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縄文というOSプログラミングするには?

『新版 縄文聖地巡礼』坂本龍一、中沢新一

僕たちが住む日本には、縄文というものが身近にある。日本中どこへ行ってもその痕跡を見つけることができるのではないだろうか。でも、遠い昔の出来事で、そんなことは現代に何の関係があるのだろうか? と思うかもしれない。

僕も以前はどっぷりと現代の資本主義、近代の思想に飲み込まれていて、極端に言えば、過去=古いもの、今のものよりも劣るもの、くらいに考えていた時期もあった。どうしてそういう思考になってしまったのか? と考えると、現代の消費主義、どんどん新しいものに買い替えて行くことが善というような、そんなものにいつの間にか染まってしまっていたからではないかと思う。

でも、そんな思想も限界に近づいている。一般市民である僕が感じるくらいだから、多くの人たちがその限界を感じているのではないだろうか。それはもう新しいものを買ったら幸せになれる、なんてことが幻想であることが体感されてしまっているからではないだろうか。まだそれに幸せを感じている人はある種の中毒症状を起こしているし、自分からそれにわざと手を出していると言っても過言ではない。それ以外に幸せを喚起してくれるものがないのであれば、それに浸かるしか道はないのだから。

しかし、そんなことはないし、人類の歴史を見ても、そんな時代はたかが数百年の歴史であり、それこそ、日本では、戦後のまだ100年に満たない、ほんのわずかな期間のことでしかないのだ。でも、その時代を生きている、寿命が100年にも満たない僕たちは、その狭い視野で生きようとする。ある意味で、自分の人生がそれしかないとわかってしまうからこそ、その人生を猛ダッシュで駆け抜けようとするが、それをするには人生は長く、1日は長く、大体の人は途中で息切れしてしまう。では、どうすればいいのだろうか。

それを考えるためにも、どうしてそうなったのか? ということを考えることが一つの解決策ではないだろうか。坂本龍一氏も中沢新一氏も過去を探究することによって、未来への道筋を見つけ出そうとしている。そんなものは見つからない、過去なんて振り返っても仕方がないと思う人もいるだろうが、でも、僕たちホモサピエンス・サピエンスが現れてから、残念ながら僕たちは全くもって進化してはいないのだ。

スマホがあって、インターネットがあって、そして、人工知能を作り上げて、僕たちは何だか石器時代の人たちと比べてとても進化しているような気になっているが、人間が手にするものが変わっているだけで、人間自身はほとんど進化していないのである。これはどういうことだろうか。この事実を受け入れることができれば、過去を振り返ること、その原因を調べることは無意味ではないということに気がつけるのではないだろうか。現代の進化思考から一旦離れてみると、人間は昔から何も変わっていないという当たり前のことに気がつくことができるのである。

じゃあ、その現代の行き詰まりは何なのだろうか。どうして、我々はこういう道を歩んできたのだろうか。この本にすべての答えがあるわけではない。でも、我々が探究すべき方向性は見出すことができるのではないだろうか。

坂本氏のこの言葉が印象的であった。

坂本 ぼくがいま20歳くらいでプログラミングができたら、縄文というOSをつくりたいですね。縄文ぽいと感じる音楽をやったりというのはいわばアプリケーションやファイルであって、それよりも僕らの思考法を決定しているOSを変更しないといけないと感じます。縄文という、多層的で、多様性に富んだ新しいOSを。

そう。僕たちが必要としているのは、新しいアプリケーションではなく、新しいOSなのだろう。それを今みんな一生懸命に探しているのではないだろうか。アプリをどんどん開発しても、どうにもならない。ならば新しいOSを開発しなければならない。

それは簡単にできるものではないだろうが、追求する価値はあるのではないだろうか。そして、現在のOSをつくったのが我々であるならば、新しいOSをつくることも可能なのではないだろうか。

僕もそういったOSを開発する一人になりたいと思う。そのためにも、僕自身も自分の目で、足で縄文というものを感じる必要があるのではないだろうか。まさにアースダイバーだ。

坂本龍一氏は亡くなられてしまって、彼が今後そのOSをプログラミングすることはない。でも、彼の音楽を聞いた人の中にきっと、その芽がたくさん出てきているのではないだろうか。

中沢新一氏の思想を音楽の観点から深掘りする本を読んだことはなかったので、その点でもこの本はとても面白いものだった。坂本龍一氏が生きていれば、今後さらに面白い音楽が生まれたかもしれないと思う反面、きっと必ずや彼が思い描いた音楽を生み出す人が現れてくる日を楽しみにしたいと思う。

今年も色々な場所へと行かなければならなくなった。巡礼なんてあまり興味がなかったけど、まさに人生は巡礼みたいなものなのかもしれない。

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