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中高生向けオンライン配信を成功させるための4つの観点 - タクトピアのオンライン実践記(2)

こんにちは!タクトピア代表の長井です。この記事はコロナ影響下でのタクトピアのオンラインプログラムの実践記録第二弾です。前回は、3月がぽっかり空いてしまった中高生のために立ち上げたオンライン無料配信「CHATOPIA!(ちゃっとぴあ)」について紹介しました。

私たちもオンラインでのプログラム提供については完全に初心者の状態からはじめましたが、回数を重ねるごとに独特のノウハウが言語化されてきています。これからオンラインでの授業提供が本格化する学校の先生方、教育事業者の皆様のお役に立てればと、今回はノウハウの共有をメインテーマに記事を書いていきたいと思います。

まず前提の整理

・一言で「オンライン授業」といっても学校によって授業風景の録画配信やスライドへのアテレコなどさまざまな形態がありますね。CHATOPIA!の場合はライブ配信が基本です(その後、録画をアーカイブしたWebサイトも公開しました)。ツールはZoomを使っています。
・主たる視聴者である中高生が慣れているであろうということで、学校の授業とおおよそ同じ1本50分間で設計しています。
・視聴者は基本、カメラOFFにしている場合が多く、発言もチャット機能を使うことが多いです。CHATOPIA!は参加者が固定されているわけではなく不特定多数が参加しているので家バレを警戒している、単純に恥ずかしい、など理由があるようですが、CHATOPIA!はそれでもOKとしています。

さて、私たちが実践のなかで蓄積したノウハウは大きく4つのカテゴリに分かれます。「テンション」「インタラクション」「」「可視化」です。1つずつ書いていこうと思います。

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1.「テンション」編

すでにさまざまなノウハウ記事にあるように、対面(オフライン)と比べてオンラインは話者の細かい表情や熱量が伝わりづらい面があります。加えて、話者自身が実際に緊張していたり、マイクとの距離が近いことで「声を張らなくていいか」と無意識に調整が働くことで音声が平坦になりがちです。一方、聞いている方は画面越しに相手を見る場合、むしろテレビやYouTuberを観るような期待値になっているため、ここに大きなギャップが生じる可能性があります。

気をつけているポイントとしては
・自分が思っているよりオーバーに声の抑揚をつける
・表情やジェスチャーも3割増しで大きくする
・意識的に笑顔をつくる
あたりです。

CHATOPIA!を前から順番に観ていただくと、最初のほうは私たちもまだ手探り状態&ド緊張でテンション低めだったのですが、次第にタクトピアらしい(?)遊び心とカジュアルな進行ができてきていることが見て取れるかと思います。

▼実質的な1回目である第02話「海外進路編」

▼約3週間後の第13話「感性で人生を鮮やかに」

2.「インタラクション」編

CHATOPIA!でもっとも気を使っている点かもしれません。私たちは中高生の皆さんと可能な限り双方向的にプログラムを進めていきたいと願っています。ですが、先述のとおり画面越しにコンテンツを見るという行為はテレビやYouTuberを眺める態度になりやすく、つまり受動的になりがちです。ここにもギャップが生じる可能性が大です。

気をつけているポイントとしては以下のとおりです。

・まず場をあたためることに注力
毎回、プログラム冒頭に「チャットを使う練習をするよ」と呼びかけ、回答しやすい問いに答えてもらいます。代表的には「今日どこからアクセスしていますか?」などです。毎度のことなので飽きるかと思いきや、中高生の皆さんは意外に捻った回答をしてきたりと楽しんでもらえているようです。

・話者の自己開示をする
これも結構重要なことだと思います。話者が慣れないオンライン実施で緊張したり、機器の操作に手間取ったりということは十分起こりえます。その際に硬い表情のままで無理に進行するのではなく「今日はちょっと緊張しています」とか「画面共有しようと思っているのですが…ちょっとミスりました、すみません。もう一度トライしています」など、正直に状況を説明するほうが視聴者のほうも安心して観ていられます。

・音声での発話は求めない
これは最初の想定と違いました。CHATOPIA!を始めた当初は、なんとなく大学のオンラインのゼミのような雰囲気(全員顔出し、音声でのやりとり)を想定していましたが、それは相当にハードルが高いのだということにすぐに気が付き、カメラOFF・チャットでの発言を中心にすることに切り替えました。
実は、文字ベースのチャットのほうがメリットもあります。同時に大勢の人が発言をしても進行を妨げない、意見を収集しやすい、話者が話している裏で勝手に話が(ときに脱線しつつ)広がっていくなど、ほどよいインタラクションを生み出すことができます。

・視聴者のアクションに細かく反応する
対面(オフライン)だと目線を合わせたり頷いたりするだけで出来てしまうインタラクションも、オンラインだとそうはいきません。そのため、視聴者がしてくれるアクション(チャットの書き込み、「いいね!」などのマークでの反応)を細かく拾って反応することが重要です。書き込みへの反応であれば「〇〇さん、コメントありがとう!」であったり、マークでの反応であれば「いまの話、たくさん"いいね"頂きました。嬉しい!」など。視聴者がノッてくると普通に話の内容にツッコミを入れてくれたり、その場での気付きを書いてくれるようになり、一層学びが深まります。

