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「次世代を育てる」というもう一つの大仕事

リーダーがこなさなければならない仕事は、受け持つ国や組織を豊かにすることと、次世代を育てること。
それに気づかされた歴史の教訓があるのでいくつか紹介する。

リーダーシップの歴史は、多くの教訓を私たちに教えてくれる。これは国や企業などの大きな組織のリーダーを目指す者にはもちろん、それ以外の者全員にとっても大切な教えだ。

次世代を育てることの重要性は、過去の多くの事例から明らかにされている。国の総裁や企業の経営者などのリーダーは、自分の手腕によって国や組織を豊かにすることが大事な仕事なのはいうまでもない。しかし、それと同じくらい重要なのが、自分がリーダーを退いた後も国や組織の統治が上手く行われるよう、部下や後継者を育成し、ガバナンスを整えることだ。

それをよく表す歴史がある。紀元前720年ごろから急速に国力を伸ばしていった、アッシリアと呼ばれる国の成り立ちだ。

アッシリアは現在でいうイラクのあたりから建国された国だが、君主の采配で当時から存在した周辺の王国を次々と戦争で倒し、領土を広げていた。

なかでも紀元前668年から627年までアッシリア王国の君主だったアッシュールバニパルという男は、その優れたリーダーシップの発揮した人物として名が残っている。
彼は、二度にわたるエジプト遠征を成功させ、アッシリアの領土をメソポタミアからエジプトまで広げた。これによってアッシリアは、世界史上初となる、帝国を築き上げるに至ったのだ。

しかし、彼がリーダーとして優れていたのは統治能力だけでない。彼は生前の間、首都に大図書館を設立し、帝国全土から文献を集め保管することで、後世に役立つ様々な知識を集積したことでも知られている。これには単に自分の統治能力を発揮するだけでなく、後世に継続する統治の基盤を築くことも狙っていたと思われる。この先を見据えた慧眼さが現代のリーダーシップにも通じる教訓であろう。

しかし、アッシュールバニパルが亡くなると、アッシリアの統治は急速に乱れはじめ、最終的にはカルデアとメディアの連合軍によって滅ぼされることになる。

滅亡に至った大きな要因は、国が広い領土を持ったことで、名君の手腕によって広大な領土が統治できているうちはいいが、名君が亡くなった途端、統治が一気に崩れたこと。そして、名君が亡くなっても国が安定して統治できるようガバナンスの整備をしていなかったことだ。

この歴史から学ぶべきは、優秀なリーダーが国を統治することは重要で、それと同じくらい、ガバナンスを整え、部下や後継者を育成することも重要であるということ。リーダーは、自分の死後も国が安定して統治されるよう、後継者の選任や教育、ガバナンスの整備に努めなければならないのだ。

この「名君が亡くなるとたちまち国は滅びる」というのは実は歴史ではあるあるで、例えば古代中国の秦王朝の始皇帝の統治でも同じことが起きている。

始皇帝は中国史のみならず世界史上に残るワーカホリックとして知られている。
郡県制を敷いて中央集権国家を構築したり、度量衡を統一して単位の基準を作り土木工事に活かしたりなど、現代の国家にも通じる仕組みを整えている。

しかし、彼が亡くなると、重度の公共事業や焚書坑儒に悩まされていた国民はたちまち反乱を起こし、最終的には秦王朝は崩壊。その後、新たに建国された漢が、始皇帝の気づいた仕組みを利用して長期国家として繁栄していくだ。

これは、リーダーが生きているうちは国が安定していても、リーダーシップを引き継ぐ者がいなければ、容易に崩壊するという歴史の教訓をまさに示している。やはり次世代の教育とガバナンスが安定した組織の肝なのだ。
なんとも責任重大でめんどくさいことこの上ない。だがそれが組織長生きの秘訣なのである。

ここまで見て分かる通り、リーダー個人の統治能力と、部下や後継者を育てる能力は、必ずしもイコールではない。
リーダーがどれだけ優れた統治能力を持っていても、次世代を育てる能力が低ければ、その組織や国は長続きしない可能性が非常に高いだ。

そのため、リーダー個人の教育能力が低い場合は、教育が得意な人材を登用し、部下や後継者の育成を任せることが肝要。また、教育者が賄賂などで部下や後継者の考えを歪ませないように注意し、教育内容を文書でまとめさせるなどして、リーダーが目指す人間像をしっかりと育成することが重要と言える。

リーダーを目指す者も、そうでない者も、人と協力して仕事や活動をしていれば、自分が大きな役割を任され、人を育成しないといけない瞬間がどこかで来る。
そのとき求められるのは、自分の統治能力を発揮するだけでなく、次世代を育てる力。もし自分になくても、それが得意な人間に任せればいい。任せる人間を誰にするかも含めて手腕だ。「背中を見て学べ」というだけでは、相手に届かないのである。

ではまとめ。
後世に続く強固な組織や国を築くには、自分が退いた後でも上手く統治できるように、部下や後継者を教育し、ガバナンスを整えることが不可欠。これが、真のリーダーシップの証であり、永続する組織の礎となる。

何かの参考になれば幸いです。


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