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カナダの現地教師が見た『教育困難校』と『教育優良校』の違い

こんにちは。カナダの高校で現役数学教師をしている梅木卓也です。今日はカナダのバンクーバー学区で過去5年間働いた中で見えてきた学校ごとの「地域差」についてお話ししたいと思います。

ご存じの方もいるかもしれませんがカナダには受験というものが基本的にありません。小学校はK-7でキンダー(幼稚園)から始まりグレード7まであり、そのあとにいわゆる高校(セカンダリー)がグレード8(中二相当)からグレード12(高三相当)まで続きます。

小学校も高校も基本的にその地域に住んでいる生徒が入学してきます。なので一般的に学校による格差ができにくいのではないかと言われることもあります。とはいえ同じ学区内でも、富裕層の住んでいる地域と貧困層の住んでいる地域は分かれるわけで、それによって学校にも「地域差」ができてしまいます。

バンクーバー学区内でいうと東に行けば行くほど貧困層で、西に行けば行くほど富裕層という傾向があります。たまたま僕の経験の中でまさに東の端と西の端の高校で勤務してきたので、その極端すぎる違いについてここで書ける範囲でまとめてみたいと思います。

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違いその①ハブ化する学校

貧困層の地域にはその歴史的背景からもさまざまなサポートが受けられるいわゆるコミュニティースクールがよく見られます。一般的な高校との違いは、朝食や昼食を無料で提供するプログラムがあったり、難民者支援や先住民の生徒へのサポートをするユースワーカーやソーシャルワーカーなどが常駐しているケースが多いということです。

カナダは教育の管轄が州ごとで、バンクーバーのあるBC州では生徒一人当たりに対して学校ごとに政府のお金がおります。それに加えて障害を持っている生徒一人一人にも学校ごとにお金がおり、先住民の生徒に対しても州ではなく国からお金がおります。

ここで問題なのは噂が人を呼ぶということ。特に僕が以前働いた学校では、移民の人に対して手厚いサポートを得られるからとか、先住民の生徒へのサポートが手厚いからと、他に行ける学校があるにも関わらずあえてある学校に同じ背景を持った生徒が集まるという現象が起こっていました。

州政府の教育への予算は基本的に生徒一人一人に対して与えられています。これには生徒の背景などは考慮されていません。つまり政府から同じ額のお金しかおりていないのに、全く教育を受けずに最近カナダに移民した難民の生徒や親がアルコールや薬物の問題を抱えた生徒などがより高い確率で集まる学校(ハブ化した学校)が現にできてしまっているということです。

詳しくは書けませんがそんな生徒しかいない学校を想像してください。一人や二人の常駐のユースワーカーやソーシャルワーカーがいるからと言って質の高い教育を保てると思いますか?

より多様な背景を持った生徒があつまる場所にはそれ相応のサポートが必要です。ですが現時点では生徒はどんどん集まるものの一定のサポートしかできないという悪循環が起こっています。

違いその②家庭環境

こんな背景を持った生徒が集まる貧困層の学校と富裕層の学校の1番の違いはその家庭環境にあると思います。

バンクーバー市のあるBC州ではMyEdという生徒の出席管理や成績管理を一括で行うサイトがあります。1週間に3日以上生徒が休むと、通例として教師は親御さんや保護者(ガーディアン)に連絡することが決まっています。そこでMyEdを使って保護者のメールアドレスを探す中で、圧倒的な違いに気づいてしまいました。それはひとり親の多さ。

貧困層の学校は圧倒的にひとり親が多く、多くの場合、メールアドレスはあっても電話の連絡先がないもしくは載っていても繋がらないことが多々でした。また連絡として「今週お子さんは3日以上学校を休まれました。」という通例のメールにさえ、生活や精神的な余裕のなさからか長文のお怒りメールをよくいただきました。

それも一人や二人ではありません。結構な確率で意味不明なお怒りメールをいただきました。よく言われたのは「私も私の子供もあなたのような権力者・教育者によって人生を台無しにされた」みたいな。あくまで誤解を避けるために言っておきますが、ひとり親がどうこうということではなく、家庭環境が安定してない生徒がかなりの割合でいたということです。

違いその③学習への姿勢

このような状況なので、容易に想像がつくと思いますが、学習は二の次三の次になっている学校が貧困層の学校では多かったです。学校はいわゆる生徒にとって唯一安定した安心できる場所。学校に来ることが目的であってそこで学ぶ余裕などはない生徒も多々いました。

反対に富裕層の多い学校ではカナダやアメリカの有名大学に行くことを目的に学校に来ている生徒が多数で、大学の入学に必要だからということもあってたくさんの課外活動を率先してしたり、学業への真剣さも違います。そもそも家庭環境がかなり安定している生徒ばかりなので、貧困層の生徒のように衣食住に困っている生徒は見当たりません。

