VERYTAGE
ベリーテイジ

名古屋を拠点とするアパレル会社から今季デビューした「ベリーテイジ」。ブランド名はヘリテイジとヴィンテージを掛け合わせた造語。ファーストコレクションは、ユーロミリタリー&ワークのヴィンテージに見られる珍しいディテールやデザインを取り上げ、今っぽいサイジングに。素材も珍しいものを厳選し、経年変化も楽しめるようにしっかりと作り込まれている。競合としては「エンジニアドガーメンツ」や「ポストオーバーオールズ」や前述した「レノ」などがあるので、スタイリング提案やメディア露出を含めたイメージ作りが今後の鍵になりそう。


5月17日

OAMC
オーエーエムシー

エドストロームのプレビューにて拝見。元「シュプリーム」、現「ジル・サンダー」のデザイナーでもあるルーク・メイヤー氏による注目度の高いブランド。ワークウェアの合理性に着目して、ラグジュアリーな素材と生産背景がしっかりしていることが強みになっている。今季もスタイリングにはストリート的な要素を踏襲しつつ、丸みを帯びたボリューミーなシルエットを打ち出している。アクセントカラーとしてパープルを取り入れつつ、リアルでモダンな着こなしを提案。派手さはないけれど、ありがちなストリートブランドとは格の違いを感じさせてくれる。


OUR LEGACY
アワーレガシー

「アクネ ストゥディオズ」、「コモン スウェーデン」らと共に語られることの多いスウェーデンブランド。カテゴリー的にも“ニューコンテンポラリー”で、ジーンズを軸にした普遍的なカジュアルアイテムをスタイリングの妙技とシルエットのアレンジで今っぽく提案。ストリート的なアプローチではあるけれど、ヒップホップ的ではない。テクノとかハウスが好きそうなヨーロッパの若者みたいなイメージ。なんとなくイメージがいいブランドだけれど、服自体にものすごい特徴があるわけではなく、あえてこのブランドでなければならない理由が希薄。他にもいいメンズブランドは日本にいくらでもある。


ISABEL MARANT MEN
イザベル マラン メン

ステディスタディの合同展示会にて。元々はウィメンズのみのブランドだが、10年ほど前からメンズも加わり、ランウェイでも男女のモデルを起用するようになった。展示会で実際に見られたのは2ラックくらいだったので判断しかねるが、今季もイザベルらしい捻りを効かせたカジュアルアイテムがいい感じだった。80年代末から90年代初頭にかけて起こったマンチェスタームーブメントを感じさせるスポーツアイテム、色使い、ダボっとしたシルエットが今の気分になぜか合う。とは言え、別にこのブランドを買う必然性は全く感じられない。

https://www.isabelmarant.com/jp/lookbooks/isabel-marant/isabel-marant-fall-winter-2023/


OVERCOAT
オーバーコート

NYで長年活動してきたデザイナー大丸氏による、2015年にスタートしたブランド。名だたるブランドでパタンナーを務め、相当なキャリアを積んでいるだけあって、その実力は折り紙付き。数々のトレンドも通過してきただけあって、メンズウェアの普遍的な価値をしっかりとアイテムとして昇華している。一見普通なように見えて、計算され尽くしたシルエットとフィット感は、どんな男性にも受け入れられるだろう。派手なデザインやトレンドに左右されずに、ひたすら上質で長く付き合えるアウターを探している人におすすめの通なブランド。

5月31日

HERNO
ヘルノ

レインコートを代表とする、イタリアの老舗アウター専業ブランド。近年はダウンに力を入れていて、長年培ってきた高い技術力を活かしてファッション性を高めている。特に先端の透湿防水素材などを多用したハイスペックラインの「ラミナー」が人気だが、今季はデザイン性が強いアイテムが多かった。老舗ゆえの技術力の高さとオーセンティックさがヘルノの魅力なのに、中途半端にデザインを加えることでどっち付かずに…。メインラインではストリート的なアプローチを盛り込んだダウンジャケットが多数。モンクレールのような成功を目指すなら、大幅なテコ入れが必要な気がする。


