日本での、TMBに基づく癌ゲノム医療での問題点と展望

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現在、PD-L1発現以外にもさまざまな臨床的要素が、免疫チェックポイント阻害の有効性の予測因子として検討されている。腫瘍遺伝子変異量(TMB)は、がん細胞のゲノムに生じた遺伝子変異のおおよその量である。もともと、ヒトを含む哺乳動物の細胞において、遺伝子変異を取り除く「遺伝子修復システム」が備わっている。しかし、多くのTMBが認められる細胞は、この修復システムに異常を有しており、癌細胞へと形質転換しやすいと考えられている (1,2)。さらに、多くのTMBが認められる癌細胞では、自己免疫システムによって異物と認識される多くの変異タンパク質が産生されていると考えられている (3)。そこで、TMBは、免疫チェックポイント阻害薬の独立した予測バイオマーカーとして確立している。腫瘍遺伝子変異量高値(TMB-High)の症例では、免疫チェックポイント阻害薬よる高い効果が認められている(4,5)。

2020年6月17日、米国食品医薬品局(FDA)によって、腫瘍遺伝子変異量の高値(TMB-High)の切除不能または転移性の固形がんに対するペムブロリズマブ(製品名:キイトルーダ)単独療法が承認された。さらに、2020年6月26日、FDAによって、ペムブロリズマブのコンパニオン診断薬としてFoundation One CDx(Foundation Medicine, Inc.)が承認された。

日本の厚生労働省は、保険収載されている癌ゲノム検査であるNCC OncopanelとFundation One CDxによる癌ゲノム検査の結果より、TMB-High(10以上がカットオフ値)が認められた症例に対してNivolumab, Atezolizumab, Pembrolizumabなどの免疫チェックポイント阻害剤を推奨している。

日本において、2020年での国立大学病院で、癌ゲノム検査による診療576症例(NCC Oncopanelによる検査129症例、Fundation One CDxによる検査447症例)が行われた。NCC Oncopanelによる129症例中6症例が、TMB-Highと診断された。しかし、癌ゲノム検査の結果に対する精査により、検体の不純物の混入によって、3症例は誤ってTMB-Highと診断されたことが明らかとされた。Fundation One CDxによる447症例中19症例が、TMB-Highと診断された。4症例のみがTMB-High20以上と診断された。

日本の厚生労働省は、今後の課題として、以下の点を表記した。

1.TMBにおいて、10/MBがカットオフ値とされている。しかし、この10/MBがTMB-Highと判断するカットオフ値として適正であるか?
2.検体の品質管理の問題点として、長期間、検体が保管されることで、DNAの断片化が懸念される。検体採取部位についての問題点として、放射線照射の治療によるDNAの断片化が懸念される。

MSI-highを有する多くの進行難治性がん患者に対して、免疫療法による治療を受ける選択肢が与えられる。これまでの癌ゲノム検査・医療において認められた問題点が改善されることが重要である。今後、より安価になり、組織採取や病理学的組織などの必要性がより少なくなれば、癌ゲノム検査が多くのがん患者にとってより利用しやすくなる。

References
1. Chalmers, Z.R. et al.: Analysis of 100,000 human cancer genomes reveals the landscape of tumor mutational burden. Genome Med. 9(1): 34, 2017.
2. Campbell, B.B. et al.: Comprehensive Analysis of Hypermutation in Human Cancer. Cell. 171(5): 1042-1056, 2017.
3. Galuppini, F. et al.: Tumor mutation burden: from comprehensive mutational screening to the clinic. Cancer Cell Int. 19: 209, 2019.
4. Rizvi H et al., Molecular determinants of response to anti-programmed cell death (PD)-1 and anti-programmed death-ligand 1 (PD-L1) blockade in patients with non-small-cell lung cancer profiled with targeted next-generation sequencing. J Clin Oncol 2018; 36(7): 633-641                                5. Hellmann M et al., Nivolumab plus ipilimumab in lung cancer with a high tumor mutational burden. N Engl J Med 2018; 378(22): 2093-2104

がん治療専門ドクター/癌ゲノム医療/新興感染症           JAMA Oncology Published on December 18 2020 by 京都@Takuma H


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