コロナで加速するサプライチェーン革命
2020年5月14日、39の県で緊急事態宣言が解除されることが正式に発表され、古今東西、数多に議論されているWith/Post新型コロナウイルス(以降、コロナ)の世界が本格的に始まりました。半強制的な巣ごもり(外出制限・自粛)やリモートワークなどの経験を経て、人々は生活スタイルを変革させる分水嶺に立っております。今後、リモートワークの定常化(オフィスの在り方の再定義)やEC化率の加速、バーチャル空間の躍進、オンライン診療の普及など、様々な変化が起きることが予想されています。個人的には、物流に関わる作業の自動化やサプライチェーンのシームレス化・最適化が加速していくのではないかと考え、注目しています。本noteでは、この領域に注目している背景について関単に述べていきます。
今の生活は一部の人々の頑張りで成立=サステイナブルな状況ではない
4月7日の緊急事態宣言発令に伴い、多くの小売店や飲食店、サービス業が営業停止をやむなくされました。一方で、物流関連業務は重要なインフラ事業に指定され継続されており、現場の人々は、コロナに感染するリスクに晒され続けています。またEC利用の増加で配送需要が増加(例. ヤマト運輸の4月の宅配便の取扱個数は前年比+13.2%の約1億5,600万個となり、3年7ヵ月ぶりの高い伸び率)している影響で、元々人手不足であった物流への負荷が増加しているなど、課題が山積している状況です(図1)。「物流網は止められないから、経済的な耐性は強い。特需で追い風だ」と捉えることも可能ですが、現場での感染拡大や将来コロナ以上に危険なウイルスのパンデミック発生の可能性、過度な現場負荷に鑑みると、現状の物流体制はギリギリであり、サステイナブルではないと考えます。
図1 新型コロナウイルス感染拡大による物流面の課題
従来のBCP対策ではパンデミックは克服できない
物流業界は、過去の災害経験を経て当然リスク対策(BCP※1策定)を進めてきました。2011年の東日本大震災におけるサプライチェーンの寸断を経て、日本物流団体連合会(物流連)や全日本トラック協会、日本倉庫協会はそれぞれBCP策定のガイドラインを作成。更に国土交通省は、サプライチェーンを維持するためには荷主や物流事業者単独の取り組みだけでなく、互いに連携して対策を立てる必要があるとして、2015年3月に「荷主と物流事業者が連携したBCP策定のためのガイドライン」を作成し、業界でのBCP対策を推進してきました。但し、本ガイドラインは主に大規模地震災害を想定して作成されており、それ故かコロナに対応できていたのは30%程度に留まっています(図2)。
では、サプライチェーンの供給元であるメーカーはどうでしょうか。トヨタ自動車は、東日本大震災で一部部品の調達が困難になり、工場の稼働停止を余儀なくされました。その後、リスク分散体制を整備したり、調達先の部品生産の状況をほぼリアルタイムで把握できる「RESCUEシステム※」を構築したりすることで、有事の際に、サプライチェーンを迅速に変更できるようにしてきました。それでも「感染がグローバルに拡大し、代替生産の場所の確保ができないのは初めて。供給網の寸断で混乱した」(調達担当の白柳正義執行役員)とあるように、完全には対応しきれていません。
今回のようなパンデミックはテールリスクではあるものの、足元のコロナがいつ収束するかは不確実であり、また100年レンジで事業継続を考えるのであれば、今後、BCP対策が進められる蓋然性は高く、実際に今後検討予定の企業が多い(図2)。
※1 BCP:Business Continuity Plan(事業継続計画)
※2 RESCUE:REinforce Supply Chain Under Emergency
図2 BCP対策における感染症拡大等への対策の策定状況
自動化とサプライチェーンのシームレス化・最適化でヒトがリアルで関与しなくてよい仕組みづくりが大事
では、どのような対策をとっていくべきでしょうか?結論、ヒトがリアルで関与しなくても止まらない仕組みを構築することが大事であり、以下3つがカギになると考えています(図3)。
①サプライチェーン(SC)上でのヒトによるリアルでの介在をなくす
(自動化・オンライン化)
②SC上のプレイヤー間でのリアルタイム情報共有
③SCの最適化システムの構築
これは①が「ヒトの防疫」「必要人員の確保」「デジタル対応」「必要な人員の確保」、②が「必要な人員/車両の確保」「SC間での情報やり取り」、③が「必要な人員/車両の確保」と、コロナ禍における物流現場の課題解決に繋がる、即ちパンデミックでもサステイナブルな物流体制に繋がると考えているためです。
図3 コロナ禍での物流課題とその解決案
この3つのカギは、Logistics4.0やIndustry4.0(ドイツ政府が2011年から推進)で提唱されてきた要素であり、従来は”付加価値向上”や”省人化による生産性向上”などを目的に推進されてきました。Postコロナでは、BCP対策の視点も加わり、このトレンドが加速するのではないかと考えています。
目線は揃った、後はやるのみ
コロナ禍は、経営者層のリスクに対する危機感およびサプライチェーン改革への意識を高めるきっかけであり、変革を推し進めるチャンスでもあります(脱ハンコの流れは良い例)。上記3つのカギを実現させるには、単純にロボットの導入やシステムのアップデートを実行すればよいわけではなく、組織を跨いだ業務プロセスの変更(=経営陣の高いコミットメント)やサプライチェーン上の前後のプレイヤーの巻き込みなどが必須で、容易ではありません。一方、社会的意義・インパクトが大きい領域でもあります。
STRIVEは、自動化やサプライチェーンのシームレス化・最適化に挑戦する起業家さまを積極的にサポートしていきたい所存です。チャレンジする起業家さまからのご連絡お待ちしています!
参考リンク
日経新聞「従業員 業種越えシェア」
TBSニュース「ヤマト運輸、4月の宅急便取り扱い個数が急増」
国土交通省「荷主と物流事業者が連携したBCP策定促進」
日本通運「BCP策定ガイドライン(荷主と物流事業者との連携)」
日経新聞「トヨタ、世界販売15%減 「リーマン上回る打撃」」
日経ビジネス「熊本地震で全国のトヨタの工場が止まる理由」
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