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Vol.10 「生還」

                   ★ 前回までのおさらい★

・ガス欠になったオオハシを置いて、あべじゅんと2人で謎の村へGO
・謎の村へ着く前に、更に謎の町を発見。20匹の犬に襲われる
・ようやく謎の町に着き、ガソリンを入手。嬉しいぜ!!
・だが人生そんなに甘くないのが現実。ガソリン代を更に要求され断ると、再び見た目が完全にいききった犬が登場。
・脅された結果、しぶしぶ要求に応じ開放される。

僕らは開放され後、オオハシが待つ場所へ半べそをかきながら急いで向かった。

「オオハシ、お前何してんだ!?」

僕らはオオハシの姿をみて、唖然とするしかなかった。
オオハシは雨の中一人全裸になり、まさに映画「ショーシャンクの空に」のように道の真ん中に直立していたのである(盛り無しでガチである)

あまりの衝撃に、これまで僕らに起こった出来事が全てぶっ飛びそうになった。しかし、彼の無防備な身体にアブや蚊、蛾などの昆虫が群がっているのを目にしたときふと我に返ると、無造作に置かれた彼の服を持ち、真っ先に天に召されそうな彼の元へ駆け寄った。

っぽ.010



「オオハシさん!!大丈夫ですか!」
あべじゅんが気がきではないような面持ちで、召されそうになっているオオハシに必死に話しかけると、オオハはぐったりとその場に倒れ込んだ。身体を触ると酷く凍えているのか、死体を触っているかのような冷たさだった。

息がない。胸に耳を当てても音がしない。嘘だろオオハシ。嘘だと言ってくれ。俺たち一緒にホーチミンまで行くって言ったじゃないか。こんなところで俺らを置いて一人先立つなんて許さないぞ。気付いたら僕の両目は涙で一杯に溢れていた。

「オオハシさん!!タクローさん、オオハシさんが起きました!」

あべじゅんの一言で、僕はうつむきかけていた顔をパッと上に上げた。オオハシが起きた?!嬉しさと驚きのあまり、オオハシとあべじゅんのところへダッシュで向かうと、オオハシがうっすら目を開けて「俺は今どこにいるんだ」と不思議そうな顔で僕らを見つめてきた。オオハシ、よくぞ帰ってきてくれた!!!

オオハシの兄貴.010



「お前どうやってオオハシのこと起こしたんだよ?蘇生法でも知ってたの?」
「いや、とりあえずオオハシさんの口に俺の口突っ込んで、息いれまくりました。俺の人工呼吸法が良かったんじゃないっすかね?」

お前から放たれる口臭なら死んでも口に入れられたくないと思い微妙に顔が引きつるも、やたらと得意げに僕に話しかけてくるから、必死に作り笑いをしてごまかす。次は女の子にしよーっと笑いながらいうところが、気持ち悪さをまた更に際立たせる。

あべじゅんから放出された光化学スモッグを吸いに吸ったオオハシの顔はまだ少し元気がなさそうだったが、一時期に比べると全体的にだいぶ良くなり、すっかり自分でガソリンをバイクに入れることができるまでに回復していた。これでひとまず安心だ。

ところでだが、オオハシになぜ素っ裸になって一人道路の真ん中に立ち尽くしてたんだ?と聞いてみると、自分なりの償いと大自然を体全体で感じたかったからだそうだ。原住民と暮らせお前は。そして犬を操れ。

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夜は確実に近づいてきていた。

結局オオハシのことを一人置いてから村へ行き帰ってくるまで5時間は経過していたため、辺りはすっかり暗くなり始めていた。暗闇の中ジャングルを動き回るのは、ベア・グリルス氏がサバイバルで絶対にしては行けないことだと言っていたことを思い出し、すぐさま僕ら3人は出発をした。

この帰り道がまたきつかった。暗いためハイビームにすると、とてつもない数の虫が僕らを襲ってきた。虫だけならまだしもだ。下をみると雨のせいでか大量のヒキガエルが道を埋め尽くし、僕らの行く手を阻んできたのだ。

このせいでスピードを出したくても出すことができなかったため、常時20km程度のスピードで走行しなけらばならなかった。おまけに雨も更に強まりと、もうどうしようもない。

ただここで気を切らしたら間違いなく死あるのみだ。僕ら3人は大声で「人にやさしく」を歌うことでなんとかお互い気をきらさないよう鼓舞しあい、この一生通ることがない「くっそたれ」な道を最後まで乗り切ったのであった。


「帰ってきたぞ。俺ら、帰ってきたんだ、、うっうっ、うわーん」


僕らがフォンニャケバンの町に到着したのは21:00過ぎであった。あまりにきつかったこのジャングルでの戦いを思い出してか、あべじゅんは着くと大泣きをしていた。

その隣で僕も恥ずかしながら大泣きをしてしまった。文章では決して伝えることができない辛さがこのジャングルでの戦いにはあったのである。オオハシはというと、ただただ僕らが泣きじゃくる姿を申し訳なさそうな顔でみていた。

「いやー。でも、とりあえず帰れて本当によかったっすね。色々あったけど命あればよしっすよ!今日は一杯飲んで、嫌なこと忘れましょうや!」
泣きやんだあべじゅんは、申し訳無さそうな顔をするオオハシに気を遣ったのだろう。いいやつじゃんあべじゅん。さっきはキモいって思ってゴメンな。

僕らは一杯どころか、その日は2日目のハノイで飲んだ時に負けないくらい飲みまくった。そしてすっかり気分が良くなった僕らは、同じ店で飲んでいたバックパッカーに声をかけ今日あった出来事を話すと、妙にあべじゅんと僕が行った謎の村に対し興味を示してきた。

その村についてもっと聞きたいと言ってくるため、更に具体的に話していくと、
「その村って、もしかして犬がたくさんいた村だった?」
そう聞いてきたため、僕らはYesとだけ返事をした。そうすると、
「その村って家がかなり原始的な家だった?」
こいつらよく知ってるなーと感心した僕らは、なんでお前らその村知ってるの?行ったことあるの?と聞くと、彼らは一旦辺りを見回し誰もいないことを確認してから、誰にも聞こえないような静かな声でこう答えたのであった。






「お前ら、よく帰ってこれたな。あの村、人食い村って有名な村だぜ」



信じるか信じないかはあなた次第です。


「花の都ダナンへ」に続く


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