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あの頃のAKBにはもう会えない

7月上旬に一時帰国していた日本を離れブリスベンに帰ってきた。そこからすぐにカブルチャーというファームの街へ引っ越し、そこそこ綺麗な家で彼女と住んでいる(いま「かぶるちゃー」と打って変換しようとしたら予測変換に「かぶるチャーハン」って出てきたMacBookかわいい)。
カブルチャーハンで何をしているのかというとズバリ、いちごパッキングをしている。作業自体は簡単だ。ベルトコンベアで流れてくるイチゴのトレーを取り、そこから良い感じのイチゴを選んで、プラスチック容器にいい感じに詰める。



この写真は「セカンドパネット」と呼ばれるもので、比較的に質の悪いイチゴはこのパネットに詰める。一見、傷んでいるようには見えないがそこを隠すのがイチゴパッカーの見せ所である。重さも基準のグラム数に合わせないといけない。簡単そうでいて意外と難しい。僕も最初の2週間は「初心者ゾーン」のようなところに座らされ、教育係の台湾人上司がつきっきりで色々と教えてくれた。一向に上達しない僕を見かねて、語気が強くなるシーンも度々あり、「フルメタルジャケット」の鬼教官、もしくは「セッション」の熱血コーチを思わせた。まあなんとか強化週間を終え、今はファームの一員として頑張っている。

もしかしたらこれは僕の天職かもしれない。座りっぱなしは全く苦にならないし、単純作業は大好きだし、いちごが綺麗に詰めれた時はぷよぷよの連鎖快感を思わせる。音楽もラジオも聴き放題だ。「霜降り明星のオールナイトニッポン」を聴いている途中にふと笑ってしまい、隣の中国人マダムにチラ見されたのはここだけの話だ。

いまマダムというワードが出たが、いちごパッカーは40人ほどいる中で男は僕と台湾人の青年のみ。40代以上の女性が主な層だ。まあこんな経験は二度とないだろう。台湾では日本のドラマが人気のようで、やっぱり木村拓哉はみんな知っている。「HERO」も「東京ラブストーリー」も観ていて、「私たちは日本のドラマで育った」というほど。ほんまかいなという話だが、僕がブラックビスケッツの「タイミング」を聴いて元気を出している、なんて話もあるので、どこで異国人が活躍しているかなんて分からない。

さて、ここからは僕への戒めなので気にせず読んでいただきたい。

仕事中、疲れてくると僕はSpotifyで独自に作った「アイドルプレイリスト」を流すことにしている。元気が出るからだ。乃木坂の曲が多いかな。他にはモーニング娘。やももクロ、小泉今日子まで広くカバーしている。その中にはもちろんAKB48も含まれている。
高校生の頃、僕はAKBに熱狂していた。ちょうど「ポニーテールとシュシュ」や「ヘビーローテーション」で人気が爆発していた頃で、クラスの男子は「〇〇推し」と、誰もが一人は自分の推しを見つけていた。ちなみに僕はたかみな推しだった。あの強気な感じはかなり刺さった。フォトブックとかも買ってたな。
推しのアイドルが見つかると、そこからは横広がり的に知識は増えるもので、グループそのものに詳しくなる。友達との話題は昨日のプロ野球のことかAKBの2択。移動で聴くウォークマンの曲もAKB。完全に虜だったのだ。

しかし、ライブや握手会には行ったことがなかった。田舎住みだしー、とか、部活忙しいしー、とか行けない理由を見つけて「行かなかった」のだ。未知なる場所は誰だって怖いもの。いろいろな経験を経た今なら行ける。僕がもし今もなお熱狂していたらライブにも行くし握手会(今はやってないか)にも行くだろう。

でもな、「その時」じゃないと意味がないのだこれが。

僕が熱狂していた頃、すなわち2010年、もしくは2011年のAKBでないと意味がない。あの頃のAKBメンバーにはもう絶対会えないのだ。もし好きなら、とことん熱狂した方がよかった。会いにいけるアイドルなら尚更だ。会ったほうがいい。時が経つと熱は冷めていき、みんな歳を取る。高橋みなみは15歳年上のITマンと結婚し、前田敦子は結婚し出産し離婚し、大島優子は有名俳優と結婚し妊娠した。僕は大学を卒業し、一般企業を辞め、オーストラリアでイチゴを詰めている。柏木由紀はいまだにAKBをやっていることにこの前驚いたが、今のゆきりんと「ポニーテールとシュシュ」の頃のゆきりんはやっぱり違う。

鉄は熱いうちに打て。好奇逃すべからず。「今」じゃないと意味のないことがこの世にはたくさんあるのだ。だからこそ僕は思う。いまこの瞬間が一番若いと。友達に勧められた映画を観ろ。読みかけの本を読め。好きな子にラインしろ。高くて買うかどうか悩んでいるApple Watchを買え。海外を旅しろ。気になっている虫歯を治せ。長い爪はいますぐ切れ。嫌いな奴もついでに切ってしまえ。ラーメンにご飯をぶちこんだっていいじゃないか。君は今日が一番若いのだから。目的もなく今日からルーマニア語を学んだっていいのだ。今が「あの時」だったと未来で言えるのは、きっと熱狂に純粋な君だ。

サポートしていただいたお金を使って何かしら体験し、ここに書きたいと思います。