WAX LONDON
ワックス ロンドン

「ケープハイツ」や「ビリンガム」などを取り扱う会社、グリニッジショールームの展示会にて。メイド・イン・イングランドでありながらも良心的な価格で、上質なデイリーウェアを作り続けている2015年創業のUKブランド。アイコン的なアイテムは、多彩なチェック柄のシャツジャケット。やや地厚なコットン素材で、サステイナブルも意識しているそうだ。特にデザインがどうのこうのというブランドではなく、あくまでも普通のデイリーカジュアルなのだけれど、やっぱり色出しや柄選びは日本のブランドにない独特な感覚がある。地味だけど少しずつ人気が出そう。


6月1日

MACKINTOSH
マッキントッシュ

ゴム引き素材でお馴染みの由緒ある英国アウターブランド。ドーバーストリートマーケットで販売される限定モデルがあることからも、モード好きからトラッド好きまで幅広いファンを持つ。今季もゴム引き素材のバリエーションは多彩で、アームホールにゆとりを持たせたAラインのシルエットが目立った。ウールフランネル素材のクラシカルなチェスターやラップコートなどは、かなり着丈を長めにしているのが今季らしいポイント。きちんとメイド・イン・イングランドを継承しながらも古臭くならず、現代のハイファッションにも遜色ないデザイン性を持たせた圧巻のラインナップ。


TAKAHIROMIYASHITA. TheSoloist
タカヒロミヤシタザソロイスト

スカートやワンピースを使ったジェンダレスな提案、秋冬なのにショートパンツを使ったシーズンレスな提案がメディアから絶賛されていた「ソロイスト」のコレクションをWAGの展示会で確認。ロックやパンクからの直接的な引用を控えて、グラフィックなどを随所に織り込みながら、全盛期のナンバーナインを想起させるタイト&リーンなシルエットに。基本的なカラー展開はモノトーンで、そこへアクセントカラーのパープルを組み合わせていた。デイリーに着こなすにはハードルが高いが、まずはポーラーハットやサングラスなどの小物から取り入れてみると良さそう。


COMOLI
コモリ

老舗PR会社のWAGの展示会にて。ベーシックアイテムを今のシルエットに置き換え、上質な素材と縫製で仕上げる「コモリ」。シーズンの立ち上がりには旗艦店に行列ができるほど熱い支持を得ている。そもそもデザイナーがセレクトショップのオリジナルを手掛けていただけに、まさに痒い所に手が届く的なアプローチが上手い。今季はカシミヤを多用してコモリ流の視点でベーシックを再構築。カラーパレットは、ネイビー、グレー、ブラック、エクリュと今まで通り。安定感は抜群で、多くのファンも納得の仕上がりだが、かなり価格が上がったのが懸念材料。若い人はなかなか手が出しづらくなったと思う。


FACETASM
ファセッタズム

WAGにて「ファセッタズム」をちらりと拝見。才能を認められた実績のあるデザイナーだし、ブランドとしても健闘しているのはもちろん理解しているが、自分にはいまいちピンとこない。アンバランスな美を追求したかのようなシルエット、独特な感覚による色柄やグラフィック、異なるアイテムや素材を掛け合わせるドッキングデザインなど、特徴を挙げれば色々とあるのだが、そのどれもが既視感を抱いてしまうからなのかも知れない。あくまで個人の感想に過ぎないが、出会うタイミングが良くなかっただけなのだろう。


