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「甘いもの好き」と「低カロリー甘味料」との向き合い方

ここ最近、「人が甘いものを好むのはなぜか?」という疑問を少しでも解消したくて、研究論文を元に色々と調べてきた。

詳しくは記事をぜひ見てほしいが、結論から言うと、

  • 子供や青年などの若い人が甘いものを特に好むのは、生物学上そのように進化した結果なので、本能的なものであること。

  • 若い人に限らず人が甘いものを求める要因は、疾病・年齢・食生活・遺伝など様々あるので、肥満をはじめとする慢性疾患に対処するには「糖質制限」や「無添加食品」だけで解決できるものではない。

この2点が主張させてもらった。

今回はその締めくくりの意味も込めて、以前の記事でも触れていた「低糖質」に焦点を当て、それとヒトが生まれつき持つ「甘いもの好き」でどう折り合いをつけてたらいいのか?という疑問を少しでも解決していけたらと思う。

日本でも「低糖質スイーツ」や「無添加のオーガニック食品」は様々なところで目にする。糖質の摂り過ぎによる肥満などの慢性疾患に対応するためも試みだが最近のニュースで「イベントで販売されていた無添加のマフィンを食べたお客が食中毒になった」という報道もあった。
このニュースから分かる通り、「低糖質」や「無添加」食品は突き詰めすぎると逆に悪影響を与える。

なので、低糖質食品と私たちは今後どう向き合っいくか。甘いもの好きの本能とどう向き合っていくか。その手がかかりになる情報を少しでも皆さんと共有したいと思う。

今回も参考にした文献は『甘味と食べ物の好み』と題した論文で、2012年にワシントン大学など計4つの研究機関に属する研究者が共同で執筆したものである。

この論文は、人間に甘いものに対する嗜好の理由やその影響、および低糖質食品などに含まれる「低カロリー甘味料」が体に与える影響について、過去に研究された文献を集めて様々な主張をまとめたものである。

甘いものの良いとこ・悪いとこ、低カロリー甘味料の良いとこ・悪いとこがそれぞれまとめられて述べられているので、白黒はっきりしない曖昧な文献ではあるが、逆に言うと、甘いものを食べ続けることに関する中立的な意見を一挙にまとめてくれているという貴重な文献でもある。

というのも、甘いものを食べ続けることに対する良い悪いを判断するための疑問が、科学ではいまだ解明できていない。後に説明していくが、甘いものには人間の栄養補給やメンタルの快調というメリットもあるし、摂りすぎによる肥満などのデメリットもある。そしてどちらも、個人の意識の問題だけでは片付けられない要因が複雑に絡み合っているのだ。「低カロリー甘味料」についてもそれは同じである。

「なら一体何を読み取ったらいいのか?」というと、やはり、現状の科学的な視点から分かっていることをざっくりと知ること。それをするだけでも、甘いものとの向き合い方に何かしらヒントが得られるだろう。

ということで、今回の論文の主張を一つずつ見ていこう。
全体をざっと読み通してみて、私なりに以下の主張でまとめられていると思ったので、箇条書きしてみる。

  • ヒトの「甘いもの好き」は生まれつき

  • 甘いものを摂ることのメリット

  • 低カロリー甘味料の影響

  • 甘いもの好きとの向き合い方に関するヒント

  • 今後必要な議論

ヒトの「甘いもの好き」は生まれつき

まず、ヒトの「甘いもの好き」は生まれつきのものという主張だが、これは以前の記事で紹介したことと同じことが述べられている。

人は進化の過程で、甘味が栄養(糖分・ミネラル・ビタミンなど)を補給する役割を担ってきたため、生まれたその時から甘いものが好きなのである。そしてそれは、特に栄養が多く必要な乳幼児に顕著に表れ、成人より甘い食べ物を選ぶことが多い。

また、「栄養が摂れる」以外に「母乳の風味にも影響される」ようだ。

子供は胎内で栄養をもらっている頃から、母親が摂った食事に含まれる風味に影響される。そして、生まれた後に摂る母乳に含まれる甘い風味を早い時期から経験する。
生まれたばかりの乳児が摂れる数少ない栄養源が母乳なので、乳児は母乳の甘い味を知覚して、本能的に「甘い味のする食べ物は安全で栄養が摂れるんだ」と認識する。だから幼い子供は、栄養を摂取しようとより甘い食べ物を好み、欲するようになるのだ。
これは、年齢・人種・文化にほぼ関係なく発現することが分かっているので、生まれつきであると同時に、普遍的と言える。