学びへの姿勢が違うことや、家庭環境の違い、なぜか難しい背景を持った生徒のハブ化が起こることで、クラスごとの学力のばらつきは比ではありませんでした。

冒頭にも話したように受験はないので、生徒は選別されていません。なのでどの学校で働いても学力のばらつきはある程度あります。ですが富裕層の学校ではいわゆるサポートの必要な生徒はいてもクラスに一人か二人。学力で言うと2、3学年下の理解をしているくらい。

貧困層の学校では、英語が話せないことはもとより、今まで全く学校教育を受けてこなかった難民の生徒や、カナダの歴史的背景(レジデンシャルスクールなど)から学校教育自体にトラウマを抱えてしまっている保護者を持った生徒などがいました。そのような保護者のもとで育つと当然公教育は重要視されません。このように幅広い学習の機会を得られなかった生徒が大半のクラスもありました。

違いその④疲れ切ったスタッフ

今まで話したことをベースに貧困層の学校のクラス内で起こることをあげると、学習意欲の低さ、欠席率、遅刻率の高さ、テストを受けられなかったり、課題を出せなかったりする生徒の多さなど。

衣食住が安定していないので、集中できない生徒の多さ、学校に来ることが目的なので授業はできるだけ参加したくない生徒などなど問題行動はやまほどありました。そのたびに保護者に連絡する義務は教師として発生しますが、連絡してもつながらない。つながってもなぜか怒られる。かなりひどいことを言われる。

こんなことを日常的にやっていると当然疲れてきます。なのでこのような学校ではいわゆる頑張るスタッフはバーンアウト(燃え尽き症候群)になります。程よい距離で、生徒に対する期待値を下げて、最低限しか言わない、しないスタッフがうまくやっている印象でした。

誤解がないように補足すると、カナダでは理不尽な保護者との対応はメールなどでワンターンくらいで終わらせることができます。丁寧な対応の後も連絡してくるような保護者は管理職に丸投げできます。それが管理職の役割なので。

違いその⑤あえてしがみつきたい

総括すると、生徒、保護者、管理職、先生、スタッフ全体として余裕がないのです。みんながピリピリしているので、少しのことで喧嘩などがよく起こります。そして余裕がないので、新しいことに挑戦するとかリスクのあることに挑戦するということを好まない傾向がありました。

逆に富裕層の学校では、学校の成績が大学入学にかなり影響してくるので、少しでも高い成績をキープするのに生徒は躍起になります。なのでこのような学校でも試行錯誤したり、失敗したりする経験をあえて嫌う傾向があります。

どちらの学校であっても、学びに対する姿勢は基本受け身で、自分で考えるということをしないで義務教育を受けている生徒の多さを特に数学の授業では感じます。唯一の違いは基礎学力。貧困層の学校では理解の幅が圧倒的に広すぎました。スタートラインが違いすぎるので、同じ先生のもとで同じコースをとったとしても、学校によって進度も深度も違ってしまう現状があるようです。

まとめ

過去二年間はいわゆる富裕層の多い学校で働いています。クラス内の問題行動はほぼなく、欠席も遅刻もほぼありません。保護者に連絡しても怒られることもなければ、変なクレームを入れてくる保護者でさえ声を荒げるようなことはなく適切な態度で対応してくれます。

今思うと貧困層の学校では毎日が火消ししなくてはいけない問題であふれていました。教えるという仕事以外の仕事が多すぎました。同じ給料でこの違いを受け入れられる人はなかなかいないと思います。不公正さ(inequity)がここまでひどいとは学校現場で働くまではわかりませんでした。

多くの先生が思うように、一人でも多くの生徒のサポートをしたいと思って教師になりましたが、貧困層の学校ではつくづく自分一人だけの力の限界を身をもって実感しました。リソース、財源が圧倒的に足りないのです。そして財源モデルがいまだに生徒ベースで、生徒の背景を完全に無視したものなのです。

それでも生徒が主体的に学ぶことでこの不公正さは少しでも埋まると今でも信じていますし、そのような授業実践によって目を輝かせていた生徒もいました。なかには「梅木先生の授業で学校生活で初めて数学を学ぶとは何かがわかった」と言ってくれたこともありました。不公正さをいかに埋めていくのか。これは日本とカナダ双方の生徒を見ていて、僕自身の一生の課題になると思っています。

最後まで読んでいただいてありがとうございます。かなり教師視点でつらつらと書きましたが、カナダの学校現場の現状が少しでも伝わればよかったと思います。



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