6月6日

FERRAGAMO
フェラガモ

クリエイティブディレクターが代わり、ロゴを一新したイタリアの老舗。ハイブランドは通常自社のショールームで展示会を行うが、リブランディングに際してのお披露目的な意味もあり、今季は珍しく表参道の貸しホールで開催。ガンチーニと呼ばれる金具がアイコンで、今までたくさんのアイテムに使われてきたが、今季はシェイプを変えてバッグの金具に採用。メンズにも既製服の取り扱いがあるようだが、日本展開アイテムはかなり限定的だということで割愛。幅広で丸みを帯びたフォルムのシューズ、ネオプレーン素材とラバーを組み合わせたバッグが目を引いた。あまり注目されていなかった「マックス・マーラ」がテディ素材のアウターを大ヒットさせて息を吹き返した事例もあるので、フェラガモもそのようなヒット作をまずはウィメンズで生み出せるかが今後の課題だろう。

https://www.ferragamo.com/

6月9日

INSCRIRE
アンスクリア

デザイナー、バイヤー、MDを経験してきた女性デザイナーが手掛けるニューカマーで、レディースではすでに高い評価を得ている新興ブランド。コンセプトはストリートラグジュアリーというありがちなものだが、確かに言い得て妙でもある。既存のカジュアルなベーシックアイテムを今っぽいシルエットと素材感でアップデート。どことなくヒッピーっぽさや70年代テイストを感じさせるところは、やはりネペンテス卒業生ゆえ。業界関係者を中心にウィメンズが話題になってきているらしいので、その影響がメンズにも来ると一気に伸びそう。


KAPTAIN SUNSHINE
キャプテン サンシャイン

目立った存在ではないけれど、ファッション通の間で高く評価されている「キャプテン サンシャイン」。ベースとなるのはアメカジなんだけど、ヴィンテージに見られるディテールや素材使いを随所に散りばめながら、今のシルエットと着用シーンに落とし込んでいる。手持ちのワードローブに溶け込む普遍的なアイテムながらも、必ずどこかに普通じゃないデザインが加えられていている。この絶妙なバランス感、時代を読む力は、デザイナーが元編集者ということが影響しているのだろう。年齢や好みに関係なく、男なら誰しもが手に取りたくなるアイテムが毎シーズン必ずある。個人的にはショート丈でダブルの前合わせのダウンジャケットと、シャツスリーブにアレンジしたネイビーブレザーが欲しくなった。太過ぎず細過ぎず、身体をバランス良く見せてくれるシルエットバランスも秀逸。


MEANSWHILE
ミーンズワイル

2020年からスタートした新興ブランド。マウンテンパーカやフィッシングベストを得意とするブランドで、やはり“街中で映えるおしゃれなアウトドア”路線。既存のカジュアルウェアを今のサイジングに捉え直し、機能的なディテールに手を加える手法を取っている。それゆえ、派手さはなくあくまでもリアルクローズ。デザイナーの世界観を前面に打ち出すのではなく、あったらいいなをカタチにしていくような感覚だ。今季も安定感のある仕上がりだが、このカテゴリーは先輩ブランドもたくさんあるので、今後はよりパンチのあるアイテムや打ち出しが求められると思う。その点でも9月に行われるショーは楽しみ。


RAINMAKER
レインメーカー

前述のキャプテンサンシャインとミーンズワイルをPRしているショールームで拝見。設立から今年で10年を迎え、もう少しで中堅の域に達しそうな京都ブランド。テーラードアイテムが中心で、コートやブルゾンなどが加わるが、全体的にはドレス系。「オーラリー」や「ヨーク」などのいわゆる“ニューベーシック系”とも近いようでいて、「エムズブラック」や「イレニサ」のような作り込みの巧みさやドレススタイルへのこだわりも強く感じさせる。今季も得意とするトレンチコートやセットアップを、ゆるりとしたシルエットで提案。単にオーバーサイジングにしているのではなく、生地が空気をはらんでゆったりとたなびくようなエレガントな仕上がりが秀逸。


