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学校に叫んだらおばさんに逆ナンされた話

数年前、やることがなくて、いつもブラブラしていた時期がある。

作家権利なる恩恵があって、何もしなくても生きていくだけのお金はあったのだ。

よく西武新宿線の知らない駅で降りて散歩をしていた。住まいは京王線だったが、西武新宿線のカントリーな雰囲気が好きだった。

その日は新宿から各駅停車で二十分ほどの駅で降りた。

僕がビール片手にフラついていると、小学校が現れた。東京の小学校というのは「学校」というより、サッカーの練習場のような小ささを感じる。

僕は足を止めて、校庭を覗いた。
前髪で目元の見えない男が、用も無く小学校を覗いてるのは、相当デンジャラスな光景だっただろう。

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先生が子どもたちを整列させていた。

「早く並べ!こんなんじゃ中学生になれないからな!」と声を荒げていた。

子どもたちは顔を引きつらせ、ゾロゾロと列を作っていた。

「おい!汚ねーんだよ!列が!」

何をそんなに怒っているのか、教師は子どもたちに怒鳴り散らしていた。むかし見た堂本剛主演のドラマの少年院を思い出した。

教師の年齢は自分と同い年ぐらいだろうか。
でも僕は、年齢の離れた子どもたちの方に親しみを感じてしまっていた。

教師の怒鳴り声、罵詈雑言はやまなかった。

酒で気が大きくなっていたのもあり、僕は校庭に叫んだ。

「おいおっさん!」

教師と生徒が驚いてこっちを見た。

「なんで整列の精度と速度が中学進学に関係あんねん!ボケ!」と僕は続けた。

「警察呼ぶぞ!」と教師が叫ぶ。声がさほど大きくない。子どもたちに怒鳴っていた声の方が何倍もデカかった。

「呼んどけアホ!」

僕は教師の数倍の声量を校庭に投げつけ、その場を立ち去った。

そのあと、歩いていたらデーモン小暮ぐらい化粧の濃いおばさんに「アナタヲタスケテニキマシタ!タスケニ!」とカタコトで話しかけられた。

僕がビックリしていると、おばさんは真っ直ぐに目を見つめてきた。そしてノールックで僕の手に薄いA4冊子を渡した。

パラパラめくると、なんかしらの神による救済情報が書かれていた。

三ページほどのマンガがわりと面白かったので、けっこうちゃんと読んでしまった。

おばさんは読んでいる僕に「タスケニキマシタヨ」と言った。

助太刀は非常にありがたかったので、「さっきな、あっこの小学校でこんなことがあってん」と先ほどのあらましを伝えた。

おばさんは「オゥ・・・オゥ・・・」とオットセイのような声を出して「タスケニキテヨカッタ・・・」と呟いた。

僕は「警察来てるかもしれへん。一緒に戦いにいく?ジハードやん」とおばさんを誘ってみた。

おばさんはカッと目を見開いて「アナタ、ヤメマス!」と大声を出したと思いきや走りさってしまった。

何も分からないうちに辞められてしまった僕はトボトボと徒歩で新宿まで帰った。

「口を挟まざるを得ない」なんてシチュエーションはあんまり無いが、あの日のことはよく覚えている。

僕も口を挟んで逃げたし、おばさんも口を挟んで逃げた。

僕のケースは並ばされる子どもたちが自分自身に重なって見えたせいだろうか。

「大人が子どもに威張り散らす」というしくみは僕らの時代とあまり変わらない。どうにも破壊したくなる。

おばさんのケースはなんだろうか。

おばさんはいったい僕の何を破壊したかったのだろうか。

辞められてしまった今、すべては謎のままだ。世の中分かっていることなんてほとんどないのかもしれない。

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