凡人の弱点を捉えた名著『失敗の科学』

成功するためには、努力が必要であると人は言う。しかし、ただ単に努力をしろと言われてもできるものではない。努力できる成功者と挫折してしまう凡人とは何が違うのだろうか。それは失敗との向き合い方だった。

❝成功へのプロセスに「失敗が欠かせない」と強く認識しているのは、こうした成功者であることが多い❞ p290

失敗に対して前向きにオープンマインドで向き合えるかどうかが、努力を継続できるかどうか、しいては成功できるかを左右するのである。

失敗に対する組織のマインドセット

本書では、特に医療業界・航空業界を例にして失敗に対する組織・集団の向き合い方について、多くの実例を挙げながら分析をしている。

簡単に言うと、医療業界は失敗に対してネガティブであり、閉鎖的なマインドを持っている。結果として、10人に1人が医療過誤によって亡くなるという実態があるという。一方で、航空業界は失敗に対してポジティブであり、開放的なマインドを持っている。結果として、830万フライトに1回の事故という奇跡的な安全性実現している。

医療業界・航空業界ともに人の生死にかかわるリスクの高い業界である。上記の事実は、テクノロジーなどで医療業界が劣っているわけでも、人材の問題でもない。単に失敗へ向き合い方の違いなのである。

医療業界では、失敗は「恥ずべきことである」という風潮があり、失敗があった際に、関係者は自身の不手際を認めることはない。それは、隠蔽しているという意味ではない。本当に何か複雑な要因があったのだと"信じている"のだ。それは、失敗に対してネガティブな風土が問題であると著者は指摘する。そのような集団では、失敗を打ち明けても活用されるどころか自身の不利益にしかならず、無意識のうちに失敗を記憶から消してしまうということだろう。

その点、航空業界は明らかに異なる。「失敗から学ぶ」という意識づけが強烈だ。事故が起こった際には、ブラックボックスなどを解析し事故の原因究明を徹底的に行う。そして、失敗に対する組織のオープンマインド度合いが高い。パイロットはニアミスを発生日に報告すれば処罰されることがないと決められている。失敗は悪いことではなく、活かせないことが問題だという姿勢が明確であることが特徴だ。

このように組織・集団内の失敗に対する風土によって、失敗を生かせるか、学習機会を損なうか、分かれていくのである。

失敗に対する個人のマインドセット

「人は他人の失敗に対して厳しく、自分の失敗に対しては盲目的である」ことを常に自戒しなければならない。

私たちの脳は一番単純で一番直感的な結論を出しがちで、人の性格的な要因に原因を求め、状況的な要因を軽視しがちであると指摘する。この世の中の現象は、数多くの要因が複雑に絡み合って成り立っている。人が全てを理解することは困難かもしれない。そんな中で何かしらの結論を求められたらどうするだろうか。それは、理解しやすい単純な結論に原因を求めるのだ。そして、多くの場合他人の行動による要因のようである。

誰かの行動のせいにしておけば、次回からそれをしなければ解決するように思えるからだ。しかし、世界はそんなに単純でもない。

反対に自分自身については、どうだろうか。自分の行動が失敗だったと分かったとき。人はどのように向き合うのか。多くの場合、正当化に走ってしまう。心理学では認知的不調和という。

このように、人の本能に任せていると失敗から学ぶことは難しいようである。

失敗と付き合いながら成長する

それでは、失敗と向き合えるようにするには、どうすればいいのだろうか。

失敗をポジティブに捉えなおす訓練をし続けるしかないらしい。失敗と上手に向き合ってきた航空業界や、失敗から学び成功をつかんだスポーツ選手たちから学べることは、「失敗=成長のタネ」と考える大切さである。

振り返れば、幼少期から失敗せずに生きてこられた人はいないはず。たくさんの失敗を経て、一つひとつできるようになり、今に至るのである。そう考えてみると、失敗も悪くないものだと思えてくる。失敗したらチャンスが来たと思えるぐらいになれるように。

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