甘いものを摂るメリット

甘いものを摂ることには栄養以外にもいくつかメリットがあることも明らかにされている。大きく分けると、「快楽」「鎮痛」だ。

実は甘いもの味わうと、人は快楽を生み出す脳回路が活性化されることが分かっている。臨床研究によると、これはアルコールやアヘンなどの薬物の中毒性を媒介する回路と同じかあるいは重複している。つまり、「いい気持ちい」になるということだ。

ただし、この甘味嗜好は食物中毒と同じではないので、極度に依存するということはない。加糖の消費量は青年期以降は減少し、成人期になるとかなり減少していくことも分かっているので、歳を重ねるごとに甘いものに対する欲求は少しずつ低くなっていく。

この甘味に対する快楽的反応も「甘いもの好き」の感覚同様、多くの国や文化で観察されているので普遍的であり、子供のほうが大人より強い甘みを好むとされる。

そしてもうひとつのメリットが「鎮痛」

これも驚きだが、糖度には痛みを軽減する作用があり、これが甘味を好むことに影響していると考えられる。具体的には、乳児の口に甘い溶液を入れると、痛覚刺激に対する反応が減少するという報告があった。
この甘味の鎮痛作用は小児期を通じて持続し、子供がより濃厚な甘さを好むほど痛み耐性を高める効果があった。

しかしどんな子供でも鎮痛作用が表れるかというとそういうわけでもなく、抑うつ症状を示す子供や肥満の子供には、ショ糖による鎮痛作用は見られなかったという。分かりやすく言うと、メンタルが落ち込みやすい子や肥満気味の子は鎮痛作用が期待できないということだ。

まとめると、甘いものの摂取はメンタルを良好に保つ「快楽」と、痛みを和らげる「鎮痛」の2つの作用がある。これはぜひ覚えておいてほしい。

低カロリー甘味料の影響

次は「低カロリー甘味料の影響」について触れよう。

低カロリー甘味料とは、例えば「アスパルテーム」のような、砂糖より甘いが低カロリーな人工甘味料などを指す。
これについてもメリット・デメリットそれぞれあるが、結論から言うと、この甘味料が人体に与える影響は、研究が少な過ぎてはっきりと解明できていないのが正直なところである。

例えば、乳幼児を対象にした甘味の反応に対する研究などはあるが、これは天然由来の糖類(グルコースなど)を使って行われてきたものばかりなので、この年齢層における異なる低カロリー甘味料への味覚反応は、未だ具体的に定義されていない。それもあって低カロリー甘味料が子供に与える様々な影響についてはほとんど明らかになっていないのだ。

「低カロリー甘味料を摂り続けることで味覚がどう変化するのか」や、「それらが小児や青少年の食事の質に及ぼす影響」についての研究がまだないため、これを解明するには大規模に観察研究を行う必要がある。

ただ、徐々に判明していることもいくつかある。

まずメリットで言うと、ある研究では参加者に従来の高糖度のスイカと低カロリー甘味料を含んだ低糖スイカを提供したところ、6〜18歳の子ども、および20〜90歳の成人のチョクトー族(アメリカ先住民族の一つ)は、低糖スイカをよく受け入れ、従来の糖度の高いスイカよりも低糖スイカを好んだという結果が出ている。
つまり、低糖食品であっても、組み合わせ次第では高糖質・高エネルギーの食品より受け入れられる可能性を持っていて、食事の質の改善や体重の改善に寄与するかもしれないということだ。

一方デメリットで言うと、ある観察研究では、先ほど言った「アスパルテーム」の摂取と体重増加の間に正の相関が見られ、逆に体重を減らすために低カロリー甘味料を用いた介入研究では体重に対する一貫した効果は認められなかった。
要するに、低カロリー甘味料が肥満を引き起こす可能性があるという研究結果が見られているのだ。