・話者と別にチャット対応係を設置する
上記をさらに強化しようと編み出したのが「チャットでの対応を主にする係」です。話者はそれなりに進行に責任があるため、チャットに十分気を配れないときもあります。そのため、話者とは別にチャットを眺めながら、視聴者の発言に反応したり、話者が音声で投げかけた問いをテキストにして投稿したり、話題として取り上げられた情報のリンクをチャットに貼ったりというサポートを行う係を立てています。CHATOPIA!の場合、ラーニングデザイナー達の得意分野の専門用語が思わず飛び出したり、流暢すぎる発音で英単語が出てきたり、お勧めしたい書籍の名前が挙がってきたりと、音声だけでは追いづらい状況も起こりやすいので、こうしたサポートがあることで視聴者にも安心して楽しんでもらえると思っています。

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3.「声」編

学校の先生方は発声についてはプロ中のプロですが、オンラインでの実施となると他にも注意すべき点があります。

・話すペースを普段より速めに
再三の言及になってしまいますが、中高生の視聴者の場合、画面越しにコンテンツを見るという行為はテレビやYouTuberを観る態度になりやすく、速いペースでの進行に慣れています。また、教室での受講と違って画面から受ける情報しか処理すべき情報量がないため、逆にキャパシティに余裕がある状態です(うしろの席から手紙が回ってきたり、ちょっと気になる同級生を眺めたりできませんからね)。そのため、視聴者を退屈させないためには話すペースを普段より少し速めに調整してちょうどいいくらいだと考えています。
また、沈黙は敵です。話者の全体像が見えている対面(オフライン)と違って、話者が黙ってしまうと、視聴者からは何が起こっているのか全然分からず不安になります。例えば、質問を受けて回答を考えているときには「質問ありがとう!いい質問ですねー。えーと、ちょっとどう答えようか考えています…」などと、沈黙を埋めていくのが良いと思います。
ちなみに弊社のメンバーだと、英語教育エキスパートの嶋津幸樹は普段から爆速の進行をすることで知られていますが、進行が速いために逆に生徒の注意を引きつけ続ける効果を発揮しています。彼が主導する英語学習プログラム LinguaHackers(リンガハッカーズ)もオンライン完結型に切り替わるのですが、これはまた今後の回で取り上げます。

・可能な限り複数人で進行する
これは学校の授業で実現できるか分からないのですが、話者を複数人で担当する、という方法です。上記のペースの話と合わせて、視聴者の注意を引きつけ続けるためには、話者の掛け合いであるとか異なる意見のぶつかり合いがあったほうが断然有利です。CHATOPIA!のラインナップのなかには、一人の話者がレクチャー的に話す「炎のデモデー」という形式もありますが、その場合でも聞き役(あるいはモデレーター役)としてバディの話者を立てることにしています。大仰に言えば、ソクラテスの問答法と同じ方法ですね。視聴者は聞き役に自分を投影しながら視聴することができるので、質問や発言がしやすくなるメリットがあります。

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4.「可視化」編

前項は聴覚に対する工夫の話でしたが、こちらには視覚に対する工夫の話を書いていこうと思います。良くも悪くも人間は視覚優位の情報処理をしており、一度に多くの情報を得ることができます。時間の限られたなかで情報を多く届けるには、視覚面での工夫もしていけると良いですよね。

・実物を提示する
例えば本の紹介や美術作品の制作事例など、実物をカメラで写すことで説得力が増すコンテンツの場合です。メインで使用するパソコンのカメラのほかに、もう一台携帯電話などでZoomにログインしておき、手元カメラのようにして操作できると楽です。ただし、モノを見せるときにはカメラも対象物も固定しないと、視聴者が酔いますので要注意です。CHATOPIA!でも最初のうちは、だいぶやらかした記憶があります。

・話の全体サマリを見せる
CHATOPIA!の場合、途中参加/退出も自由ですので、音声のみで進行していると話の現在地が分からず退屈してしまう可能性があります。また、そうでなくても音声のみで話の全体像を伝えることが難しいことはよくあります。そのため、一部の回で試行しているのは、いわゆるTV番組のフリップ的な位置づけでスライドの画面共有をすることです。たとえば「"好きなこと"について語る」という回では、私はマインドマップ的な一枚絵(下図)を描いてプログラムの冒頭に提示しました。画面共有のメリットは、教室等と違って物理的な距離に関係なく全員に平等に画を見せられることです。ただし、視聴者のデバイスの画面の大きさはさまざまである可能性があるため、あまり小さな文字は避けるようにしています。学校のオンライン授業の場合にはオフラインの際と同じように板書を映す手法もあると思いますが、その場合には文字が小さすぎないか事前に検証しておくと良いと思います。CHATOPIA!ではホワイトボードを使った際に照明を反射して文字が見にくいという問題も起こりました。

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ちなみに、画面共有を使う場合は画面共有している間しか画を写せません。常時写しておきたい場合は「メインとは別の機器でもログインし、その機器のサムネイルを写したい画像に設定する」「話者のバーチャル背景として写したい画像を設定する」などの工夫も考えられます(下図は第12話「真面目じゃない学び」の回の際、話したい話題を背景画像にリストアップしていた例です)。

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いかがでしたでしょうか。学校の授業とは前提が違うところも多くあると思いますが、何点かでも参考になる内容があれば幸いです。

次回は話を本筋に戻し、CHATOPIA!に続くオンライン実践の事例を述べていきたいと思います。