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『楽園考古学 ポリネシアを掘る』

前にポリネシアの文化や歴史について書かれた本を読んだ時に「タテオ・シノト」という言葉を知った。名前なので、言葉と言ったら失礼かもしれないが、彼の名前はもうある種ただの名前を超えて固有名詞になってしまっているのではないかと思う。しかも、それは日本だけではなく、世界の。個人的にはそれくらいインパクトのある言葉であり、人物である。

「タテオ・シノト」というのは、ドクター篠遠という意味だそうだ。タテオという名前ではない。本名は篠遠喜彦という名前である。「わたしはね、小さいとき、スウェーデンの有名な探検家スウェン・ヘディンの本を読んで、白いヘルメットをかぶった学者の姿に魅せられたのです」と語る篠遠先生。まるで漫画の主人公だ。この本にも書かれているが、映画『インディ・ジョーンズ』を彷彿させるような学者であり、冒険家である。そんな日本人がいたなんてことにも驚きであるが、その人生、冒険もまた驚きである。よくあるサクセスストーリーでしょ? と言われたら、そうかもしれないが、でも、サクセスストーリーである所以というのをもう少し見てみる必要があるのではないだろうか。決して、大金持ちの成功者になったわけでもなく、ただただ自分の興味、関心を深く深く掘っていったら、そこには遺跡があり、宝物があったのだ。その宝物は金銀財宝ではなく、人生の中での大切な宝物。それは、きっと多くの大人たちが忘れてしまったハートのようなもの。そんなものを見つけてしまったような人である。

僕は考古学のことについては全く素人で、こういう本を読むことも少ない。でも、なぜか惹かれてしまう。先に例えで出した『インディ・ジョーンズ』に惹かれてしまうように、この本にも惹かれてしまったのだ。確かに、ちょうど僕はハワイ島へ行ったことをきっかけにポリネシアという言葉を知り、興味を持った。そして、関連する本を読んでいるうちに、たまたま「タテオ・シノト」という言葉を知り、彼の本を読むことになってしまった。まるで導かれるように。冒険というのものはいつもそういうものなのかもしれない。出会いというものはいつもそういうものなのかもしれない。そんな気がする。

そして、この『楽園考古学 ポリネシアを掘る』という本は、専門的な学術書ではなく、荒俣宏氏との対談のような形で書かれており、考古学を知らない人にもとても読みやすい本となっている。読みやすければ良いとは思わないけれども、でも、この本は面白い。何が面白いのか。やっぱり篠遠先生の冒険談だ。平坦な語り口の先生から出てくる驚きの体験の数々。そんな時代に、そんなことを、と、まさにロマンだ、と言いたくなるような物語。

きっと言葉では表すことができないことはたくさんあったのであろうが、それでも、その冒険のかけらだけでも、僕たちをとてもワクワクさせてくれる何かがある。そういうかけらを僕たちは拾って、そこからまた探索を始めるのだ。研究を始めるのだ。そして、冒険の旅に出るのだ。

日本人でそういう人がいたというのはとても面白いことだと思う。ポリネシアのルーツと日本人のルーツとの関わり。この本では深くは書かれてはいないけれども、でも、やっぱり気になるところである。そして、それを確かめるためには、やっぱりそこに足を運んでみるのが一番。そう感じさせてくれるのもまたありがたい。このインターネット時代においても、いや、こういう時代だからこそ、やっぱり自分の足で訪れるのがいい。そして、掘る(探索する)のがいい。そうすることでしか感じられないことが必ずある。それを篠遠先生は教えてくれる。

篠遠先生の後には何も残らないと言われていたようであるが、発掘物は何も残らなかったとしても、彼の後ろ姿を見た多くの若者たちが、彼の後を歩き始めるのではないだろうか。そして、また新しい発見をすることだろう。

さて、楽園はどこにあるのか? 本当に楽園なんてものはあるだろうか? それを確かめるためにも、僕たちは楽園を探しに、旅に出かけなければならないのである。そして、それこそが、きっと冒険というものなのだ。

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