なので、低カロリー甘味料について総合的に言えることは、「研究はいくかでてきているものの、具体的な定義付けから影響に至る研究の総量が圧倒的に少ないので、これを含む食品の推進はやはり慎重に進めなければならない」だ。
低糖質のスイーツも最近は増えてきているが、体に与える影響が未知数である以上、摂り続けることには注意が必要である。

甘いもの好きとの向き合い方に関するヒント

ここからは「甘いもの好きとの向き合い方に関するヒント」を紹介していく。
今回の論文の中では参考になる知見がたくさん見られたが、中でも個人的に一番興味深いと思った研究を紹介しよう。それが「甘いもの食べた後の心理的な変化」に関する内容だ。

実は甘味を感じる食品を摂取すると、身体から「感覚特異的満腹感」と呼ばれる生理的メカニズムが誘発される。これが発動すると、あらゆる甘味製品への魅力が全般的に低下することが分かっている。

また、糖分を含む食品を摂取すると、糖分の代謝作用に起因する快感の低下が引き起こされることも明らかにされている。
この、快・不快を知覚するヒトの精神生理学的減少のことを専門用語で「アリエステージア」という。

つまりここで言われていることとは、甘いものを一度食べると、その後甘いものを食べたいという欲求が低くなり、かつ快感も感じづらくなる。そして、先に栄養価のある甘いものを摂取しておけば、お菓子などの栄養価の低いとされる食品を食べる動機が自然に下がる可能性があることを示しているのだ。

なので、甘いものを食べたくなったら、お菓子より先に果物を食べるとか、ガムを噛んでみたりすると、糖分を分解する間に他のお菓子に目移りする可能性が低くなり、お菓子を食べ過ぎで太っるという事態を避けることができるかもしれない。
すごく参考になる研究だと個人的には思う。

今後必要な議論

この論文における最後の主張は、「議論すべき点が一体どこなのか」を明確にすることだ。

これまで主張から分かる通り、「低カロリー甘味料」を摂ることによる体への影響は依然としてよく分かっていない。なのでここを明らかにすることが最も重要である。

具体的には、低カロリー甘味料を使った食品はエネルギーの過剰摂取を抑えつつ甘味を維持する手段の一つ。しかしその使用は、特に発育期における子供の味覚反応や食欲などのバランスを崩してまう懸念がある。なので、この影響の有無をハッキリさせるには大規模な人数を集めた観察研究が必要になるだろう。

甘いものを手に入れやすくなった現代では、加糖の消費が増えたことによって肥満の症状を引き起こしてる。そのため甘味を欲するヒトの本能と社会の状況を考慮しつつ健康を維持するために、甘いものとどう向き合っていくかの対策を常に考えなければならない。
低糖質食品を摂取することが最適だと言える根拠があれば良かったが、残念ながらそれを証明できる研究はまだない。単に私が見つけられてないだけかもしれないが…。


まとめると、今回の論文から読みれることは「甘いもの好き」は生まれつき。無理に我慢しなくていいと言うことが一つ。

甘いものには「快楽」や「鎮痛」などのメリットがあるので、適度に摂取することは大事だということが一つ。

低カロリー甘味料にはメリット・デメリットがそれぞれ研究で分かってきているものの、ハッキリとした結論を得るには研究が足りなすぎるので、子供への影響を考える上でも早く解明する必要があるということが一つ。

甘いものとの向き合い方には、生理的メカニズムを利用した食べ過ぎの防止があるので、お菓子に手を出す前に果物やガムなどで先に甘さを感じて、お菓子を控えるやり方もあるというのが一つ。

低カロリー甘味料に関する影響で特に懸念されるのが、発育期における子供の味覚反応や食欲などのバランスを崩してまうこと。これを早く明らかにするためにも、大規模な観察研究が必要であるということが一つ。

甘みものが食べたいという感情は、人類共通でみんなが感じることなので罪悪感などは持たなくていい。ただ、食べ過ぎが健康を損ねるのは事実なので、上手に向き合うためにも、甘みの影響について知識を増やし、自分に合った食生活を構築していくのが最も重要だ。今回の話がその一助になれれば嬉しい。

今回は以上。
全ての知に「幸」あれ


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