DOUBLET
ダブレット

冗談なのか本気なのか、カッコいいのか悪ふざけなのか? そんな危うい一線を突いて、ファッションとして成立させてしまう発想力で、唯一無二の存在感を放つ「ダブレット」。今シーズンも奇想天外なコレクションをパリで発表。ウサギの着ぐるみ、巨大なグローブ型ニットドレス、ゴム風船に見立てたダウンジャケット、極限まで太い糸で織り上げたデニムなどなど、驚きとユーモアに満ちたアイテムが多数。着ぐるみはもちろんショーピースではあるけれど、ニットやダウンは普段のコーディネートにちゃんと合わせられるように計算されている。単に奇抜さを狙っただけでなく、実際に着用を想定して着地点を見つけ出しているところが秀逸。もはや若手の部類ではないが、ここ数年で台頭してきたデザイナーの中では、確かな実力を発揮している。JLSの炎上話でも少し触れたけど、ハイファッションはもはや見せ物なのか?という問いに、ダブレットは明快にイエスと応えるだろう。ただし、見せ物であると同時にエンタテイメントであり、リアルクローズでもある。だからファッションは楽しいということを教えてくれる稀有な存在だ。


CHILDREN OF THE DISCORDANCE
チルドレン・オブ・ザ・ディスコーダンス

ヒップホップやハードコアといったミュージックカルチャーからインスパイアを受けつつも、独自の素材使いとグラフィックでエッジの効いたアイテムに仕上げている。厳選したヴィンテージを解体し、手の込んだパッチワークで再構築したバンダナシャツやジーンズが同ブランドのアイコン的存在だが、オリジナル素材によるアイテムも充実。今季は70年代のヒッピーや90年代のグランジを掛け合わせながら、今の空気感にアジャスト。シルエットもタイトなものからルーズなものまで幅があり、あくまでスタイリング次第で多彩な表情を見せてくれるところがいい。テクニカルなアプローチや厳選したパーツ使いで、チープさを一切感じさせないところもこのブランドの魅力。大人も気負わず楽しめる上質なストリートと形容したくなるコレクションとなっており、将来有望なブランドのひとつだと思う。写真が分かりづらくて申し訳ない。


YORK
ヨーク

初の東コレでメディアからは好意的な評価を得た新鋭ブランド。「コモリ」や「オーラリー」といった“ニューベーシック系”ブランドと同じ系譜にあると言ってもいいだろう。アイテム的にもテーラードを軸にしながら、チェスターやトレンチコートを組み合わせる提案で、縦にストンと落ちるオーバーサイズシルエットがこのブランドの真骨頂。今季は抽象画家のベン・ニコルソンにインスパイアされたグラフィックを随所に挟み込んでいるとのこと。普通なようで普通じゃない服を求める、20代から30代に支持されているのも納得。ただし、今後さらなる飛躍を目指すためにはもっと大胆な仕掛けが必要な時期に来ているのかも知れない。


6月15日

BRU NA BOINNE
ブルーナボイン

昔から知り合いが運営している「ウィリーチャバリア」や「グレイ」をPRしているショールームで拝見。大阪をベースに1997年から地道に展開し続けているベテラン。基本はワークウェア主体で、和を意識した色柄と刺繍などで遊び心を加えた大人のカジュアル。西の「ネペンテス」といったところだろうか。シルエットなどは時代に即して変化をつけながら、しっかりと手の込んだ作り込みが見て取れる。年齢を問わずデイリーに取り入れやすく、それでいて単なるベーシックウェアとは違う、主張のあるデザインはもっと高く評価されていいブランドだと思う。


7月26日

BERBERRY
バーバリー

セレクトショップの秋冬展示会も終わって、もはや24SSが始まるタイミングで大物「バーバリー」が登場。前任のリカルドによるリブランディングも、個人的にはなかなか良かったと思うのだけれど、「ボッテガ・ヴェネタ」で数々のヒットアイテムを生み出したダニエル・リーが就任したので、そのお披露目も兼ねて、原宿のホールにてプレゼンテーションを開催。チェックを大胆に再構築してグラフィカルなデザインに落とし込んだブルゾンやコート、取り外し可能なファーを付けたAラインのトレンチ、ボッテガでヒットさせた厚底ブーツなどなど、パンチがあるデザインを展開。かなり主張のあるデザインながらも、ちゃんとリアルクローズだし、いつもの着こなしに取り入れることもできる。さすが、やり手のダニエル。いい感じにまとめてきている。

④で23-24AWをまとめるよ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?