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想像力と虚構の問題〜『チーム・オルタナティブの冒険』感想〜

これは想像力の必要な仕事だ。目に見えぬものたちを、かたちにすることだ

パスワード

これは虚構へのラブレターだと思った。
今まで自分が影響を受け、変えられてきた虚構への愛を語る物語なのだと思った。

ちょっと自分語りをさせてほしい。私はどちらかといえば少数派だった。中学は吹奏楽部の数少ない男子部員として、高校・大学は自分の趣味だった将棋部員として学生時代のいわゆる「青春」を謳歌するメジャーイメージからは程遠い、ホモソーシャルよりなコミュニティに属してきた人間だった。そしてどこか心の中で多数派の連中を見下すような逆張りを生きてきた人間だった。

それは本作の主人公である森本に少し重なる所を感じた。どこか周りにノリ切れない、少し浮いている感じ。でもどこかで自分を肯定したくて他人を上手く使ったり、特別だと思われたかったり。でもそんな利用してる自分に抱く罪悪感のようなアンビバレントな感情。

私の高校時代にも本作の藤川のような人物がいた。彼は登山部で私の所属する将棋部と部室が隣だった。マイナーな部活に所属する者同士でいつの間にか意気投合した。彼は私と違って優秀で勉強もできたし、私が大学生になってからハマるオタク系の趣味にも高校時代から長けており、「世の中の知識は全てラノベから学んだ」と豪語していた。そんな彼を私はD氏と呼び、彼は私のことをT氏と呼んだ。それが私達の間のコード(ノリ)だった。彼は現役で地方の国立大学に進学し、私達が一浪して関東の私立大学に進んだため疎遠になってしまったが彼は元気にしているだろうか。
一言伝えられるなら10年たって私も立派なアニメ視聴者になってそちらの世界が見えるようになったと伝えたい。

自分語りはここら辺にしておいて物語の感想を。
この物語は主人公の森本が高校2年生の夏休みを通して変わっていく物語、しかも決定的にモノの見かたが変わってしまう物語だ。
読者はその過程を森本自身の語りを通じてたどることになる。
地方都市で起こった謎の事件をめぐる高校生たちのひと夏の冒険譚。
それがこの本の帯文にあるあらすじだが、本当にそうだろうか。
目に見えている問題だけが本当に大事なのだろうか。このことを読者は読書体験を通じて考えていくことになる。

コツは1つ。虫の眼で世界を見ることだ

カバパン

繰り返されるこのテーゼを後半に行くに従って真剣に考えざるを得なくなる。想像力を使って現実と虚構を捉え直す。それが僕たちには必要なのではないだろうか。これは虚構へのラブレターであり現実への挑戦状なのかもしれない。
この真実はあなたの眼で実際に本を読んでたしかめて欲しい。


noteに白文字が実装されてないので隠すことができない。

本編未読の人はここから先は読み進まないで欲しい。

noteさん、白文字か折り畳み機能のを早く実装して欲しいです。お願いします。





以下ネタバ全開感想

ここからはネタバレ前回でいかせてもらう。
大丈夫。パスワードはもう唱えてある。

「変身」

このセリフあと私の中では自動的に「説明しよう」のナレーションが挿入され、頭の中で「レッツゴー!! ライダーキック」が流れ出し、変身シーンの説明が読み上げられるのであった。
何故か戦闘シーンでは頭の中でティガの「TAKE ME HIGHER」が流れてきました。

「仮面ライダー」だ。
「ガンビット」だ。「ドラグーンシステム」だ。
「ウルトラマン」だ。「神殺し」だ。

終盤3章(16~18章)は変身以降もう怒涛の展開だった。
よくある高校生のひと夏の冒険と成長の物語かと思いきや虚構が現実に殴り込みをかけてくる。
虫の眼を通して想像力を働かせて観ることで見えないものが見えてくる。
今まで日常=現実だったものが虚構になり、非日常=虚構だったものが現実になる。そんな「変身」の体験をこの本・物語りは味わわせてくれる。

思えば虚構が現実に敗北して久しい。SNSでは作品自体の評価を語ることよりもその作品に関する現実に絡めた言説が圧倒的に有利な状況が続いている。
しかし、現実だけでは到達できない地点があるのではないか。虚構によってしか見えない、感じられない世界だってあるのではないか。
そんな大切な気持ちを思い起こさせてくれる物語だと思った。
虚構と現実。
どちらが日常ー非日常だっていいじゃないか。
大事なのは想像力を働かせて変身することなのだから。

自分のお気に入りのキャラはヒデさん。ちょっと宇野さんっぽくないから。

ひとつ疑問点

ファミレスにいた中年男性2人は、宇野さんとよく宇野さんのランニング仲間としてよく話に登場するT氏なのだろうか。
はたまた年を取った本郷猛一文字隼人だったのだろうか。

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